第三話 一蓮托生
隊長の体の向きを変えた後、俺は部屋を出た。
さてと、隊長にはすべて語る事が出来たし、肩の荷が下りた気がする。
「う、うう……奴隷ちゃん。うぅ……」
隊長の部屋からすすり泣く声がする。
まったく。隊長も無理してんじゃねえよ!
怒鳴りつけてやりたくなったが、俺の怒りはすぐに収まった。
これが、「隊長」という仕事なんだ。
隊長は俺にその仕事と覚悟を見せてくれた。そんな気がして俺は怒りよりも悲しい気持ちになってきた。
勇気隊長の部屋の前から立ち去ると、
「ジャック少尉、あれは上手く行きましたって」
「そう……ですかね?」
廊下で立ち話をしている満面の笑みのジェシカと、困惑したようなジャック少尉がいた。
「サイモンさん、これで騙し通せましたね。私の料理も食べてくれたので全部上手く行きました。でもジャック少尉はこの作戦失敗だったって言うんですよ」
「……」
唖然とする俺と、無念そうに顔を顰めるジャック少尉。
「こんなに上手く行ったのに、ジャック少尉の評価は辛辣すぎます。酷いですよ」
酷いのは、お前の腐った脳みその方だ。
「ジェシカ、ちょっとこっち来い。言っておきたい事がある」
俺はジェシカを手招きした。
「何ですかサイモンさん、うふふ、うふふふふ」
よくやったと褒めてもらえると思っているのかこの阿呆は。
俺は手招きした手を拳に変えて、ジェシカに振り下ろした。
「ほげあっ!?」
ジェシカはなんとも奇妙な声を出し、驚いている。
相手が大佐補佐とか関係ねえ。この繁殖期の駄犬め!
「良いかジェシカ。こんな大事なときに浮かれてんじゃねえぞ!」
「気持ちは分かりますが、殴るのは酷いと思います」
「奴隷ちゃんが死んだかもしれねえんだ。奴隷ちゃんの生死が関わっているときに、隊長の前で浮かれてみろ。数日後に隊長が今回の出来事を振り返ったとき、印象は最悪だぞ」
「大丈夫だと思いますよ。奴隷ちゃんは生きてます。先ほど通信機で連絡が取れました」
「なんだと!?」
初耳だ。先ほど連絡手段をジェシカから探れと隊長から指示があったが、まさかジェシカが自ら探してくるとはな。
なかなか見所のある駄犬だが、こいつには報告・連絡・相談という言葉はないのか?
「いいか、奴隷ちゃんが生きていても予断を許さない。言っておくが隊長には既に奴隷ちゃんが単独で外部遠征に行った事を伝えた」
「ええっ!?」
「どのみちお前がトンチンカンな事ばかりするからバレてる。さっき隊長が言ってたろ。よく再現できてるって。奴隷ちゃんと似たような味で作れてるねって隊長は言ったんだ」
「……」
ジェシカは白目を剥いている。思考がショートしているようだ。
この駄犬は本当に……まったく。
「ひとまず、明日になったらアヌビスが修理完了するはずだ。そしたら奴隷ちゃんを救いに行く」
「分かりました。もし救い出したら、勇気隊長に告白しても良いですかね?」
「……」
この恋愛脳め。そういえば隊長が言ってたな。恋愛するとバカになるって。
隊長は奴隷ちゃんと結婚すると言っていた。
ジェシカが入り込む余地など一ミリたりともないだろう。だがここで真実を告げてもジェシカのやる気を削ぐだけだ。黙っていた方が良いだろう。腹立たしいけど!
「愛の告白か……応援するぜ。人を愛するのは自由だ」
俺、綺麗事を言いました。すまないなジェシカ。お前が勝てる見込みは万に一つもない。
だが奇跡を望むのは人の自由だ。
お前が勇気隊長の心を射止められない可能性が高いのと同じように、勇気隊長が奴隷ちゃんの帰還を迎える事も出来ない可能性が高い。
それに奴隷ちゃんが生き残って帰って来れたとしても、処刑が待っているのは間違いない。
悲しいが、ジェシカ。お前こそが俺たちの運命の手綱を掴むキーパーソンだ。
愛のために奴隷ちゃんの首を噛み千切るか、愛を捨てて義のために奴隷ちゃんを守るか。
俺はどちらが起きても見守る事しか出来ない。
奴隷ちゃんの帰還後、処刑される奴隷ちゃんを前にして、俺が一人で暴れようがシェルターは変わらない。
そんな事をしたら俺も奴隷ちゃんと一緒に処刑されて、俺の弟は路頭に迷い、隊長は発狂して、ジェシカは司令部をもう一度爆破して今度は処刑されると思う。
マジで詰んでるな。どうするよこれ?
「今のうちに隊長さんに告白するときの言葉を考えなきゃ。一緒にベッドしない? なんつって。キャハ!」
こんなバカに俺たちの運命が託されているのかと思うと、一蓮托生ってマジでゴミみたいな言葉だと俺は思う。
「で、奴隷ちゃんはなんて言ってたんだ?」
俺の知りたいのはその部分だ。怪我はしてないのか、食料はあるのか、他に人は居ないのか、などなどだ。
「誰も居ないけど、タコのお化けとゴリラみたいな人間がいるって」
「なるほど、地獄絵図か。奴隷ちゃんがとっ捕まる前に、助けてやらねえとな」
「はい。絶対助けます、助けるぞぉおお!」
ジェシカは闘志に満ちあふれていた。
おそらく奴隷ちゃんのためではない。勇気隊長に気に入られるために燃えているのだろう。
まあ、頑張れ。薬も持ってきて、愛する奥さんも連れて来たってんなら、隊長も心変わりするかもな。
「応援してるぜ、ジェシカ」
俺はジェシカに励ましの言葉を掛けて、その場を立ち去った。




