第三話 奴隷ちゃん、コツを掴む
翌日、私は奴隷ちゃんと一緒に、外部連絡室からアヌビスを駐めてあるアヌビス専用の車庫に到着した。
「うわあ、広い」
奴隷ちゃんは感嘆の声を上げている。
アヌビスはその巨大さ故に大きな倉庫が必要だ。
それが白人用外部連絡室の武器庫と呼ばれる区域である。
天井に胴体が付きそうなほど巨大なアヌビスは、対エイリアンでは無類の強さを誇る。
もちろん人間など、木っ端みじんに打ち倒せるが、勇気隊長はほとんど一人でアヌビスを破壊した。
勇気隊長はどれほどの化け物なのだろう。
「想像してたのよりも大きい」
私の隣で、奴隷ちゃんはアヌビスを見て目を輝かせている。
大きく口を開きながらアヌビスの大きさに驚嘆していた。
隊長さんの最も守りたかった人は、今、隊長さんと同じサバイバルウェアを来て、アヌビスの前に立っている。
隊長さんがアヌビスを壊せたのはもしかしたら、愛する者のために帰る、という愛の力がなせた技なのかもしれない。
「さあ、アヌビスに乗るわよ」
「本当に乗るの?」
奴隷ちゃんは周囲を見渡しているが、外部連絡室の中に居る人たちには事前に通達しているので、特に怪しむ様子もない。
「時間が無いわ。私は尉官用のアヌビスに乗るから、あなたは左官用のアヌビスに乗るのよ」
私は奴隷ちゃんに、私専用のデバイスを巻き付けた。
私は拝借してきた尉官用のデバイスを左腕に巻いた。
「左官って少佐とか大佐とかってこと?」
「そうよ。私は尉官用。少尉、中尉、大尉専用のアヌビスに乗るの」
「どうして?」
「左官用は尉官用よりも酸素が長持ちする構造になってるの。私はこの前まで尉官用を使っていたけど左官用の方が乗り心地、性能ともに段違いよ。初心者の奴隷ちゃんだってアシストシステムを起動させればある程度は動かせるはずだわ。外部遠征用のアヌビスにもアシストシステムがあるから安心してね」
「大丈夫かな?」
「大丈夫。デバイスは改造してあるから、奴隷ちゃんの声にも反応するわ。さあ、私の真似をして」
私はアヌビスの近くの昇降機に立つと、昇降機を上昇させた。
「緑のボタンが上昇、黄色のボタンが停止。赤いボタンが下降よ。最大まで上昇させて」
「うん」
奴隷ちゃんも私の真似をして、昇降機を上昇させた。
アヌビスに人が乗り込むための昇降機は、最大まで上昇させると、アヌビスのコックピットの横まで上昇する。
遠目で奴隷ちゃんの位置を確認しながら、奴隷ちゃんの進行状況を確認した。
「デバイスの画面に表示された、コックピット開口、を押して」
デバイスに触れると、コックピットが開口し、いつでも乗り移れる状況になった。
「乗るよ」
「はい!」
私と奴隷ちゃんはそれぞれのアヌビスに乗り込んだ。
「操作方法はしっかり勉強してきたわね」
「はい!」
試金石だ。
どれほど奴隷ちゃんが私の渡した操作方法の書類を読んできたか、試してみよう。
「「ジェシカ・サラヴァンティア。出撃します!」」
私たちの声と同時にアヌビスのコックピット内に注水が始まり、コックピット内の圧力が高まっていく。私たちの体が重力負荷で壊れないようにするための命の水だ。
機体を外の世界に上昇させる巨大な昇降機が上昇し始めた。
少しの揺れを感じながら昇降機は上昇していく。
今回は訓練だ。
だが、それはあくまで危険な地上での訓練だ。
気は抜けない。
私は生唾を飲み込んだ。
ガコン。
この音が鳴り体に振動を感じると、それは一番上まで到着した合図だ。
目の前の扉が開き、私はそこから地上へと第一歩を踏みしめた。
「ふぅ」
地上に出ると、いつも私たちを出迎えてくれるのは、満天の星空だ。
吸い込まれそうなほど綺麗なこの光景だけはいつも目に入れておきたいと思っている。
「ジェシカ大佐補佐。出ても良いですか?」
情けない奴隷ちゃんの声が聞こえる。
奴隷ちゃんはアヌビスの出入り口から抜け出せていない。
初めてのアヌビスへの搭乗ということで、だいぶ戸惑っているようだ。
「出ても良いわよ。奴隷ちゃん、コツは犬になったつもりで操縦するのよ」
「犬ですか? わんわん、わんわん!」
奴隷ちゃんが、犬の真似をしながら出入り口から出てきた。
「そうじゃなくて……犬になったつもりで歩いてみてって事よ。操縦中にずっとその調子だったら疲れるでしょう」
「……はい」
伝え方が良くなかったみたいだ。次はもっと明瞭に伝えた方が良いだろう。
覚束ない生まれたての子鹿のような足取りで、奴隷ちゃんは歩き始めた。
「ジェシカ大佐補佐。やっぱりね、わんわん言いながら練習した方が簡単です」
「その方がやりやすいのね、分かったわ」
下手に口を出して、上達に支障を来す方が問題だ。
「わんわん、わんわん」
奴隷ちゃんは犬になりきったつもりでいるようだが、犬の声でなく生まれたての子鹿っぷりは変わらない。
「わんわん。あ、動かし方が分かった! わおーん。あお~ん」
奴隷ちゃんはコツを掴んだようだ。
そのまま走って、岩場に激突していった。




