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私、酸素拾います!  作者: メケ
間章
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間章・サイモンの不安

 それから三日経った。

 本日が外部遠征決行の日だ。


 俺の部屋で集合することになっていたので、俺は自室で椅子に座って待っていた。

 迫る外部遠征にそわそわしていた俺は気持ちが浮き沈みしていた。


 やる気は十分、バトルアックスやサバイバルウェアも外部行動員の武器庫アーセナルに渡して、入念なチェックを受けている。

「ふぅ~」

 深呼吸を一つしてみた。


 焦る気持ちが少しは収まるかと思ったが心臓の高鳴りは収まらない。


 俺、ルルルカ、奴隷ちゃん、ラッシュフォード博士の四人でブラックスボックス状態の第六十七番シェルターに潜入する。

 勇気隊長の薬を持って外に出たときには、何人かしかばねになっている可能性もあるのは俺たち四人が覚悟しておかなければならない事だ。


 すべては勇気隊長のため。


 この数日、隊長は元気だ。せめて上半身だけでも十分に動かせるように、とリハビリを再開している。

 この状況下で俺が死んだら、勇気隊長は悲しむだろう。

 奴隷ちゃんが死んだら、勇気隊長は泣き枯れて死ぬだろう。

 本当に決行して良いのか?


「この作戦に意味はあるのか?」

 俺は思った事をふと口にした。


「サイモン隊長?」

「!?」

 俺の目の前にはいつの間にかルルルカが立っていた。

 ルルルカは酷く動揺している。おそらく先ほどの発言を聞かれたようだ。


「ルルルカ。聞いてたのか?」

「ええ。サイモン隊長はこの作戦に反対なのですか?」

 信じられないという表情で、ルルルカは俺を見ていた。


 それはそうだろう。ここまで準備して、ちゃぶ台返しをしそうな人間がメンバーの中にいるというのは致命的だ。このままではこの部隊の士気に関わる。


「……急に不安になったんだ。必ず、全員生きて帰られる保証はない。勇気隊長のためとは思っていたが、最近元気そうでな。もし隊長のために誰か死んだってことになったら、隊長はまた落ち込んじまう。そう思ったら急に不安になってな」

 率直に俺は思いを伝えた。


 俺は嘘をつくのが苦手だ。

 ルルルカは俺の真意を見抜こうとじっと俺を見つめている。

 俺がこの調子だとルルルカは今回の外部遠征を断ってしまうかもしれない。


 外部行動において、この中では俺が一番の年長者だ。その俺が不安がっていると、風邪のように不安は感染して広がっていく。

 ルルルカはとても不安になったろう。


「さっきのは失言だった。すまなかった」

「いいえ、私も不安です。新しい事をするって、とても怖いです」

 ルルルカはもじもじと手をいじり始めた。


「兄様が死んで、もう会う事は出来ません。せめて存在を感じたいと外部行動員を目指しましたが、何も感じないんです。サイモン隊長とはじめて外に出たとき、周りの訓練生はどよめきました。凍結した土の感触、夜空の星。みんなが綺麗と言ってました。でも私は自分の歩く道が、瞬き歌う夜空の星たちが愛おしいと思えないんです。兄様を飲み込んだこの暗がりをみんなはなぜ綺麗と思うのか、私には理解できないんです。外は思った以上に怖いところです」

 辿々(たどたど)しかったが、ルルルカの言いたい事は十分に分かった。


 ルルルカは俺以上に怖がっていた。不安どころじゃない。恐怖を感じていた。

 俺は黙ってルルルカの言葉を聞き続ける事にした。


「みんながサイモン隊長の戦闘を見たいと言ったとき……私、すごく怖かったんです。襲われるんじゃないかって、思いながら私は見学してたんです。みんなは熱中していましたが、私は恐ろしくて周りばかりを気にしていました。そしたらヒトデの形をしたエイリアンが見えて、私は恐怖に囚われました。あれに捕まったら死ぬと思ったら、今まで感じなかったはずの兄様の存在を感じました。私は報告もせず、走って逃げ出すと兄様の存在が徐々に消えていくのが分かりました。私、分かったんです。もはや兄様の存在は、私の兄ではないと実感しました。彼は死の世界の住人です。だから死ぬと分かったときには兄様がそばに居るんです。外部行動員を目指した意味はありました。ただ、憧れていた兄様をもはや続ける意味が分からないんです」

「……そうか」

 ルルルカは外部行動員を続ける意味が分からないか。そんな事言われても、俺も分からねえよ。


「俺は……どうしたら良いんだ?」

「いえ、ただ聞いて欲しかっただけなんです。聞いてもらえるだけで気持ちが落ち着くんです」

「でも、それじゃあ悩みが解決しないだろ?」

「それでもいいんです」

「!?」

「実は、答えがだいぶ決まってるんです」

「!?」

「なんかすっきりしなくて、話せば自分の頭がすっきりするかなって」

「ああ、なるほど」

 女の思考がよく分からねえのか、それともルルルカが意味分からねえのかは、俺には判断しかねる。だが、ひとまず解決したようだ。


「サイモン隊長と約束しましたから。私はサイモン隊長の正式な参謀になるって。今は殴られてそんな気分じゃないかもしれないですけど、ゆくゆくは隊長に戻るかもしれませんからね」

「そうだったな。すまないな。確かに隊長をやる気分じゃない」

「勇気隊長のところに戻りたがってるみたいですが彼にも認められるなら私も参謀としてサイモン隊長のめがねに適うと思います」

「ああ、勇気隊長に認められればたいしたもんだよ」


 そういえば隊長が言ってたな。

 男は股から生まれるからエロくて、女は口から生まれてくるからよく喋るって。

 あながち間違ってないのかもしれない。


「ルルルカ」

「どうしました?」

「ありがとう」

「……ど、どどど、どうしたんですか?」

「いや、付いて来てくれてありがとなって。こんな俺でもお前が俺の唯一の自信だ」

 ルルルカは顔を真っ赤にして照れている。


「他人にここまで褒められたのは初めてですよ」

「落ち着いた気持ちで、他人をここまで褒めたのは初めてだ。だから自信を持て」

「はい」

 ルルルカは頬を赤らめたまま頷いた。




 そのまま十分間。俺とルルルカは何も喋らずに座って待ち続けていた。


 沈黙に耐えられるのが本当の仲だそうだ。


 だからルルルカ、俺をチラチラ見るんじゃない。俺は別に怒ってない。不安そうな顔をするな。俺は何を話したら良いか分からないから腕を組んで椅子に座っているだけだ。


 コンコン。

 ノックか……やっと来やがったか。


「入れ」

 中に招くと、奴隷ちゃん、ジェシカ、ラッシュフォード博士の三人が現れた。


「おせえぞ」

「奴隷ちゃんに復習させてたら遅くなって」

「そうか。途中で操作方法をど忘れされても困るからな」

「では案内します。皆さん、行きましょう」

 ジェシカはやる気十分のようだ。


「ちょっと待ってくれ。ここでたばこを吸わせてくれ」

 ラッシュフォード博士は出鼻をくじくようにサバイバルウェアの備品入れからたばこを取り出した。


「おい、ここで吸うな。あんたの部屋は良いかもしれないが、基本的にはどこでも禁煙だ。火災報知器が作動して、そこら中水浸しになるぞ」

「ああ、そうだったな。悪いねサイモンくん」

 博士はたばこをしまって、申し訳なさそうにしていた。


「あんた、吸うのか?」

「悩んだときに吸うと良い案が浮かぶんだよ」

「そうか。帰ってきてからにしてくれ」

「分かった。帰ってきたら必ず吸うよ。もちろん途中でたばこ休憩させてくれても良いんだよ」

「敵がいたとしたらすぐに見つかるぞ。匂いと煙……一瞬だ。永遠のたばこ休憩になるかもしれないぞ」

「脅かさないでくれ。僕だってそんなに吸うタチじゃない」

 ラッシュフォード博士は俺の腰を突っついて笑っている。


「じゃあ行くか」

 俺たちはジェシカを先頭にして、エレベーターに向かった。


 エレベーターに付くと、ジャック少尉が驚いた顔をして俺たちの顔を見ていた。

「大所帯ですね。殴り込みですか?」

「ああ、他のシェルターにな」

「例の薬ですか」

「ああ」

「気をつけて行ってらっしゃい」

「任せとけ」

 俺は親指を立てて、エレベーターに乗り込んだ。


 今回は外部遠征だ。外で落ち合ってアヌビスに乗り込むなんて危険な真似はしない。

「ジャック少尉。健闘を祈ってくれ」

 ジャック少尉も親指を立てて、微笑み返してくれた。


 さてと気を引き締めていかねえとな。

 俺は拳を堅く握り、帰還を誓った。

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