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妖精のことがら  作者: 岡池 銀
序章
4/20

序章 その四

今回は少し長めです。

それでも5〜6分で読めると思います。

楽しんでいただけると幸いです。

 炊飯器にお米を移して、後は帰ってからにしよう。

 お財布オッケー、手提げカバンオッケー、鍵も持った。

 それじゃ、香奈を呼びに行こう。

 一階へ降りてインターホンを鳴らす。

「紅太? 今降りるから待っててね」

「うん、エントランスで待ってる」


 香奈は、僕がこのマンションに引っ越してきた時には、もうこのマンションに住んでいた。

 聞くところによると生まれた時には、既にここの住人だったらしい。

 香奈は引っ越してきたばかりの僕にマンションのことや、この町のことを教えてくれた。

 初めての環境で、不安だった僕の手を引いて、案内をしてくれた。その時の香奈の背中は、同い年のはずなのに大きく、大人びて見えた。

 そんなこともあってか、僕の香奈への印象は従姉妹のお姉ちゃん。どれだけ可愛くても恋愛対象にはならない。

 ちなみに、一回だけ「香奈ねぇ」と呼んでみたら、恥ずかしいからやめてと言われて今に至る。

「おっまたせ〜。今日は環だけ?」

「うん、だから帰ってくるのは五時半を回りそう。門限は大丈夫?」

「一応六時までは大丈夫。なんだけどちょっと早すぎるよね〜。こちとら青春真っ盛りの高校生だって言うのに…」

「一回交渉してみたらどう?」

「門限延ばしてって、言ってはみたんだけどね。ダメだった」

「…まあ、その代わりに事前に連絡してたら、十時までは大丈夫になったけど」

「それなら普通くらいなんじゃない?」

「そうかもしれないけど、せっかく高校生になったんだし、もっと夜遊びとかしてみたい!」

「まあまあ、香奈を心配して言ってるんだと思うよ?」

「そうなんだろうけどさ〜」

 香奈が不貞腐れる。可愛いのにもったいない。

「ほらほら、買い物行くよ」

「っと、ごめんね。行こっか」

 切り替えが早いのは流石だ。

 

 スーパー環までは自転車で片道十分ほど。全体的に黄色い建物で、二十四時間営業。深夜に前を通ると目が痛いくらいにライトアップされている。

 …まあ、深夜に環に行くことなんてないのだが。

 何故、知ってるかって?旅行の帰りで前を通ったことがあるからだよ。

 そして環にくると…

「おっ、いらっしゃい、紅太くん!」

「こんにちは、環のおじさん。今日も元気だね」

「おうよ、店長が元気ないと店員さんが笑顔になれないからな!」

 このおじさんはスーパー環の店長の環浩明(たまき ひろあき)さん。

 百八十以上ある身長、筋骨隆々な身体、小麦色の肌。

 見た目に違わない力強さで、町内会の開いた「腕相撲大会」では無敗のチャンピオン。

 未だかつて、彼を打ち破った者はいないらしい。

 これで奥さんと娘二人がいるのだから隙がない。

 ちなみに長女の沙希は、同じ中学の同級生で、今は別の高校に通っている。

「今日は香奈ちゃんも一緒か!仲良いね〜!」

「おじさん、僕と香奈はそんなんじゃないよ。何回も言ってるでしょ?」

「そうです! あたしと紅太はただの友達なんです!」

「わかってる、わかってる」

 豪快に笑いながら僕の肩を叩く。

「痛い痛い! 力強すぎるよ!」

「すまんすまん。でも、逆に紅太くんはもっと鍛えた方がいいんじゃないか?」

 大きなお世話だ。これでも自宅でできる範囲で筋トレはしている。全然変わらないのはきっと体質のせい。

「まあ、ゆっくりしてってくれや!」

「そうさせてもらうよ」

 環のおじさんと会話するだけでダイエットになりそうだ。その証拠に既に少し疲れている。

「おじさんは相変わらずだったね」

 香奈も少し疲れているみたいだ。

「そこがおじさんの良いところだと思うけどね」

 切り替えていこう。

「さ、早く買い物済ませちゃおっか」

 十七時まで後、二十分。卵以外を見に行っても十分に間に合う。

「香奈は何を買うの?」

「えっと、卵、ほうれん草、鶏モモ肉、玉ねぎ、お豆腐」

「親子丼かな?」

「多分ね」

 作ったことがある料理なら、食材を聞くだけで何を作るか、わかるようになってきた。

 これも今の生活の副産物だろう。

「ほうれん草は何に使うの?」

「おひたしじゃない?」

「なるほどね」

 一種類だけ教えられてもわからないのが伸びしろか。

 と、思ったけど流石に食材一種類で何を作るか、わかる人は少ないんじゃないか?

 って、話していたら、買いたい食材も残すところ卵だけとなった。

「ちょっと早く来すぎちゃったかもね」

「間に合わないよりはいいんじゃない?」

「それもそうだね」

 卵が買えない方が悲しい。

「持て余しちゃうけど、待っとこうか」

 十分くらいなら、まだ待てる。色々見て回っていたら、すぐだろう。

 

「やっぱり環は(なま)の食材が安いのがいいよね。ただ、冷凍食品は業務用…」

「ね、ね、紅太」

 香奈が言葉を遮ってくる。

「ん? どうしたの?」

「さっきすっごく綺麗な人がいた!」

「え、どこどこ? どんな感じの人?」

「あっちの棚の間から、ちょっとだけ見えたんだけどね。金髪の外人さんで、横顔しか見えなかったけどすっごく綺麗だったの! 服装からして名家のお嬢様じゃないかな」

「お嬢様もスーパーに来るんだね。というか、この町に外国人が居たんだね」

「うん、それもビックリだよね! また会えないかな〜」

「香奈がそんなに言うならよっぽどの美人さんだろうね。僕も一度会ってみたいな」

 可愛いもの、綺麗なものに目がない香奈だが、こんなに興奮するなんて珍しい。

 香奈のお墨付きなら期待値大だ。

「今日のタイムセールは卵だよ〜! じゃんじゃん買っていってくれな〜!」

「タイムセール今からだって。行こ、香奈」

「五分早かったね。思ったより待たなくて良かった〜」

 早足で卵コーナーに行く。そこには、カートを押す環のおじさんがいた。

「おじさん、僕と香奈で一パックずつちょうだい」

「お、紅太くん達はやっぱり卵狙いか。はい、卵だ」

「ありがと、おじさん。それじゃ、お会計済ませたら帰るね」

「おう、また来てくれよな」

 会計を済ませて、持ってきた手提げカバンに買ったものを入れる。

「ねぇ、紅太。卵ってさ、袋詰めする時に下の方か、上の方、どっちの方に入れたら割れにくいのかな?」

「わかんない。けど、僕はカバンの下の方に入れてるかな」

「じゃあ、あたしもそっちにする」

 実際、どっちが割れにくいんだろう。後で調べてみよう。

 用も済んだし、早く帰ってご飯を作ろう。

 五月だからこの時間はまだマシだが、それでもすぐに暗くなる。早く帰るに越したことはない。香奈もいるしね。

 少し速めに自転車を漕ぐ。もちろん、香奈がついてこられるくらいのスピードで。

 落ちる太陽を左手に受け、僕たちは帰路をゆく。

 ふと、空を見上げる。

 雲は一つも見当たらない。

 多分、明日も晴れるだろう。

 帰る家はもう目の前だ。

「買い物に付き合ってくれてありがとね」

「いいのいいの。私だっておつかい頼まれてたし。それに最近は物騒だからね」

 エレベーターが四階に止まる。

「また明日ね」

「うん、また明日」

 香奈と別れて部屋に急ぐ。

 手を洗ったら食事の支度だ。

 炊飯器のスイッチを入れる。

 ワカメを水で戻し、豆腐をさいの目切りに。

 ……したところで思い出した。

 今日の美術で絵の具が切らしたんだった。今日買っておこうと思っていたのにすっかり忘れてた。

 どうしよう。百均は環よりももうちょっと遠い。明日必要ってわけじゃないけど、多分、次の美術までには忘れてるだろう。

 ワカメは水につけておいても大丈夫、か?

 豆腐はそのまま冷蔵庫に入れて、他の食品も冷蔵庫に入れればいい。

 ご飯も保温が効く。

 …行くか。忘れ物して減点されても面倒だ。

 鍵とお財布は持った。香奈は誘わなくても大丈夫だろう。迷惑かけるのも嫌だし。

 きっと大丈夫。

 絵の具を一つ買うだけだ。

 物騒だなんだと話していたすぐ後で、事故や事件に巻き込まれるなんて、創作の世界じゃないんだから。


また妖精が出ないのですか。

実は当初の予定では、この話から一章の予定でした。しかし、日常パートが長引いたため、まだ序章です。

次の話では妖精が出ます。

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