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私、酸素拾います!  作者: メケ
樟木勇気の章・その1
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第二話 みんなでお食事会

 食堂は有色人種でごった返していた。

 ここはかつて日本と呼ばれた国のシェルターだ。基本は黄色人種が多数を占める。中には黒人も何名かいるが、黒人の数は圧倒的に少ない。


「おい、サイモン。お前は黒人なんだから、映画の黒人みたいに面白いこと言えよ」

 他の部隊の隊員がサイモンに声を掛けてきた。

「黄色い猿に俺のジョークが分かるのか」

「ははははは。今日も冴えてるな」

 サイモンは比較的他の部隊から声を掛けられる。彼のブラックジョークは今日も切れ味がある。


「おい、ファーストエスケイパーの部隊が来たぞ」

 部隊にも種類があって、俺たちのことを快く思わない奴らもいれば、なんとも思っていない奴らもいる。もちろん好意的に捉えている部隊は少ない。


 俺たちの部隊が呼ばれるファーストエスケーパーという名前は、逃げることを真っ先に考えているやつ、もしくはさっさと逃げるやつ、という軽蔑の意味だ。

 命あっての作戦だと思うが、このシェルター内の狭い世間様とやらはどうも許してくれないらしい。ここ一年の帰還時生存率一〇〇%、帰還時負傷率二%という他の部隊の追随を許さない数値を出しているのに。


「くそっ。また減らされた。あれで足りねえって言うのかよ」

 他の部隊の隊員が食事にブツブツと文句を言っている。

 その部隊に所属する他の隊員たちは、不満は言わねど表情に陰りが見える。

 食堂で配給される食事は、成果制だ。無能なやつほど食事が減っていく。

 足りないならお金を出さなければいけないが、給料も成果制なので、やっぱり無能は食事量を減らされる。


「おとうしゃん。またやさいくずのすーぷだよ」

「食べられるだけありがたいと思いなさい」

 家族を連れて食事に来ている部隊もいるようだ。

 可哀想に。乾パン二個とクズ肉に野菜クズのスープでは満足な栄養も取れないだろう。


 嫌な気分になった俺たちの前に、乾パン二個が載せられたお盆が置かれた。

「ごゆっくりと」

 給仕の少女は厨房の方へ戻っていった。


「「「「……」」」」

 一同沈黙となった。


 乾パン……二個? 正気か?

 よく目をこすってみるが、やはり二個しかない。

 先ほど不平を言った子供のお盆を見るとやはり乾パンが二個とクズ肉に野菜クズのスープが載っている。それより体が大きいはずの俺たちは乾パン二個だ。


「おい、給仕。スープが載ってねえぞ」

 サイモンが目をかっぴらいて給仕に詰め寄った。


「行けサイモン。ご飯が少ない!」

 奴隷ちゃんもこの配給量にはお冠のようだ。


「……これ以上は無いです」

「無いって事は無いだろ。みんな飲んでんじゃねえか」

 そのときサイモンに誰かが近付いていった。


「お前らに飲ませるスープは無いって事だよ。分かってやれよ」

 詰め寄るサイモンに近づいたのは、他の部隊の隊長・安田だった。


「なんだてめえその言い方は。こんな仕打ちはねえぞ。食べ物の恨みって言葉知らねえのか?」

「無駄に酸素を消費して外部行動を行い、成果はゼロ。その上タダ飯まで食らおうって言うのか。乾パン二個でも十分に温情があると思うけど」

 たたみかけるように安田が言葉を吐いていく。


「て、め、え~」

 サイモンは今にも殴り掛かりそうだ。

「やめろサイモン。俺の失態だ。足りない分は俺が出す」

 給仕にお金を渡して、俺は全員分のスープとクズ肉を頼んだ。


 無能部隊の給料なんて雀の涙ほどだ。だが、ここは隊長である以上腹をくくらなければならない。

「ほら、隊長様が奢ってくれるってよ。良かったな」


 安田の止まらない口撃にサイモンは額に皺を寄せながら、俺たちのいるテーブルに向かってきた。

「隊長、悔しくねえのか。どうして何も言わないんだよ」

「汚名は、回収した空気の量で晴らす。違うか?」


 サイモンは俯いて、小さな声で、

「わかったよ。すまなかった」

 と呟いた。


「あ、あの。お隣、いいですか」

 弱々しい声で、俺の隣にジェシカとジャック少尉がやってきた。

 ジェシカは、甘くて胸の奥がぎゅっと焼けそうな良い匂いを放っている。


「あの。私、ジェシカと言います。隊長さんにはお会いしたんですが他の隊員のみなさまには会っていなかったので今日、挨拶に来ました。一緒にお食事をしませんか」

 こんな所に白人とは珍しい。


 ここはカーストでいう外部行動員のための食堂だ。白人は外部行動員より上の存在であり、白人が来るなんて明日は隕石の雨でも降るのだろうか。


「ううっ。マジかよ」

 サイモンは目元を覆っている。

 彼は気の強い豪胆なやつだが、ペースが崩れると泣き虫になる。

 死神のジェシカで心が不安定になっているようだ。


「大丈夫ですか。何かあったんですか」

 健気にもジェシカはサイモンを気遣っている。


「あれ? どうしてお盆に乾パンしか載ってないんですか」

「チッ。液体空気の回収量が少なくてこのザマだ。無能には、豚に食わせる餌さえ回ってこないんだよ」

 サイモンがぶっきらぼうに答えた。


 ジェシカは自分の豪勢に盛られた食事を見て、申し訳なさそうにしている。

 なので、隊長として現在の隊の状況を話した。

 ジェシカは納得したような笑顔を浮かべている。


「隊長さん、大丈夫ですよ。皆さんがお腹を空かせているのならなら私がお支払いします」

 ジェシカが俺たちに気を遣っているのは分かる。

 中将の娘であれば、いくら無能であっても十分な食事が与えられるはずだ。

 一緒に食事をするといった手前、仲間の前で豪勢な食事は取れないと感じたのだろう。


「いや、いい。もう給仕にお金は払ってあるから」

「え?」

 ジェシカが目を丸くして、俺を見つめている。

「隊長さんって隊員の皆さんよりお給料少ないですよね。確か半分以下……」

「「「「え?」」」」

 奴隷ちゃんも含めて四人全員の声がハモった。

「他の隊員が生活できるために自分の給料を減らしているって上層部の話では聞いていたんですけど」

 なんだその話は。聞いたことも言ったこともないぞ。っていうかなんでこいつは俺たちの給料を知ってるんだ。そして何で俺の給料がみんなより少ないんだ。


「隊長さんって隊員思いなんですね。私、隊長さんのことが大好きになりました。こんな素晴らしい部隊に入隊できてうれしいです。良い、上司に。恵まれたんだなって……思うと……」

 ジェシカは俺に抱きついてきた。なぜか泣いている。

 女の子の香りだとか感触だとかを述べる前に、俺は給料のことで頭がいっぱいだった。

 俺の給料、隊員の半分以下か。どおりで生活が苦しいわけだ。


「俺、隊長が給料いっぱい貰ってるって思ってました。だけど、俺たちのために給料減らして、更に奢るつもりだったなんて……俺、甘えてました。すみません。うおおおお!」

 サイモンは俺を抱きしめたまま号泣し始めた。


「みんなずるい。私も」

 奴隷ちゃんも負けじと俺を抱きしめてくる。

「ああ、いいんだよ。大丈夫だから」

 何が大丈夫なのか言ってる自分もよく分からなかった。

 食事が運ばれて来ても、みんなは涙を流している。


「隊長。遠慮無く頂きます。この食事は神が遣わしてくださった勇気隊長があってのことです。神と勇気隊長に感謝を」

 サイモンは神と俺に祈っている。 


 食事に貪りつく隊員のみんなには申し訳なかったが、給料のことで食欲が湧かなかった。


 それでも来たる外部行動に備えるため、俺は食事を頬張った。

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