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私、酸素拾います!  作者: メケ
サイモンの章・その5
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サイモンの章・その5 第一話 観戦

「エセフェルだ。皆さんよろしく頼む」

 ウォータールームの中に入ってきたエセフェルは触手を掲げて挨拶をしている。


 五本の触手、いや、指だろうか。俺たちに挨拶をしているという事はあれが手なのかもしれない。

 女の声だが、どう見ても変な色のタコを頭から被った怪人だ。

 頭はさておき、足や手など人のような形はしているが、指がタコの触手に置き換わっている。


 可愛いマスコットキャラになれると吉田博士は言っていたが、それにはかなり厳しい造形をしている。

 タコのような頭部には長い触手が足下まで垂れ下がっており、その下に隠れるように人間の鼻がちらちらと見える。


「俺はサイモンだ、よろしくな」

 俺は手を伸ばし握手をした。


「いい顔つきだな。戦士の顔だ」

「!?」

 エセフェルは俺の手を力強く握り返してきた。


「ちょっと強すぎねえか」

「力試しだ。少し遊んでくれないか?」

「くっ……」

 気を抜いたら一瞬でへし折られそうな馬鹿力に俺は顔をしかめざるを得なかった。

 思えば勇気隊長も馬鹿力だが、このエセフェルとかいう女も大概だ。


 反撃といわんばかりに俺も握力を強めていくと、

「ルルルカです。こんにちは」

「やあ、可愛い女の子がいるじゃないか」

 ルルルカがエセフェルと話をし始めたようだ。

 エセフェルは俺から手を離し、ルルルカと会話を始めている。


 エセフェルたちが希望している、俺たちのシェルターへの移住についてだが、俺は肯定的だった。

 仲良くしておけば白人たちの対抗策になるし、多数の移民によってカースト制度の崩壊もより早まるかもしれない。

 すべては無い頭で考えた打算的な思惑だ。

 エセフェルは俺の思惑に勘付くのだろうか。


「みんなも気になっているだろうが、タコの部分は外側だけだ。たくさん目があるから顔のようにも見えるが、本当の顔は頭部の触手の内側だ。まあ、中は見せないがね」

「いいじゃねえか。見せてくれよ」

「それは困るな。私たちは裸なんだよ、サイモンくん。顔を見せようとすると、殿方にはあまり見せたくない部分が見えてしまう可能性がある」

「なっ……早く言えよ」

 まるで俺が変態みたいじゃねえか。


 それにしてもエセフェルのしゃべり方はラッシュフォード博士にそっくりだった。

「ルルルカくん、というわけで私たちは女同士だ。私を見せてやろう。サイモンくん、覗いてくれるなよ?」

 気になるが俺は目をそらした。

 気になる。見たい。エロさとか除外して、本当に見てみたい。


「うわっ、えっ……すごっ……ええ?」

 ルルルカの驚いたような困惑したような声が聞こえる。


「ルルルカくん。手つきがいやらしいぞ」

 なんだろう。何がすごかったんだろう。恥を忍んで俺にも見せてくれといった方が良かっただろうか。


「サイモンくん、視線を戻して良いぞ」

 全身の目を細め、どこかうれしそうなエセフェルがルルルカの隣で俺に手を振っている。


「サイモン隊長。私は嫉妬しました。私は女としてっ……激しい嫉妬を覚えましたァ!」

 エセフェルの裸を見たルルルカが、般若のような形相をして俺に顔を向けている。

 エセフェルは美女なのだろうか? それともスタイルが抜群だとか。ああ、気になる。見ちゃダメだと言われるほどに見たくなる。


 だが、容姿と言われてもハダカデバネズミとタコの遺伝子を組み込まれているから獣的な可愛さなのか判断が分かれるところだ。


 女は自分より容姿が劣っている相手でも、人前であれば仲良く出来るし、褒める事が出来る。

 ブスを「可愛い」と褒め、ただのデブを「巨乳」と言ってのける面の皮の厚さは俺も見習うべきだろう。

 表面上なら幾らでも取り繕えるから、良くも悪くも女は怪物だ。


 それを理解した上で、俺は女と友人や仲間として付き合う事にしている。


 その点、男はわかりやすい。好き嫌いがはっきりしてる。

 好きだったら仲良くするし、嫌いになったら口も聞かない。

 仲の悪い他の部隊の隊員たちも俺は口をきかないし、そういうことだ。


 それを含めると、ジェシカは一体俺のことをどう思ってるのだろうか。

 出会った頃は俺の方がかなり取り乱して、冷たい態度を取ったから嫌われてるかもしれない。

 だが、当たり障りのない態度を取ってくるし、今の状態が一番良いのかもしれない。


「ん、どうした。そうか……対処を頼む」

 エセフェルが張り詰めた声で、喋っている声が聞こえる。


「どうかしたんですか?」

 ジェシカは気になるようでエセフェルに語りかけていた。


「エイリアンが来たらしい。十匹のほどのアリ型だ」

「私も応戦しましょうか」

 ジェシカがエセフェルに提案をしている。


 確かにエイリアンの力は強力だ。

 幾らサバイバルウェアを着た俺でさえ戸惑う握力を持っていたとしても、生身よりはアヌビスで戦った方がいいとジェシカは思っているのかもしれない。


「やめとけジェシカ。踏み殺したらどうする。エセフェルたちは擬態すれば目に見えないんだぞ」

 エセフェルの答えを聞く前に、俺は援護の中止を求めた。


 せっかく仲良くなったのに、ジェシカが同士討ちをしてエセフェルの反感を食らったら、俺たちはエセフェルたちに殺されるかもしれない。


「サイモンくん。君はなかなか冴えてるな。出来る事なら、か弱い彼女たちのために降りて手解ほどきしてもらいたいところだ。しかし、サイモンくんが下に降りるまでの時間がないようだ。今回は私たちの実力を見せる事にしよう。モニターから観戦してくれ」

「おう、わかった」


 観戦。


 そう語るにはあまりにも一方的すぎる殺戮が始まった。

 擬態を活かした彼女たちは、その腕力でアリ型の足をもぎ、戦闘不能にしていく。


 手際の良さからしておそらく複数人で一匹を撃破しているのだろう。

 三分後には、動けなくなったアリ型のエイリアンがヒクヒクと触角を動かすだけの死地となっていた。


「敵はいなくなった。進もう」

 エセフェルは何事もなかったかのように提案してきた。


「そ、そうですね」

 ジェシカも戦闘の手際の良さに驚いているのだろう。


 ジェシカは再び、俺たちのシェルターに向けて進み始めたようだ。

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