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私、酸素拾います!  作者: メケ
サイモンの章・その4
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サイモンの章・その4 第一話 告白すべきか?

「二日ください。それ以上は早くできません。え? 急ぐ意味はないですよ。だって奴隷がアヌビスを勝手に持って行ったんですよね。どう考えても極刑ですよ。この二日間の間に成果の一つでもあげてくればそれは回避できるでしょうが、迂闊うかつに手を出せばこちらがその奴隷の子の生存の芽を摘みます。アヌビスは直しておきますが、どうするかはジェシカ大佐補佐次第です」

 ジェシカが贔屓ひいきしている整備士は冷静にそのように分析していた。

 整備士の話を聞いた俺とジェシカはお通夜状態で、ルルルカはオロオロするしかなかった。

 それが昨日までの話だ。


「無理だ。あのチビ助には荷が重すぎる」

 俺は自室のベッドの上で、天井を眺めてぼうっとしていた。

 時刻はそろそろ勇気隊長の体の向きを変える時間だ。

 隊長に奴隷ちゃんのことを聞かれたら、俺は絶対に心停止する自信がある。

 俺は悪くない、ジェシカが悪い。

 とわめく事も出来るが、はっきり言って隊長が悲しむだけで何の解決にもならない。


「仕方ねえ。行くか」

 俺は立ち上がって、廊下に出た。


 最善策が見つからない。昨日はジェシカと俺だけで回したが、今日は奴隷ちゃんの姿が見えないと隊長も怪しむ。

 ジェシカと昨日話をしたが、隊長に奴隷ちゃんの所在を聞かれたら、奴隷ちゃんは体調を崩してジェシカの部屋に一緒にいるという設定にした。


 だが、これでいいのか。今こそ隊長に助言をうべきではないのか。

 ジェシカと決めた取り決めが、俺の中でうずいている。

 自己解決もままならないまま、俺は隊長の部屋の前にたどり着いてしまった。


 やれば終わりだ。とりあえず今日のぶんは終わらせる。


「よお、隊長。入るぜ」

 俺は勇気隊長の部屋に突入した。

 隊長は仰向けになっていて、天井を見ていた。

 俺に気づくと、首を俺の方に向けて子供のように笑ってきた。


「サイモン、よく来たな。いつもすまない」

 隊長は俺に気遣うセリフを掛けてきた。

 今日は非常に体調が良さそうだ。やけにニコニコしてるし、機嫌が良さそうだ。


 あ! まさか、隊長は既に奴隷ちゃんが外部遠征に一人で行ってしまった情報を掴んでいるんじゃないか? 隊長は俺に伝えたい事があるのかもしれない。

「俺は知っているぞ。お前はいつまで黙っているんだ」

 と思っているのか? 伝えた方が良い。申し訳なかったと伝えるべきなんだ。

 俺は喉を鳴らしながら唾液を飲み込んだ。


 待て、サイモン。それはお前の中の罪悪感が生み出した虚像に過ぎない。仮に隊長が知っていたら、ニコニコなんてしてられないだろう。落ち着け、落ち着くんだ。


「気にする事はねえさ。俺がこうやって生きていられるのは隊長のお陰だ。さ、体の向きを変えるぞ。おむつも見せてくれ」

 俺はいつも通りに隊長のケアを始めようと近づいた。


 大丈夫だ。いつも通りに終わらせれば良い。

 隊長はいつもなら寡黙かもくなまま体の向きを変えられたり、処置を受けたりする。

 質問は飛んでこないと思った方が良い。


「サイモン、よろしく頼む」

 隊長はにっこりと笑った。

 けんのない久しぶりの笑顔に俺は心臓が締め付けられるような感覚を覚えた。


 ジェシカとの取り決めが間違っているんじゃないか。それで本当にいいと思っているのか。例え真実を告げたとして、奴隷ちゃんが一人で外部遠征に向かった事実に今の隊長が耐えられるのか。

 疑問が一秒間で頭の中を七周半している間に、

「サイモン、暑いのか?」

 勇気隊長から声を掛けられた。


「お、あ……いや、特に。どうして?」

「すごい汗だぞ。体調でも悪いのか?」

「いや、大丈夫だ。ちょっと走ってきたからな」

 俺は隊長に嘘をついた。


 奴隷ちゃんはもうシェルターには居ない。下手をしたら死んでいる。


 そんなことは言えなかった。臆病な俺には隊長に現状を告げる事は出来なかった。

 奴隷ちゃんの生死について語れば、それは現実的な会話ではない。現状どうなって言うか全く分からないからな。


 だが、奴隷ちゃんに何が起きたか、そして何を起こしたかを伝える事は現実的な話だ。

 そんな話でさえ俺は出来なかった。

 親愛なる勇気隊長への敬愛でさえ、俺の臆病には及ばないと言うのか。それとも俺は配慮という言葉を臆病と置き換えて自分自身を虐めているだけなのか。

 何にしても答えは出なかった。


 分からない。正しいっていったい何なんだ。


 視線を感じて、勇気隊長の顔を見ると、勇気隊長は俺をじっと見つめていた。

 俺が視線を隊長に向けると、隊長は目をそらした。

 おそらく隊長は、俺が何か隠し事をしている事に気づいているんだろう。


 やばい。バレる、バレる。


「ふうっ、ふうっ」

 気がつくと荒い息づかいが聞こえてきた。

 隊長が苦しがっているのか。

 視線を隊長に移すが、隊長は平然としている。


 苦しがっているのは、この俺?


「サイモン。なあ、教えてくれ」

「ふ、うっ!」

 勇気隊長のまっすぐな瞳に、俺は素っ頓狂な声を思わずあげてしまった。


「何があったのか報告して欲しい」

 隊長は短く俺にそう尋ねた。

「っ……」

 俺は言葉に詰まった。


 奴隷ちゃんが一人で外部遠征に行ったなんて聞いたら、隊長は卒倒しちまうかもしれねえ。

 いや、既にベッド上にいつも倒れているような状態だが、問題はそこじゃねえ。

 隊長の言う報告して欲しいという言葉。これが大変くせ者だ。


 勇気隊長は俺に、

「サイモンは俺の事を信頼してくれているのか示して欲しい」

 と述べているのだろう。


 俺が下手を打ち過ぎた、と思う。

 伝えるべきか。それとも伏せておくべきか。

 俺は隊長のまっすぐな瞳を見つめた。


 今すべきことは一つ。みんなが幸せになるべき、そして幸せになるように努力をすべきだ。

「隊長、実は……」

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