サイモンの章・その2 第三話 外部行動員裁判
今日は時計の針がやけに遅い。
俺に自室謹慎が言い渡されてから五日経った。
「仕方ねえか。俺が生き残っちまった。隊長なのにな」
自室の柔らかなベッドの上で、俺は倦怠感を覚えていた。
ため息交じりに俺は紙切れ一枚を掲げた。
たった一枚の紙切れ。
しかし、今まで持ったどのダンベルよりも重いその紙切れを持つ俺の手は震えていた。
二日前に届いた、外部行動員裁判通知書。
外部行動において、重大な過失によりシェルターに大きな損害を与えた者に通知される裁判所への出頭命令が書かれた書類だ。
裁判の日付と時間が記されている。
それが今日だ。
すでに俺の事情聴取は終わった。
俺の部隊が壊滅してから五日後となる今日が裁かれる日となる。俺の人生が決まる日だ。
死にたいと言えば死にたいが、死にたくないと言えば死にたくない。弟もいるからな。
奇妙な希死念慮と生存欲求に苛まれながら、俺はこの五日間を過ごした。
そういえばサバイバーズ・ギルトなんて言葉があったな。災害や事件などによって生き残った者が負う罪悪感のことだ。俺が抱えている罪悪感はそれが正体だったか。いや、でも実際、俺の未熟さから人が死んでいるわけだし、実際、俺はギルティな訳だ。
ベッドの上でうだうだと苦悶しているうちに時計は刻一刻と進んでいき、定刻となった。
「サイモン、迎えに来た」
外部行動員の司令部から派遣されてきた男の中佐が俺を迎えに来たようだ。
時間ぴったりの正確さに嫌になってくる。
外部行動員の司令部には中佐が二人居る。
今回は男の方、確か名前はライス中佐だ。こいつはとんでもなく失礼な男だと聞いている。
「サイモンくん、死んでないようだな。自殺する時間はたっぷりあったのにどうしてだ?」
この男、面白いジョークを言っているとでも思っているのだろうか?
気が立っている俺に随分と好戦的な男だ。いつか痛い目に遭っちまえ。
「中佐の部屋に招待してくれ。首ならそこで吊ってやる」
「いや、それは困る。ふふっ」
心底バカにした様子で中佐は笑っていた。
「君はリリィ少佐の襲撃を受けて唯一、ほぼ無傷で生き残った外部行動員だった。きっと優秀だと思っていたけど、君に出来ることは生き残ることだけなんだな。それ以外はからっきし才能が無い。また自分だけ生き残った。災難だけどきっと今日で終わるよ」
「うるせえ黙れ!」
「私がうるさい? 申し訳ないね。さ、おしゃべりは終わりだ」
俺はライス中佐の部下二名にに両脇を抱えられた。
「大丈夫だ、歩ける!」
俺は二人を振りほどいた。
馬鹿にしやがって。俺は裁判ごときで腰を抜かしたり喚き散らすカスじゃねえ。
「そうか、では歩いてくれ」
俺はイライラしながら廊下を歩き始めた。
エレベーターに乗り、階下まで降りると、軍人の居る階層に降り立った。
怒られる時以外は基本的に白人層まで降りないので、この層にはいい思い出がない。最近降りたのは、ジェシカがルルルカにぶん殴られたときくらいだ。
ともかく嫌な階層だ。
会議室と呼ばれるところに連れて行かれると、俺は中に入った。
中には重苦しい雰囲気が漂っており、階級が高そうな白人が椅子に座っている。
俺はパイプ椅子のところに案内されて、立ち尽くしていた。
「座りたまえ」
ライス中佐に促されて、俺はパイプ椅子に座った。
「君がサイモン隊長だね」
「はい」
「新しく大佐になったジョナサンだ。こっちはレベッカ少佐だ。あと君のことを普段から見ているジャック少尉もいる」
俺の目の前に座っているのは白人の男と、ジェシカと同年齢くらいの少女だった。
外部行動員の階層で犬を飼っているジャック少尉もいる。
いつもは物腰柔らかだが、今日は少しピリピリしているように見える。
こいつらが裁判官となり、俺の処遇を決めるようだ。
「サイモンくん。君は訓練生を本来なら連れて行ってはいけない領域まで連れて行き、戦闘行為を見せている間に訓練生たちがエイリアンに襲撃されて死亡した。これを事実として認めるかね」
「はい」
俺が言い訳もなく容易く認めたことに、ジョナサン大佐は額に皺を寄せている。
「どうしてそんなことをした?」
「俺は訓練生時代に、そうやって教えてもらって育ったからです」
「そうか。その時の隊長とは?」
「チーム・ラグナロクの風切翼さんです」
「ふむ……」
ジョナサン大佐はデバイスを起動して、俺の経歴を調べているようだった。
「レベッカ少佐。この件について知りたいんだけど……」
ジョナサン大佐は少女のレベッカ少佐と話し合っている。
「私なりにサイモン隊長を調べてみました。ポンコツですね」
レベッカ少佐は俺をまず一言でそのように称した。
ポンコツ――ジェシカへの陰口として使われるのは聞いていたが、まさか俺がその対象になるとは。
「レベッカ少佐。確かにサイモン隊長は過失によって重大な事象を引き起こした。だが、そこまで言われる筋合いは……」
ジョナサン大佐は冷や汗を掻きながらレベッカ少佐を制止しようとしている。
「ジョナサン大佐。サイモン隊長は、数が減った外部行動員のチームを補充するために暫定的に、隊長として選任されただけですよね。付け加えるなら、リリィ少佐の襲撃を受けて生き残ったという点も選ばれた理由となってますね。前回所属していたチーム・アポカリプスの勇気隊長とは違い、隊長に昇格するための試験も教育も受けた形跡がないです。今のサイモン隊長に、部隊長という仕事は明らかに実力は伴っていなく、時期尚早であったと言えるでしょう。もしくは忖度があったかもしれませんが、このまま続けるのはみんなが不幸になるだけです」
徹底的に否定された俺は、今すぐ殺して欲しい気持ちになっていた。
ここまで屈辱的な罵倒は今まで受けたことがなかった。
しかし、ここまで的を射た正論に対して俺は、指が白くなるまで拳を握り、震えることしか出来なかった。
判断ミスからあっという間に部隊が壊滅してしまった。
俺の心証は理解されず、首に縄が掛かるのだろうか。
俺が裸で外部を散歩した後、弟は一人生きるのだろうか。
チーム・アポカリプスの現在は、勇気隊長が下半身不随になり、参謀は死に、ジェシカは奴隷ちゃんの世話と勇気隊長の下の世話をしている。
誰が俺の弟の面倒を見るのだろうか。ジェシカか? 負担が大きすぎやしないか。じゃあ誰が見るんだ。
思わず視界が涙でぼやけてきた。
泣きたいのは死んだ部下たちの方だろう。ここで泣くことは、恥ずべき事だ。




