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私、酸素拾います!  作者: メケ
ジェシカの章 その4
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第二話 生存確認

「奴隷ちゃん、聞こえる? 応答して」

「……」

 かすかに息のような音が聞こえる。


「奴隷ちゃん、聞こえる? 返事をして」

「ん……んがっ?」

 寝起きのような声が聞こえる。奴隷ちゃんなのだろうか。


「奴隷ちゃん?」

「たい……ジェシカお姉ちゃん?」

 確かに奴隷ちゃんの声だ。

 私は生存していたことに対する喜びで視界が少しおぼろげになった。


「よかった。奴隷ちゃんを助けに来たの」

「ジェシカお姉ちゃんありがとう。私ね、今は地下五階にいるの」

 ルルルカちゃんの読み通り、奴隷ちゃんはこの階にいる。


「今もね、この階にタコのお化けとゴリラお化けがいるの。助けに来てくれる?」

 タコのお化けはまだ見ていないがエイリアンだろうか。何にせよ奴隷ちゃんを早く助けないと命が危ない。


「分かったわ。地下五階のどこにいるの」

「農業部だよ。ここ、暖かいの。トノサマバッタもいるよ!」

「今から向かうわ」

 私は通信を一度切り、みんなと顔を見合わせた。

 どうやら栄養は摂れているようだ。声に衰弱が見られるが、経過した時間と比べると圧倒的に元気そうだ。


「この階に奴隷ちゃんとタコのお化けがいるらしいです」

 私は端的にみんなへ情報提供を行った。

「実験体か、それとも新種のエイリアンか? だがエイリアンはシェルター内に入ってこれないはずな。温度で体が吹き飛んじまう」


 サイモンの発言に、ん~、と納得いかない声を出したのはラッシュフォード博士だった。

「サイモンくん。外はオゾン層がないから有害な宇宙線が大量に降り注いでいるんだ。いつ突然変異してもおかしくないんだよ。もともとエイリアンたちは、休眠状態で行動する、という意味不明な特性がある故に極限状況でも活動できるんだ。休眠状態ということは、エイリアンたちが普通の状態で活動できる環境があるということだね。つまりこの環境で動けるエイリアンがいても不思議じゃないんだよ」


 チャパ、チャパ……

 ラッシュフォード博士の会話を遮るように長い廊下の奥から水音が聞こえてくる。


 目を凝らすと、床を浸す水に波紋が立っている。明らかに誰かがこちらに向かってきているのが分かった。

 だがそこには誰も居なく、波紋だけが静かに立っている。

 サイモンも気づいたようで、そちらの方をじっと見始めた。

 それに釣られるようにラッシュフォード博士とルルルカちゃんも何もない廊下の方をじっと見つめ始めた。


 音はピタリと止まり、ヘルメットにかかる自分の息だけがゆっくりと聞こえる。

 確実に誰かいるのにどうしてみんな固まったまま動かないのだろうか。

 私は早く奴隷ちゃんのところに行きたいので、おそらく足があるであろう部分を目掛けて銃でなぎ払った。


「ぎゃああああ! 痛ってえええええええ!」

「!?」「!?」「!?」

 バシャバシャと音を立てながら、それは男の声で人語を話しながら去って行った。

 私たちは透明なそれが、なぜ人語を話すか理解が出来ず、顔を見合わせた。

 先ほどは言語の通じない怪物のようだったが、今度の怪物は新種なのだろうか。

 私たちはお互いに目を丸くしていた。


 その中で、異彩を放つようにラッシュフォード博士だけは、目の前の事実を受け入れて思考にふけっているようだ。

「あの声は……なるほどね」

「博士、気になることでも」

 私の質問にラッシュフォード博士はにっこりと笑った。


「いや、何でもない。このシェルターには昔、住んでたんだからね。農業層の位置なら分かる。ついてきてくれ。この階層だけ特別なんだよ」

 ラッシュフォード博士は私たちの先頭を歩き始めた。


「博士。そんなに前に出ないでくれ。殺されたら大変なことになる」

 先頭を歩く博士の肩をサイモンは掴まえた。

「さっきも言ったろ。僕にとっては君も殺されたら大変だ」

「俺はあんたに死なれたら対処が出来ない。銃が撃てないんだぞ。参謀の忘れ形見であるルルルカに死なれたくないんだ。お願いだから俺たちの真ん中にいてくれ。後方から支援してほしい」

「サイモンくん、確かに君の言うとおり死人は出したくない。だからこそ……」

 ラッシュフォード博士は前方に向かって銃を発砲した。

 進行方向の廊下の奥からさっきと同じ声で絶叫が響いた。


「僕に任せてくれ。僕は君よりも優秀だ。やつの姿が見えるんでね」

「え!?」

 私たち三人の声がハモった。

 いくらラッシュフォード博士とは言えど、嘘をついているのではないだろうか。


吉田亘よしだわたる! 僕は帰ってきたぞ! お前の姿は見えてるからな!」

 私は疑問に思った。何かとラッシュフォード博士はサイモンのことを気に入っているようなので、サイモンに怪我をさせたくないがためにそのような嘘をついているのではないかと勘ぐった。

 その気になれば、床上浸水状態であれば、敵の足音も聞こえやすい。軍人としての経験を生かして、ラッシュフォード博士はその情報を下に索敵しているのではないか。


「ちなみに博士。敵はどんな姿をしているのですか?」

 私の問いに博士は意地悪そうな笑みを浮かべて笑った。

「タコのお化けさ」

「……」

 ラッシュフォード博士の自信に満ちた即答に私は言葉を失った。


 先ほど奴隷ちゃんが通信機で言っていたことだ。ラッシュフォード博士もそれを引用したのだろうか。

「急ごう。昔話でもしながらな」

 ラッシュフォード博士はバシャバシャと水音を立てながら移動を再開した。


「サイモンさん、どうします?」

「ついて行くしかないだろ。見えるって言うんだから見えるんだろ? 恐らく敵は馬鹿には見えないんだろうな」

「それって裸の王様ですか」

「ははっ、冗談さ」


 腑に落ちなかったが私たちは三人でラッシュフォード博士の後を追った。

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