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私、酸素拾います!  作者: メケ
ジェシカの章 その4
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第八話 吉田博士

「奴隷ちゃん、落ち着いて聞いてね」

「何?」

「奴隷ちゃんのアヌビスのウォータールームには、吉田博士が居るわ」

「吉田博士っ!?」

 奴隷ちゃんの悲鳴に近い声が通信機を通して聞こえてきた。


「嘘だろ、いつからいたんだ。シェルターの入り口にいた奴が吉田博士じゃないのか?」

 サイモンは驚愕し、整理が付いていないようだ。

 無理もない。いつの間に侵入したのか私にも分からない。


「吉田博士? 人体実験するおじさんだ。怖い、怖いよぉ! エセフェル助けて!」

 奴隷ちゃんもまさかの事態に、怯えている。

 どうやらタコのお姉さんに吉田博士のことは聞いているようだ。


「ジェシカちょっと待て。奴隷ちゃんの方のウォータールームには何もないんだろ。脱いだサバイバルウェアも何もない。ってことは奴は裸だ。どうやって入ってきたんだ」

 サイモンは私の発言を聞いて疑問を呈した。


 確かに人間は真空状態にさらされると十五秒程度で、唾液が沸騰する感覚を味わいながら意識を失う。過去の事故データにはそのように記されている。

 いったいどうして吉田博士は乗っているのだろう。それに水の中だ。えら呼吸をしているとしても、血に濁った水の中を生きていけるのだろうか。


「ねえねえ、どうしたらいいの? 人殺しが乗ってるんだよ。降りてもいい?」

 奴隷ちゃんは怯えながら尋ねてきた。

 奴隷ちゃんの反応は正しい。むしろその幼さで、よくパニックにならずにいる。


「そうだね、奴隷ちゃん。まず降りて……」

「やめましょう、ジェシカ大佐補佐。いやな予感がします。下ろすのは危険です」

 私の指示に、ルルルカちゃんが待ったを出した。


「どうしたの、ルルルカちゃん」

「サバイバルウェアが室内に存在しないというのなら、どうやってパニックルームの中に入ったのか二つ可能性が考えられます」

「是非とも教えて」


 ルルルカちゃんの兄であるマサルさんは、参謀と呼ばれていた。

 あまり関わることはなかったが、参謀と呼ばれる以上頭の切れる人間だったのだろう。

 参謀さんの妹と言うことで、私は傾聴けいちょうすることにした。


「一つ目は元からアヌビスのウォータールームにいたパターンです。ラッシュフォード博士が追っていた吉田博士は偽物だった可能性があります。各シェルターにアヌビスはあるでしょうから、私たちより先に奴隷ちゃんのアヌビスに侵入してラッシュフォード博士を殺害した可能性があります」


 アヌビスはシェルター内の武器庫アーセナルで専門的で巨大な機械を使って修理や解体が行われる。

 奴隷ちゃんは自分のアヌビスにロックを掛けていた。ロック状態の外部遠征用アヌビスを起動するには私たちのシェルターの少将以上が持つことを許されるマスターキーを使用しなければ、アヌビスを動かすことは不可能だ。


 すなわち、吉田博士が、奴隷ちゃんのアヌビスに内蔵されたウォータールームをこじ開けることは不可能だ。

 だが、そのように否定できるのはあくまでアヌビスを操縦できる白人の私だからいえることであって、ここで異論を出してはいけない。

 ルルルカちゃんの自由で柔軟な発想をむげにすればこの危機的な状況は打破できない可能性もある。


「二つ目の可能性として考えられるのは、私たちの背後についてきたということです」

「背後に? サバイバルウェアは見えなかったわ」

 私は思わず、疑問を呈してしまった。


 もし本当に後ろを追跡してきたというのなら、サバイバルウェアを着た状態で私たちの背後をとり、視線をくぐり抜けて、ラッシュフォード博士と一緒にウォータールームに侵入し、博士に声を出させずに殺害した。

 これが平然とやってのけられたのだ。あり得ない。絶対に気づくだろう。


「私たちの目に映らないままウォータールームに侵入する方法があるんです」

「!」

 いったい何があると言うんだろう。人間には出来ない所業だ。

「その方法とは?」

 私はルルルカちゃんに次の言葉を促した。


「サバイバルウェアを着ないで、擬態したまま私たちの後を追いかけてきたんです」

「……」

 それが出来たら人類は苦労しないだろう。エイリアンとこの過酷な環境さえなければ、私だって地上に家を建てて暮らしたい。いや、まてよ、まさか……


「もしかしてラッシュフォード博士の研究を?」

「考えられる方法はそれしかないです。吉田博士はラッシュフォード博士と共同研究していた技術を完成させたんですよ。エイリアンたちのように外で活動できる体を手に入れたんです」

 だいぶ突飛な話だが、それなら説明がつく。

 よく考えれば外部連絡室でラッシュフォード博士が射殺したタコ型の怪人も、ドアを開けると同時にラッシュフォード博士が射殺した。

 恐らく彼らは外部の環境に耐えられるのだろう。


 元々ラッシュフォード博士と吉田博士は人間が外の環境にでても死なないようにするための研究を行っていた。研究が成功すればもちろん外の環境に適応できる人間がいても不思議ではない。

 あくまであれを人間と呼ぶのであればの話だが、可能性は十分にあり得る。

 私はモニター越しに微笑む異形の悪魔を睨んだ。


「ジェシカ大佐補佐。サーモグラフィーや音波観測機がアヌビスに付属しているのならば、周囲の状況を確認してください」

 ルルルカちゃんの指示通りに周囲を観測すると、無数の熱源反応と、音波の反応があった。

 私たちの周りを何者かが取り囲みながら私たちの進行方向に進んでいる。


 目視で周囲を確認したが、何も見えない。

 だがアヌビスに載せられた観測機たちは確実に周囲の生命体を観測していた。


 もし、奴隷ちゃんをアヌビスの外に出していたらいったいどうなっただろうか。

 考えただけで鳥肌が立つ。


「ルルルカちゃん。外にも誰かがいっぱい居るわ。数は五十くらいだと思う」

「まさかの事態ですね。私たちは脱出できたのではなく脱出させられたんですね。ジェシカ大佐補佐、どうにかなりませんか」

「攻撃手段としてアヌビスの尻尾があるけど、向こうは私たちを攻撃するつもりはないみたいね。おそらく私たちのシェルターまで付いてくるつもりよ」

「なおさら対策を取らないといけませんね。ジェシカ大佐補佐、尻尾で追い払ってはいかがですか?」

「下手に刺激するのは良くないです。アヌビスにも弱点はありますので」

 

 ウォータールームに人を乗せている以上、激しい行動は出来ない。

 ましてや酔いやすいルルルカちゃんが居るので、非常に不利な状況に私たちは置かれている。


「慧眼だよ。その通りだ、ジェシカ大佐補佐殿」

 余裕ある低い男の声が通信機に紛れ込んできた。

 この声は私たちが六十七番シェルターに侵入した際に聞こえた男の声だ。


「もしかして吉田博士ですか?」

「ご名答。君たちは余計なことをせず我々を君たちの基地まで運んでくれればいい。もし運ばない場合は……おっと、人質にするつもりが殺してしまったよ。誰だったかな、もう顔の原形をとどめてないんだよね」

 クフフフ、とこぼれるように吉田博士は笑っている。


 私はこの悪魔を倒すべく、会話をして弱点をあぶり出すことにした。

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