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妖精のことがら  作者: 岡池 銀
序章
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序章 その三

本日も「妖精のことがら」を選んで下さりありがとうございます。

今日の話はキャラ紹介や舞台紹介にあてました。

楽しんでいただければ幸いです。

 先生をそのままに、帰りのホームルームが始まる。

「最近、事故や事件に関するニュースがよく報道されています。それにこの町でも一昨日、北の林で爆発事故が起きています」

「くれぐれも事故や事件に巻き込まれないように、また、当事者にならないようにしてください」

「私からは以上です」

「起立、気をつけ、礼」

 委員長の号令。一斉に椅子を床に擦りながら動かす。喧しい音が鳴る。

 今日の授業も終わり、各々がそれぞれの目的地へ行く。

 ある生徒は部活動へ。

 ある生徒は生徒会や委員会へ。

 ある生徒は当番である掃除場所へ。

 ある生徒は一人で、或いは複数人で帰路へ。

 僕や清はというと、

「じゃあ、先に帰るな」

「うん、また明日ね〜」

 清は学校が終われば、すぐにアルバイトに行く。

 帰る方向は逆だから、アルバイトがない時に一緒に帰れるわけじゃない。

 だけど、一人で帰る清の背中を見ると少し寂しくなる。中学の時は毎日一緒に帰っていたからだろう。

 清は片親だ。少しでも家計を助けるために、中学を卒業して、すぐにアルバイトを始めたみたいだ。

 ……事故だったらしいけど詳しくは聞いていないし、別に聞かなくてもいいことだ。

 

 さてと、僕は僕で一緒に帰る香奈のクラスに行かないと。

 と、言っても香奈のクラス、四組は僕のクラス、三組の隣で、玄関との間にあるから、そんなに大層なことでもない。

 考えてる間に号令が聞こえてきた。

 三組の生徒達が二つの出入り口を目指してぞろぞろと歩いてくる。

「おまたせ〜紅太。それじゃ、帰ろっか」

 この子が僕の幼馴染で、ご近所さんの女の子、田村香奈(たむら かな)

 ノリが軽いが、基本的に真面目で、面倒見が良い。清に絡んでくる唯一の女子だ。

 ここ最近の成長が著しく、百七十センチはないにしろ、それに迫るくらいの身長がある。

 僕? 僕は四捨五入で切り上げて百六十センチはある。

 決して低くない。それにもっと伸びるはずなので全然問題ない。

 ……それと、香奈は大きい。

 同年代の中でもかなり大きいのではないだろうか。おかげで目のやり場に困る。

「川澄くんは?」

「清なら先に帰ったよ。今日もアルバイトだったと思う」

「そっか……。それじゃ仕方ないよね」

 香奈の表情が少し曇る。

 香奈に直接聞いたわけではないが、多分、香奈は清のことが好きだ。

 僕としては、幼馴染の恋路を応援しないわけがないんだけど……。

 清は香奈の気持ちを知ってか知らずか、少し距離を置こうとしているみたいだし、香奈は香奈で、清の家のことで遠慮しているみたいだ。

 これが一年近く続いているのだから、どうにも焦れったくてむず痒い。

 早く付き合えばいいのにと思うのだが、こればかりは本人達次第だ。

 オルゴールの単調な音が僕のポケットから聞こえてくる。母さんからの着信かな?

「もしもし、秋野です」

「あ、紅太?もう授業終わってるよね?」

「うん、終わってるよ。いつもの?」

「そう、お願いできる?」

「いいよ。今日も遅いんでしょ?」

「ごめんね、紅太。それで買って欲しいものなんだけど、小松菜、水菜、お豆腐、豚バラ肉、卵。卵は十七時からタイムセールだからそれで買っててね」

「メモしたよ。環でいいんだよね?」

「うん。レシートは忘れないでね。テーブルに置いてくれたら精算するから」

「わかった、わかった。最近物騒みたいだから、あまり帰るの遅くならないでね」

「それはお互い様でしょ? それじゃ切るからね」

 通話が切れた。

 さっきの相手は僕の母さんの秋野楓(あきの かえで)。いつも明るく、楽観的で、優しい人だが、怒らせると怖い。

 手こそ出してこないが、笑顔のまま、静かに怒りを表してくる。

 会社員であるが、何をしているかも教えてくれない。

 ただ、朝早くに出勤して、夜遅くに帰ってくるため、家事・炊事は僕に任せてくれている。

 ……僕の仕事ではあるんだけど、少しでもおトクに買って欲しいのか、さっきみたいに口出ししてくる。

 休日にはチラシを読みふけってるような人だしね。それも仕方ない。

「今日もおつかい?」

「うん。でも買い物に行くのは一旦帰ってからかな。スーパー(たまき)なら自転車で行くほうが楽だし」

「そう?じゃあ、出る時誘ってくれない?」

「わかった。立ち話もなんだし、とりあえず帰ろっか」

 最近物騒だからって、僕一人でも大丈夫だと思うんだけどな。

 玄関で靴を履き替え、外に出る。

 教室と玄関が近いのは便利だ。遅刻しかけても間に合うんじゃないかという安心感もある。

「端っこの教室の人は大変かもね」

「そりゃそうよ。それを言うなら、三年の一番端っこが一番大変じゃない? 遅刻の未遂犯は毎日息切らしながら登校してると思うわ」

「あー……それは大変そうだね。ちゃんと早起きしなきゃね」

 そんなことを言いながら二人で歩く。

 

 僕達が通う潮高校(うしおこうこう)は、潮市の中央付近に位置する公立高校で普通コースと国際コースの二つのコースが選べる高校だ。

 と言ってもコースを選べるようになるのは二年に上がってからであるが。

 この高校を選んだ理由は、公立高校だからってこともあるけど、一番は徒歩十五分〜二十分で登校できるくらいに近い場所だからだ。

 通学費用とか馬鹿にならないしね。できる限り負担かけたくないもんね。

 自転車通学もできないことはないが、学校の駐輪場を使うために鑑札を貼らなければならず、一枚何百円らしいので自転車通学は見送ることにした。

 

 そんなこんなでマンションの前だ。僕と香奈はこのマンションの四階と六階に住んでいる。

 ちなみに部屋は五階を挟んで真上と真下。僕の部屋が四階で、香奈の部屋が六階だ。

 ついでに言っておくとこのマンションは六階が最上階なので、香奈はこのマンションでは一番高いところに住んでいることになる。高所恐怖症なのにね。

 だから、廊下を歩く時は外を見ないようにしているらしい。

「それじゃ、また後でね〜」

「うん、また後で」

 帰ったら着替えて、掃除して、夕飯の準備かな。課題は夕飯の後にしよう。食べて、片付けしてからでも十分に間に合うはずだ。

 掃除をする。

 和室、リビング、廊下、その他。化粧台や机、本棚、そして仏壇も。

 僕が小さい頃に亡くなったらしい。顔も覚えていない。覚えていないけど、僕はよく懐いていたみたい。

 女手一つで、僕を育ててくれる母さんを楽させたくて、こうして手伝いをしているわけだ。

 そろそろ時間か。お米を研いで買い物の準備をしよう。

妖精が姿を見せることなく、それでも「妖精のことがら」を名打つのですから、次の話こそは妖精が出てきます。

今回もお疲れ様でした。

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