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私、酸素拾います!  作者: メケ
ジェシカの章 その3
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第二話 三日後に

 ジョナサン大佐から許可を取った。と言うわけで、私は外部遠征の人員を募集すべく、奴隷ちゃんとともにサイモンの部屋に向かった。


「こんにちは!」

 到着するやいなや、奴隷ちゃんの元気な挨拶が印象的だ。


 奴隷ちゃんは許可を取れたので、挨拶一つ取っても、すごく機嫌が良い。

 どれくらい機嫌が良いかというと、隊長さんから食料を貰ったときの目の輝きと一緒だ。


 ここまでは順調。後は人員を集めるだけだ。

 サイモンの部屋には弟のレジャナルド君と、参謀さんの妹のルルルカちゃんもいて、サイモンの顔に消毒薬を塗っている。


「どうかしたんですか」

「何でもねえ」

 サイモンはそれ以上は口をつぐんで答えなかった。


「いじめられたの? けんか?」

 奴隷ちゃんは心配そうにサイモンのそばに寄っていった。


「大丈夫さ。この通りだ」

 サイモンは自分の発達した上腕二頭筋を見せて、奴隷ちゃんに元気な事をアピールしている。取り繕える程度には元気なのだろうか。


 ルルルカちゃんは口を開きかけたが、躊躇した結果、口を一文字に閉じた。

「サイモンさん、大佐から外部遠征の許可を取りました。というわけで、外部遠征の人員を募集します。誰か居ませんか?」

「……」

 私の問いにサイモンは黒く腫れた顔を気難しくゆがませている。


「今の俺には頼れる奴はいない。いてて……」

「ねえ兄ちゃん。もう辞めようよ。ボコボコじゃん」

 弟のレジャナルド君は泣きそうになりながらサイモンに訴えかけている。


「外部行動員は辞めない。俺が悪いんだ。死なせてしまったからな。大丈夫、これでチャラだ。次は反撃するから安心しろ」

 サイモンは誰かに殴られたようだ。

「サイモンさん、何かあったんですか?」

「遺族さ。市民層に行ったら今日もしこたま殴られたよ」

 手短に、あまり語りたがらなさそうにサイモンは語った。


 もはやサイモンは名実ともに隊長として支持されていない。サイモンが隊員を集める事は不可能だろう。


「さっさと隊長を復活させて、俺は隊長の下で働きたい。こうも続くと嫌なってくる」

 サイモンは心が折れているようだった。もう隊長に戻るつもりはないのだろう。


「ではサイモンさんと奴隷ちゃんの二人になりますか?」

「いや、ルルルカも連れて行く。ジェシカ、お前は行かないのか?」

「私が行かない事が条件ですので」

「なるほどな。お前は外部行動員たちに支持されてる。お前が募集した方が人は集まるんじゃないか?」

「いえ、すでに何カ所かにアプローチしましたが断られました。勇気隊長に対してあまり快く思っている人が居なくて」

「仕方ねえさ。議長の息子なのに有色人種を率いるつもりもなく、奴隷と仲良くしてる、と不評なのさ。隊長の親は隊長が幼いときに処刑されてるから、受け継ぐものなんて何もなかったろうに」

「仕方ありませんね。では三人で行ってもらえますか?」

「任せとけ」

 サイモンが親指を立てたとき、部屋の扉がノックされた。


「入れ」

「失礼するよ」

 入ってきたのは、満面の笑みのラッシュフォード博士だった。


「博士なんでここに?」

 サイモンの怪訝そうな表情とは反対に、ラッシュフォード博士は満面の笑みを浮かべての登場だ。

 何か良い事でもあったのだろうか。


「サイモンくん、君も人が悪いなあ」

 不敵な笑みを浮かべながら近寄ってくるラッシュフォード博士にサイモンはたじろぎながら、何だよ、と用件を聞いている。


「まったく、なんで? じゃないよ。君、遠征に行くんだって?」

「そうだけど」

「僕も行く」

「は?」

「行くと言ったんだ。外に出たいし何より、あのシェルターには因縁があってね」

「それ無理だ。許可を取ってから来い。今の大佐なら絶対に断る」

「それがねサイモンくん。許可は取ってるさ」

「何だと?」

 ラッシュフォード博士が渡してきたのは、大佐のサインが書かれた外部遠征許可証だった。


「マジかよ。どんなズルをしたんだ」

 サイモンは困惑した表情で、ラッシュフォード博士に尋ねている。


「簡単だ。大佐は私に借りがある。数ある発明の一つが大佐の娘を救った。つまり彼は頭が上がらない」

「マジか、そりゃあ許可が出るわな」

 サイモンは合点がいったようだ。


「ジェシカ、博士も行くってよ。連れていってもいいか?」

「博士は軍人の経験があるので問題ないと思います」

 承諾すると、ラッシュフォード博士は心底うれしそうに笑っていた。


 この人は研究が好きで、元々、第六十七番シェルターに住んでいた。

 諸事情があってシェルターを追われて、今私たちがいるシェルターに移住する事になったと言う話を聞いた事がある。因縁があるという事は何か気になる事でもあるのだろうか。


「おじちゃんも行くの? 私ね、運転手だよ。いいの?」

「そうかそうか。それは楽しみだ。お嬢ちゃんお名前は?」

「私はね、奴隷ちゃんって呼ばれてるんだよ。この名前、気に入ってるんだ」

「あぁ……そうなの。まあ、本人が良いって言うならいいよね。うん」

 ラッシュフォード博士は納得して、奴隷ちゃんに手を差し伸べた。


「よろしく、奴隷ちゃん。僕はラッシュフォード博士だ」

「よろしくラッシュおじちゃん!」

 二人は仲よさそうに手を握っている。


 ラッシュフォード博士は穏健派の人間だ。カーストにも興味はなく、奴隷層に行って、薬や食料を渡したりしている。


 その行動を見た白人たちが、何で奴隷に肩入れをするのかと聞くと、ラッシュフォード博士曰く、

「人間なんて切り開けばみんな同じだよ。臓器の数は変わらない」

 だそうだ。サイコパスっぽいが、真理でもある。


 もちろんラッシュフォード博士はこれを真顔で言ったそうで、彼をとがめる白人たちは居なくなったそうな。


「いやぁ、楽しみだ。うれしいなぁ!」

 ラッシュフォード博士はご満悦と言った表情だ。とろけそうな顔をしている。


「で、ジェシカ。いつ行くんだ」

「いつでも良いですよ。ルルルカちゃんと決めてください」

「分かった。博士、都合の良い日は?」

「三日あればいくらか武器を作ってこれる」

 ラッシュフォード博士の発言に私とサイモンさんは顔を見合わせた。


「なあ博士。武器というのは戦闘用のってことか?」

「サイモンくん。遊びに行くわけじゃないんだよ。中で何が起こってるか分からないんだ。向こうには私を裏切った博士がいるからね」

「なるほど。良い印象は抱かないんだな」

「彼は化け物だ。正真正銘の怪物。人間じゃないだよ。寿命とか操れるし、おそらく外もサバイバルウェアなしで歩ける」

「どういう理屈でそんな無茶が出来るんだ?」

「考えられそうなところで言えば、他の生物の特性を移植させたり、後は真空状態でも蒸発しないイオン液体が考えられるかな」

「すまんやっぱり理解が追いつかない」

 サイモンは両手を挙げて降参のようだ。


「ひとまず三日後にここへ集まって出発だ。ジェシカもそのようにアヌビスを調整してくれ」

「分かりました。手配します」

 私とサイモンはお互いに手を取って握手を交わした。


 これで決着が付く。


「私も私も!」

 奴隷ちゃんも割って入って握手をしてきた。


 奴隷ちゃんの本当に安堵した顔を見て、私はこの時は達成感を感じた。

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