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私、酸素拾います!  作者: メケ
サイモンの章・その4
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第十二話 襲撃

 肩透かしを食らうかのように誰もいない地下六階に俺は一抹の安堵を覚えていた。

 何事もなく薬品製造部にたどり着き、俺は期待に胸を躍らせていた。


「それじゃあ勇気隊長の薬を探そう。薬の名前は知ってるね」

 ラッシュフォード博士が俺たちに確認を促してきた。

「ああ、みんなジェシカから聞いている」

「それならいいね」

 俺たちはリモハノールを探し始めた。


 暗い薬品製造部で作業をするので、俺は目を凝らしながら薬品を見ていった。

「サイモンさん、これが探して欲しい薬です」

 ジェシカが紙に筆を走らせて俺に渡してきた。

 リモハノールとペ……なんて書いてあるのか字が汚くて読めない。そういえばペニシリンって薬なら聞いた事があるからきっとそれだ。

 俺はリモハノールとペニシリンを探し始めた。


 ルルルカはラッシュフォード博士と一緒に組成式を探し始めている。

 組成式が見つかったらそれをシェルターに持ち帰る事によって、向こうのシェルターでも量産できる。

 組成式も重要な資料だ。


 しばらく探せど、リモハノールもペニシリンも見つからない。

「あ、サイモンさん。ペンツマニウブがありましたよ」

「なんだそれ」

「例の薬ですよ。勇気隊長の麻痺を治すもう一つの薬です。たった今私が紙に書いたじゃないですか。サイモンさん、何を探してたんですか」

「……ペニシリン」

「それは抗生物質です」

「だってお前の字が汚くてペニシリンだと思ったんだよ。なんでこのシェルターに来るまでに言わなかったんだ」

「そりゃあいつもの伝達ミスですよ」

「開き直るな。他に何か連絡し忘れていることはないよな?」

「ないです。私はミスを除けばいつも完璧ですから」

「だから怖いんだよ! もういい。組成式を探したら次は奴隷ちゃんの捜索だ」

「そうですね」


 うい~ん。

 ラッシュフォード博士たちが組成式を見つけたようで、薬品製造部に置いてあったコピー機で印刷を掛けているようだ。

「サイモンくん、リモハノールとペンツマニウブの組成式を見つけたよ」

 紙を印刷したラッシュフォード博士はそれを持って俺たち三人に渡してきた。

 誰が生き残っても良いように余分に印刷を掛けたんだろう。

 縁起でもないが、何が起こるか分からない以上、賢明な判断と言える。


「さあ、次は奴隷ちゃんを探そう」

「ぎょ、ギョク……様?」

「?」

 物陰から俺たちに声を掛けてきたのはサバイバルウェアを着た黒髪の有色人種の少女だった。


「誰だ」

「あ、ううう」

 少女は疲れた表情をして、上手く話せないでいるみたいだ。

 かなり憔悴しているように見える。


 俺はなんとなく勘付いて、

「星を見る者、来たれり」

 ギョクの話した合い言葉を呟いた。


「ぎょ、ギョク様が来てくれたのか?」

 少女はボロボロと涙を流しながら、膝を折った。


「さっき会ったが、上の階にいた。お前は先遣隊か」

 俺の問いに少女は無言で何度も頷いている。

「何があった」

「この階にも奴らがいる。人の形をした化け物だ。何でも引き千切る」

「分かった、立てるか?」

 少女はゆっくりと立ち上がったが、かなり衰弱しているようで立つのもやっとのようだ。


「俺が抱えていく」

 俺は少女を肩に担いだ。

「山田、こちらサイモンだ。先遣隊の少女を見つけた。そっちはどうだ」

「……」

 山田からは何も応答がなかった。


「みんな、山田から応答がない。とりあえず奴隷ちゃんを探しに行こう」

「その方が良いね」

 ラッシュフォード博士が頷き、他の二人も頷いている。


 薬品製造部から出ると、俺たちの前に大きな影が現れた。

 全長二メートルほどで、上半身裸の筋骨隆々な男が立っていた。

 筋肉が肥大化しており、青筋が立って、よだれを垂らしながら小さな声で唸っている。


「生存者か……あれは!?」

 その男には全身に目が付いていた。

 体に黒い体毛が生えており、その姿はゴリラの姿を彷彿させた。

 怪物はぎょろぎょろと周囲を見渡している。

 それは俺たちを複数の目で見つめると、一瞬で姿を消した。


 ダダダダダダダダ!

 突如、耳をつんざくような銃声が響いた。

 銃声の発生源、それはラッシュフォード博士の持っていた自動小銃だった。

 姿が消えたはずの男はいつの間にか現れて、血まみれになりながら地面に倒れ伏した。


「う、うぐぐぐぐ」

 男は銃弾を何発か受けたが、まだ立ち上がろうとしている。

「博士、こいつはなんだ」

「まずい事になったぞ。ここはとても危険だ」

 ラッシュフォード博士は男の頭部に銃弾を打ち込み、とどめを刺した。


「走るぞ」

 ラッシュフォード博士は小走りに廊下を走り始めた。

「博士、一体どうした?」

「あいつらは実験体だ。攻撃してくるぞ。俺たちに向かってくるなら殺せ!」

「なんでそんな事を知ってる」

「ここに昔いたからさ」

「そうだったな。話は後で聞く」

 俺たちは廊下を駆け抜けはじめた。


 後方からゴリラの怪物が何人か追いかけてきている。

 ジェシカが銃で応戦し、なんとか距離を保ちながら俺たちは階段前まで到達した。

 分厚い扉を開けて、怪物たちがくる前に扉を閉めて鍵を掛けた。


 ドン! ドン!

 扉が大きく揺れるほど怪物たちが叩いているようだが、この分厚い扉の前では無力のようだ。


「博士、あれは一体……」

 俺の問いに答えずに、ラッシュフォード博士は上の階と下の階をじっと見つめている。


「やつらは実験体だ。人間を外の空間でも生きていけるように僕以外の博士が色々と能力開発に励んだのさ。戦力不足だ、今回は帰る事を勧めるよ」

「みんな帰るぞ。奴隷ちゃんを探すのは後でだ」


 奴隷ちゃんの救出も任務の一つだ。

 しかし、シェルターに薬と作り方を届けるのも大事だ。特に薬は勇気隊長に飲ませてやりたい。

 組成式を届けられず、俺たちのシェルターの設備や、物質の不足によって薬が俺たちが持ってきた分しかなかった場合は、白人様が遠慮なく使っていくだろう。

 そしたら勇気隊長に飲ませる薬なんてなくなっちまう。

 勇気隊長も危険を感じたら帰れと言っていた。今回はかなり危険だ。

 なんせ敵は透明になれるときたもんだ。俺たちの理解の範疇を超えている。


「サイモンさん。何を言ってるんですか。奴隷ちゃんも連れて帰るんですよ」

「いいか、今の状況では不確実なことが多すぎる。敵の姿は俺たちじゃ見ることができず、何匹いるか分からない。こんな状態じゃ、また扉を開けて六階の農業層をさがそうだなんて気にはなれない。そして奴隷ちゃんが生きてるかどうかもわからないんだぞ」

「大丈夫ですよ。奴隷ちゃんなら、しぶとそうですから多分生きてると思います」

「ジェシカ、気持ちはわかる。確かに奴隷ちゃんはしぶとそうだ。だがな、俺たちはそうじゃない。しぶとくないんだ、分かるだろ? この薬と作り方を隊長に持って行けなくなったら何の意味もない。奴隷ちゃんを助けられず、俺たちも死んで、勇気隊長はずっと一人で自分で垂れたクソの世話もできないまま、クソまみれになって死んでいくんだ」

「では皆さん帰ってください。私一人で探します」

 ジェシカはてこでも引かないようだ。

 ラッシュフォード博士やルルルカの命を預かる上では、ここは引いた方が良い。


「さすがだジェシカ。勤労意欲も十分で、聡明そうめいな判断もできる。だが、一つ聞きたい。あのでかい機械を誰が動かすんだ」

「オートパイロットで基地に帰れます。途中で「星を見る者」に遭わなければ無事に帰れますよ」

「船底に穴の空いたタイタニック号に乗るつもりはない。お願いだから正しい判断をしてくれ」

 俺の懇願こんがんにジェシカはヘルメットを手で支え、悩み始めた。

 かしたかったが、ここでジェシカを怒らせたら、なおさら一人で探すと言い始めるだろう。意固地いこじ偏屈へんくつなところもジェシカの一面だと思う。


「少しだけ探しましょう。何かヒントが得られれば、次に来たとき、活かせるはずです」

 これがジェシカのできる最大譲歩なのだろう。

 つまりはこれ以上引かないと言うことだろう。


「分かった。二人はどうだ? 奴隷ちゃんを探してもいいか」

「君たち次第だ、僕は奴らと戦おうとも死ぬつもりはないよ。このシェルターには娘がいる。親子の縁は切ったつもりだが、生存は確認したい。無理なら仕方がないけどね。だから僕は探索しても構わない。あの実験体の性能も気になる。下手をしたら僕たちのシェルターの脅威になるかもしれない」

 ラッシュフォード博士は渋い顔をしながら答えた。


「あんた、死ぬかもしれないんだぞ。怖くないのか?」

「研究に失敗して死にかけたことはあったけど、今まで死ななかったよ。僕は自分の探究心を恨んだことはないし、これからもしない」

 ラッシュフォード博士の目はまっすぐに俺を見据え、少し悲しそうに笑っていた。


 俺には計れない何かが博士にはあったのだろう。知るよしもないが、俺は博士に最大限の敬意を認める他なかった。

「……分かったよ。分かった」

 俺は博士の熱意に折れて、博士のシェルターへの残留を認めた。

 残るは一人、ルルルカだ。


「サイモン隊長。私も戦います」

 鼻息を荒くして、ルルルカは 意気込みを語っている。

「元々、俺たちの仕事は液体空気を回収することだ。戦うことじゃない。今回はたまたま勇気隊長の薬を回収する任務に就いているだけだ。偶然、未確認物体が人を殺しているって訳だ」

「分かってます。奴隷ちゃんの生死は分かりません。分からないってことは救える可能性もあるってことですよね。救える可能性があるなら私はどこまでも頑張ります。そうでしょ、サイモン隊長。死んでるわけじゃないんです。可能性があるんです」

 ルルルカの言いたいことはある。彼女は怯えて口に出せないだけだ。


 兄である参謀は死んだが、奴隷ちゃんは生きている可能性がある。


 短い一文だが、ルルルカにとっては脳裏に刻まれた呪詛じゅそのようなものだ。この危機的閉塞空間において、ルルルカが正気を保っていられるだろうか。

 だが、そんなこと些細なことだ。これからも外部行動員として、参謀として俺の下で働きたいと言ったのなら乗り越えてもらうしかない。そうでなければ荒野の中でエイリアンどものエサになってるだろう。


「分かれていくべきか。それとも四人で一緒がいいか。ルルルカ、おまえならどうする?」

 参謀になりたいと言っていたルルルカに対する一つの問いだ。


「ラッシュフォード博士。第六十七番シェルターの崩壊は病原体ではなく、人体実験による崩壊という事でよろしいですね」

「そうみたいだね。先ほどから新種の微生物を検査機が採取しない。どうやらあの実験体たちはウィルスや菌による変異ではないようだね」

「博士、ありがとうございます。サイモン隊長、私に考えがあります。五階だけ探しましょう。そこに居なかったら帰還します」

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[良い点] >「ないです。私はミスを除けばいつも完璧ですから」 ………こんな状況でもこんなこと言えるジェシカ大佐補佐、ぱないです……
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