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私、酸素拾います!  作者: メケ
ジェシカの章 その4
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第十話 Eレバー

 その瞬間、コックピットのガラス越しに青い閃光と火花が散った。


 目の前に突如として人とタコを合わせたような生物が現れ、煙を放ちながら硬直している。 高圧電流によって、擬態が解けたのだろう。

 体の至る所で皮膚が裂け、皮下の黄色い脂肪が露出していく。

 タコ人間は体液をまき散らしながら、白い煙をブスブスと上げながら焼け始めた。


「うわあああああ、吐く、吐く、吐く、吐く!」

 私の居るコックピットのすぐ目の前でタコ人間が音を立てながら踊り焼きをしているので、アヌビスがより鮮明に音を拾ってくれる。

 吐き気のする光景と音声に、私はたこ焼きを思い出すことで事なきことを得た。


 青い閃光が収まると、電撃攻撃の終了の合図だ。

 コックピットの上で感電していたタコ人間はアヌビスの上から地面に向かってゆっくりと崩れ落ちていった。


 閃光もなくなり、吉田博士の手術を受けたタコ人間の容姿が、モニターからしっかりと観察できた。

 炭化しているタコ人間をじっと見ていると、思ったよりも人間にそっくりで吐き気がしてきた。

 もし、吉田博士が私たちのシェルターにたどり着いたら全員がこんな姿に変えられてしまうんだ。なんともむごい。


 焼けたタコ人間は地面の上で、胃の内容物を吹き出した後、ピクリとも動かなくなった。

 灰白色の皮膚は人間離れしているが、髪の毛のように頭頂部から伸びる触手の下には人間の顔があった。感電で顔全体が赤く腫れ上がっているが、女性である事は識別できる。

 それにしても、女性でアヌビスのコックピットが割れそうな一撃を放てるとは、男性のタコ人間ならいったいどれくらいの一撃なのだろう。


「あれ? ジェシカお姉ちゃん。なんだかアヌビスの調子がおかしいよ」

「そう?」

 私はデバイスを起動して、Eレバーの項目を読み始めた。


 そこには「Eレバーを倒すのは一瞬だけで良い。倒したらすぐ戻すこと。最後までエネルギーを使うと放電によってアヌビスの機能が著しく低下する」と書いてあった。


 やっちゃったあああ!

「そんな事はない。絶対にない。さ、歩くわよ」


 奴隷ちゃんお願いだから、余計なことを言わないで。隙だらけだという事を知られたら、殺されてしまう。


 そういえば前にEレバーについて聞いたことがあるような気がしたけど、私はパワハラで尉官用しか乗れないから適当にしか話を聞いていなかった。


 デバイスには、スティーブン大佐の遠征で亡くなったブラウン中佐もそれが原因で多口型のエイリアンに船外まで引きずり出されて殺されてしまったと書いてある。

 機動性を失い、Eレバーが起動できないのは非常にまずい。


 更にEレバーの項目を読み進めていくと、アヌビスにエネルギーが溜まれば元通りにアヌビスが運用できると書いてある。

 アヌビスが元に戻るまで耐えるしかないだろう。


「私、運転が下手くそになっちゃった。どうして?」

 奴隷ちゃんは機動性を失い慌てている。


 サイモンとルルルカちゃんをウォータールームに収容している以上、私のアヌビスは派手な動きは出来ない。

 一方、奴隷ちゃんは吉田博士しか乗ってない。


こんな事になるなら奴隷ちゃんにはウォータールームの水を抜いた後に、凸凹でこぼこ道を全力疾走してもらえばよかったかもしれない。奴隷ちゃんのアヌビスに乗っていたシェルターの住人たちは振り落とされるし、ウォータールームルームで余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の吉田博士も遠心力で瀕死状態になってたかもしれない。


 だが、経験の浅い奴隷ちゃんがエイリアンの居る荒野に突っ込んで行くのは危険な賭けだ。

 それにすぐに吐き気を訴えるルルルカちゃんが乗っている私のアヌビスは取り残されるだろう。移動速度の遅い私は格好の的だ。やはり奴隷ちゃんにいてもらわないと私が死ぬ。そしてウォータールームにいるサイモンたちも酸素がつきて死ぬだろう。


 切羽詰まった状況での判断だが、私の頭ではEレバーを引いた事が正解だとしか考えつかなかった。


 後悔しようとも引いてしまったのだから次を考えるべきだ。

 次の電力回復まで機動性など有って無いようなものだ。ならば、機動性など無視してハッタリをかましていくしかない。


「貴様ら、私の大事な実験体だぞ。今ので十八人が死んだんだぞ。一生懸命手術したんだ。貴様らには血も涙もないのか! 人類の進歩が遅れた。私は涙が出てくるぞ」

「擬態してるので貴方が本当に泣いているかなんて分かりません。十八人だなんて、どうせたくさん居る成功した実験体のうちの一部でしょう?」


「ふざけるな、このサイコパスめ。五十二体しか居ないんだぞ。素質がある奴を選別して、難易度の高い手術を何百人も何千人も施して、やっと……やっと五十二人だ。頑張ったんだぞ! 私の功績がお前には分からないというのか?」

 ああ、この人。めて欲しい人だったのか。


 自分の研究結果で、シェルター内の公序良俗こうじょりょうぞくが徹底的に破壊されたため、最初こそは褒められたであろう彼も、犯罪の片棒を担いだ人間とののしられていたのだろう。


「どうしてどいつもこいつも私の事を認めねえんだ。私は裸で外に出ても生きていられるんだぞ。人類に新たな栄光を、理想郷マグメルを与えられる、神にも等しい存在だというのに!」

 そんな彼は今となっては、承認欲求の塊となっていた。


 誇大的で独善的な彼は相手の立場になって考えることが非常に困難なようだ。

 そのおかげで敵の数が五十二人で十八名死亡したという情報が得られた。

 フェイクでなければ、吉田博士もあわせて、残り三十五人の敵がいるということだろうか。


 次のEレバー発動まで時間を稼がないと、また攻撃される可能性がをある。もう少しおしゃべりでもした方がいいだろうか。


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