第四話 裁判の行方
「では、レベッカ少佐はサイモン隊長に対してどのような処分を下す?」
大佐はレベッカ少佐が思う量刑につて尋ねている。
「ひとまず、降格させます。罰則はそれで十分だと思います。手元の資料を見ると、今まで外部行動員として育ってきた環境も良くないです。教育隊長の風切さんですよね。隊長としての訓練も受けてないので責任を負わせるのは酷かと思います。他の部隊もサイモン隊長の異例の昇進は見ているはずです。サイモン隊長を見ていると、勇気隊長たちが部隊の規模や実力よりも過大な責務を負わされていた事が彷彿されますね。また同じ事を繰り返すのかと、外部行動員からの反発も考えられます。もし私たちの処分が軽ければ、他の部隊から私刑を食らうでしょうから、敢えて外部行動員たちの私刑に任せるのはどうでしょうか」
レベッカ少佐は一見俺のことを蔑み、突き放しているとしか思える。
だが、言葉の端からは、俺のことを守っているようにも聞こえる。
そこで疑問が浮かぶのだが、レベッカ少佐にとっては俺を守るメリットはない。
俺は彼女の事を買い被りすぎているだけだろう。
「そうか、ひとまず降格か。ジャック少尉は?」
「私もそれでいいかと。と言うより、誰がサイモンを隊長に推薦したのですか。いつも有色人種の階層に居ましたがサイモンは短気で、短絡的なので隊長には向いてないですね腕力は目を見張るものがあるので、切り込み隊長ならトップの実力でしょう。ですが部隊長はさすがあり得ないですね。人選ミスですよ。なんで私に一言言ってくれなかった悔やまれます。私なら絶対に反対しましたよ」
不愉快そうにジャック少尉は腕組みをしている。
「言葉は悪いですが、昇格させた人間が悪いと思いますよ。リリィ少佐の襲撃でチーム・アポカリプスは壊滅しました。勇気隊長に対する保証と言う意味でチーム・アポカリプスを存続させたのはいいと思いますが、サイモンを昇格させたのはお門違いです」
「ジャック少尉。気持ちは分かりますがそれくらいにしてください」
ジョナサン大佐はジャック少尉を制している。
その姿にはジャック少尉に対する遠慮が見え、異様な光景に見える。
ジャック少尉の烈火王の異名は伊達じゃないのかもしれない。
「ひとまずサイモン隊長。あなたは降格処分です。まだ足りないと思うなら他の外部行動員たちが天誅を下すでしょう。これにてサイモン隊長の裁判を終了します」
ジョナサン大佐が、俺に刑を下した。
「はい、分かりました」
俺は椅子の上で両膝に手を当て、頭を下げた。
俺は生き残った。背命行為で死刑になるかと思ったら、生き残った。
「サイモン良かったなあ。次の活躍を期待するよ。俺としては君が責任を取って……」
俺の背後でライス中佐が小声で何か言っていたが、俺の耳にはあまり届かなかった。
十中八九、死刑になるものだと思っていたが、俺は残りの一か二を取っていたようだ。
「続いてライス中佐。サイモンを任命した件で君に聞きたい事がある」
ジョナサン大佐は冷たい声でライス中佐を見つめている。
「ほえっ!? 俺ですか」
「そうだ。他にも隊長に昇格した外部行動員がいるみたいだが、既に問題になっている。ハラスメントや暴力など目に余る状況だ。サイモンくん、いつまでそこに座っているんだ。さっさとライス中佐に席を譲れ」
「はい、分かりました」
俺は席から離れたが、ライス中佐が中々席に座ろうとしない。
「大佐、この席は……いくらなんでも……」
「いいから座れ」
震えながら席に付くライス中佐は、席に座るとうめき声を上げた。
「ここには座りたくなかった。せめて別の……」
「静かにしたまえ。サイモンくん、もう行っていいぞ」
「はい」
俺は裁判所となっていた会議室を出ようと歩を進めていた。
しかし、嫌な奴であるライス中佐がどうなるか、事の顛末は聞きたい。
俺は緊張した表情を見せながら、わざとゆっくりと歩いた。
「ライス中佐。君は、隊長たちの訓練は完了したと行っていたな。だが未熟な隊長ばかりで困っている。チーム・アルマゲドンの新しい部隊長はパワハラが酷く、他の部隊員の女を寝取るし最悪だ。分隊長の友和くんは部隊員たちから、出す指示の意味が分からない、と不満が出ているらしいぞ。この二人は、訓練期間がほぼゼロだそうだな」
「いえ、そんなことは……」
「証拠が挙がってるんだぞ! 紙束を渡して、後は読めと言ったらしいじゃないか」
「すみません!」
因果応報の意味を今日は深く理解した日になった。
これからは誰かと関わるときは最大限の誠意を持って接しよう。
「生き残った」
廊下に出ると、周囲に聞き取れない程度に俺は呟いた。
全身を疲労感が包み、鉛のように重い。
周囲の白人たちが、顔をしかめながら、俺の顔を見ている。
貶せばいい。見下せばいい。俺は生き残った。それは事実だ。
急いで俺はエレベーターに戻った。
早く弟に死刑を回避したことを伝えてやらなければいけない。心配させてたからな。
上の階から降りてきたエレベーターからは、不安そうな顔をしたブロンドの少女が顔を出した。
「おう、ジェシカ」
「サイモンさん! やっぱり無事のようですね」
ジェシカは花が開いたかのような笑みを俺に向けてきた。
「悪運だけは強いからな。心配させた」
「いえ、良いんです。私もこれで動けますので」
「勇気隊長の件か。もしかして今回の裁判ってジェシカが手を回したのか?」
「え?」
「いや、俺もかつて裁判に同席したことがあったが、そのときは被告の隊長に対して明らかに敵意むき出しだった。今回はさりげなく庇われてる気がしたから」
「それは……ノーコメントで」
ジェシカは薄桃色の、柔らかそうな唇に人差し指を当てて、笑っている。
今のジェシカは前よりも自信があるように見え、生き生きとしている。それと同時に艶めかしくも見え、色っぽいと思った。
だが、油断してはダメだ。こいつは死神。
俺の顔が吹き飛ばずに済んだのは、こいつの放った砲撃が俺の顔に直撃しなかったことと、真空空間が俺を守っただけだ。
ジェシカに背中は預けたくないが、背に腹は代えられないという板挟みの状況が俺を襲っている。今回の裁判だってそうだ、くそったれ。
「ひとまず、帰る。弟に顔を見せてやらないとな」
「私も大佐のところに用事があるので。ではここで」
ジェシカとエレベーターのところで別れ、俺は有色人種の一般市民層に向かった。
有色人種の一般市民層は外部行動員の一つ下に位置する階層で、俺たちのいる階層よりは少し暖かい。
外部行動員ではない有色人種はこの階層にいる。
この階層は俺たち外部行動員がいる階層よりも子供が多い。
「兄ちゃん」
声の主を追うように、俺は視線を下に向けた。
「愛しい弟よ、待たせたな」
俺は弟のレジャナルドを、ぎゅっと抱きしめた。
「ううっ」
レジャナルドは小さく、うめき声を上げて震えていた。
「大丈夫だ。戻ってきた」
「兄ちゃん死なないで。外部行動員も辞めた方が良いよ」
「ふふふっ」
俺はレジャナルドの頭を撫でた。
言いたいことは分かる。
俺の職場は死地に等しい。外部行動員に成り立ての頃は、恐怖のあまり、野生のエイリアンが放し飼いされている農地だと自分に言い聞かせたこともあった。
だが、目の前で人が殺されていくのを見て、ここは戦場であり、死地なのだと絶望した。
そして、今日。
自分の失態で、俺は危なく死刑にされるところだった。それならばもっと生存率の高そうな職業について欲しいというのが弟の意見だろう。
「大丈夫だ、俺は生き残る。絶対に生き残ってお前の所に帰ってくる。そしたら美味い飯をまた一緒に食おう」
「……うん。分かった」
レジャナルドは目元を拭いて笑っている。
「さ、飯でも食いに行こうぜ」
「うん、行こう! 今日ね、学校で良いことがあったんだよ」
「どんなことだ?」
俺たちは話し合いながら食堂に向かおうとしたとき、目の前に複数の影が立ちはだかった。
「よおサイモン隊長。ちょっくら話がある」
「あ、あんたたちは……」
俺の前に立ちはだかったのは死んだ訓練生の親族だった。




