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私、酸素拾います!  作者: メケ
間章
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間章・ジェシカの策略

 サイモン隊長の訓練隊が壊滅した。


 その一報が入ったのは、私が勇気隊長のオムツ交換を奴隷ちゃんと一緒にしていた時のことだ。

 デバイスからの通知を受け取った私は手早く勇気隊長のオムツを交換し、白人層の医務室に向かった。


 外部行動でエイリアンから手酷く攻撃を受けた部隊は、白人層の医務室に運ばれ、最先端の治療を受けられる。

 ここまでしないと外部行動員のなり手がいなくなるので、特例処置が施されている。もちろん助からないと判断されればそれまでだ。


 はやる気持ちを抑えながら医務室に行くと、看護師に案内をされた。

 多数ある医務室に設置されたベッドの上で頭を垂れて、力なく座っているのはサイモンさんだった。


 横には既に白い袋に包まれた人間の形をしたそれらが並んでいる。


「サイモンさん?」

 声を掛けたがサイモンはうつむいているだけだった。

 心なしか震えているようにも見える。


「ジェシカか……エイリアンに襲われたんだ。助かったのはルルルカと博士だけだった。二人は逃げたんだ。自分の力量を知っていたんだ。だから生き残った」

 つぶやくように、反省するように、後悔するようにサイモンは言葉を紡ぐ。


「サイモンさん……」

 サイモンの部隊は九人の訓練生とラッシュフォード博士の計十一人編成だ。

 生き残ったのはたった三人。この事故はサイモンの今後のキャリアにも大きく関わっていくだろう。


 ざっと見た資料では、サイモンが隊長として資料とは別の区域に進出しており、そこでエイリアンの奇襲を受けたという。


 一般的な外部行動員なら問題は無いが、サイモン率いる訓練生が行くことは熟練度からして禁止されている。

 このことからサイモンの責任は重いだろう。


「ジェシカ。俺はどうしたらいい」

 サイモンは力なく呟いている。

 どうしたらいいか、なんて私が聞きたいくらいだ。


「ほら、お前も間違えて外部行動員を踏み潰したり、吹き飛ばしたりして殺してきたろ。どうやって気持ちを落ち着けたんだ?」

「自分に問題はあるとしても、次は上手く行くかもしれないし、上手く行かなかったらやめれば良いと思います。私みたいにウジウジしてたらダメですよ」

「ジェシカから見て、俺は上手く出来そうか?」

 サイモンはじっと私の声に耳を傾けている。


「サイモンさんに目標はありますか。私は液体空気を探しながらお母さんを探していたんです。それが破鱗石はりんせきの集積地帯で活動していた時の話なんですけど」

「破鱗石? あんな危険地帯、十年前から行けなくなってるはずだ。破鱗石は踏んだら爆発して、石が四方に吹き飛ぶんだろ?」

「そうです。一時期、本当にシェルター内の酸素の量が少なくなって、行くことになったんです。大勢の外部行動を引き連れて、破鱗石の集積地帯に行きました。私のミスでたくさんの外部行動員が死んでしまったんです」

「もしかして踊ったのか?」

「はい」

 踊るというのはアヌビスが大きめの破鱗石を踏んで制御不能になることを指す。


 破鱗石はエイリアンのフンが極限化で冷やされる事によって生成される時がある爆発物だ。

 地表に出ていれば良いが、地面に埋まっていることもある。

 その場合、アヌビスの乗り手が探知しながら進んでいかないと行けないのだが、未熟者だと探知できずに踏んでしまうことがある。


 踏まれた破鱗石は爆発し、破片や小石が周囲の外部行動員に突き刺さる。


 爆発の衝撃でアヌビスは体勢を崩し、足下が覚束おぼなくなる。密集地帯だと更に破鱗石を踏んでしまう。

 周囲の外部行動員たちは破鱗石の破片と、アヌビスの車体が暴れ回るのを回避しなければならない。


 最悪の場合、もう一度踏んで、さらに破片が飛んだりと悲惨な目に遭う。

 この現象を昔は「踊る」と言っていた。


 もちろんそのような状況下で暴れるアヌビスと破鱗石を浴びないような神がかった回避行動をとれる人間はいない。生き残るのは運の良い少数の人間だけだ。


 たくさんの外部行動員が、吹き飛び、破片に貫かれ、私に踏み潰され、死んでいった……らしい。と言うのもパニックになって私はアヌビスの操縦だけで手一杯だったからだ。


「知らなかったよ。お前も苦労してたんだな」

「私だけじゃないですよ、みんな失敗します。特に外部行動では死に繋がる。私は失敗しちゃいけなかったときに失敗したんです。それは責められて当然なんです。だけどやるしかないじゃないですか。死を活かせなかったら、なんのために彼らは死んだのか」

「そうだな……だが、これから新しい部下が入ってきたらどうしたらいい? 信頼されないかもしれない。こんなに死んだなんて明らかに評判が悪くなる。ジェシカ、その時はどうすればいい?」

 私は、

「サイモンさんは降格させられるでしょうから二度とその心配はないと思います」

 と言う言葉を飲み込んで、何かためになる言葉を探した。


「そうですね。失敗しつづけた今の私なら、もし部下が付いてこないなら辞めるのが正しい判断だと思います。前に突き進んでも傷つくだけです。私も指揮官として働いていた時に、破鱗石の件以降、評判が悪化しました。そこからさらにミスが多くなって、仲間が付いてこなくなりました。それからはどの部隊に行ってもみんな言うことを聞いてくれなくなりました。そしたら連携がとれないから、下手をすると人が死んでしまうんです。そしたらみんなが、ジェシカが殺したって……私のミスになるんですよね。まあ、私のミスもありましたが、いざとなれば指揮官なんて辞めてしまえば良かったのに、私は自分が間違っていないって思ってしまって、意地でも指揮官を続けました。命の掛かった戦闘では、言うことを聞かない外部行動員が私の生死に関わるレベルで邪魔をしてきました。回避行動を取った結果、踏んでしまうこともありました。どうしたらよかったのかと延々と考えることもありましたがそんなことは無駄です。私が辞めてしまえば良かったんです。そうすれば勇気隊長に会うことも無く勇気隊長も元気に……」


勇気隊長の寂しそうな顔を思い出すと、涙が出てきそうになった。


「その話はするな。隊長は絶対に治す。薬はあるんだろ?」

「あります」

「じゃあ行くしかねえよ。ジェシカお嬢が母さんを探すように、俺には勇気隊長の薬を探す目標が出来た。それで十分だ」

 サイモンは立ち上がり、私にピースサインをしてきた。


「少し、泣いてくる」

 サイモンは、ふらつきながら部屋を出て行った。


 これからサイモンは詰問きつもんされて、徹底的に糾弾されるだろう。

 行く末を見守ってばかりでは、守りたい者も守れない。それは私自身とチーム・アポカリプスで実証済みだ。少し状況を確認してから根回しをして置く必要がある。


 私は使っていない個室に移動し、そこでデバイスを起動させた。


「もしもしレベッカ?」

「どうしたのジェシカ?」

「今一人?」

「ええ。今日は部屋でまったりしてるわ」

「サイモンが仕事でミスをしたの」

「知ってる。たくさんの人が亡くなったわね。命がけの仕事をしているのだから仕方が無いけど、でも今回の件はサイモン隊長の過失が多い」

「その通り。だからサイモンが厳罰を受けないように手を回して欲しいの」

「分かりましたよ、愛しの大佐補佐殿。あまり厄介な仕事を寄越さないでね。一応言っておくけど、罪に問われなくとも非難はされるよ」

「分かってる。それでもよろしくお願いします、少佐殿」

「後でホットケーキよろしく」

 レベッカはうれしそうに笑いながら通信を切った。


 私が外部行動員司令部の左官を皆殺しにした件で、レベッカは昇格していた。


 もともと昇格人事が起きることはごくまれだったため、私のした行動は、くすぶっていた軍人たちを昇格させるのに十分すぎる椅子を空けた。


 そこから椅子取りゲームが始まったため、みんなは私の事を放置した。


 私が精神科病棟送りになり、二度と戻ってこないとタカを括っていた椅子取り名人たちは、周囲の人間を蹴落としながら上位階級の椅子に無事に着席した。


 そして、私の復帰と昇格をもって司令部の全員が戦慄したというのはレベッカから聞いた話だ。


 二人が私と仕事をするのを嫌って降格願いを提出し、その時の人事で昇格したのがレベッカだ。


 レベッカは仕事が出来る。私どころか、他の左官も追随できないほどの仕事の処理能力は他の左官たちも舌を巻いているし、私も彼女を信頼している。

 サイモンの件は彼女に任せておいた方が良さそうだ。


 出来る上司とは他人に仕事を振れる上司である。他人に仕事を振れない上司は自分の仕事に押しつぶさて病んでいく。

 以上が古ぼけたビジネス書に書いてあったが、私は正しいことが出来ているだろうか。


 通信をオフにすると私は立ち上がった。


 サイモンの動きを見てからでないと遠征の日程も決まらないだろう。


 まずはサイモンは外部行動員裁判に掛けられる可能性がある。

 外部行動員裁判は過失が多い場合に行われ、最悪死刑の可能性がある。


 だが、外部行動員を多数死なせたサイモンは、死刑になる可能性は低いだろう。

 一人もしくは一つの組織に多大なる責任と仕事を割り振るという嫌がらせに近い仕事配分はこのシェルターの得意分野だ。


 サイモンが過失を起こしたのは、隊長として未熟であり、その間違った考えを正せるような人材が側に居なかったからである。また教育も存分に受けていなかった。


 これを外部行動員裁判でサイモン以外の口から証言されれば、サイモンは減刑されるだろう。


 それに外部行動員が急激に数を減らしたため、失敗で処刑していては誰も居なくなる。

 サイモンの失敗など仕方のない事だ。このシェルターの伝統芸能は見切り発車だ。そして責任は末端と中間管理職がとる。

 よくこのシェルターは一つの組織として滅亡することなく存続しているなと感心してしまった。


 サイモンの弁護役は私に任せてもらいたいところだが、勇気隊長率いるチーム・アポカリプスで私とサイモンは働いていた。


 私が弁護すれば身内に甘いと言われる可能性がある。

 というわけで私のベストフレンド、レベッカに任せるのが一番というわけだ。


 私は立ち上がり、病室を出た。


 廊下を歩いていると診察室のところに戻ってきた。

 すると、診察室の入り口で元気の無さそうな少女が泣いていた。

 診察室の出入り口の椅子に座っていたのは参謀さんの妹・ルルルカだった。


 私はこの人に袋叩きにされた。

 恨んでいないと言えば嘘になるが、兄である参謀さんが亡くなって、その責任が私にあるとルルルカは思っているのだろう。


 そんな彼女に私はどう関わったらいいか分からなかった。また殴られても怖い。

 そのため、私は気付かないふりをして立ち去ろうとした。


「ちょっと待ってよ!」

 背後から声を掛けてきたのはルルルカだった。


 関わりたくないと思いつつも、私は彼女に立ち向かった。

「こんにちは」

 私は挨拶をした。


 ただ、これは余計なことを言って怒らせないための警戒の挨拶だ。


 周りには白人がいるので、有色人種のルルルカから襲われることはないだろう。

 だが、あの攻撃性を見せられてからは肝が冷える。


「サイモン隊長が死刑になるかもしれないんです。どうにかしてくれませんか」

 ルルルカは私にそう要求してきた。

 既にこちらとしては手を打っている。


 だが私は答えも表情も出さず、じっとルルルカを見つめた。

 あまりこういうのは好きではないがどちらが上かという事を理解させないと、私の沽券こけんに関わる。

 名目上とはいえ、大佐補佐という肩書きなのだから権力は最大限に行使する。


 そして守りたい人たちを守り抜くのが私の役目だ。八つ当たり的に私を攻撃してくるルルルカに同情はするが、それとこれとは別な話だ。


 もとより私はルルルカも守りたいと思っている。もちろん本人が聞いたら、おごるな、と激怒するだろうから私は多くを語らない。


 そんな私と見つめ合うルルルカは、固かった表情が徐々に崩れ、気まずそうにしている。

 気まずさはあれど、私は表情を変えず、じっとルルルカを見つめた。


 通りすがる人たちは見つめ合う私たち二人をチラリと見てこちらの様子をうかがっている。

「この前は殴ってごめんなさい。私はどうかしてました」

 ルルルカは目をそらして謝ってきた。


「いいえ、あなたのお兄さんには助けられたわ。だから私は今ここに居る」

「あの時あなたを見たら頭の霧が晴れた気がするんです。それと同時に耐えがたい怒りがこみ上げて怒りをあなたに向けてしまいました。私は兄様みたいに頼られる強い存在になりたいです。私は参謀と呼ばれたいからサイモン隊長の参謀になります。サイモンは兄様が大好きだったお友達。だから死んでもらいたくないんです」

「分かったわ。協力するけど条件がある」

「じょ、条件!?」

「そう、条件があるの」

「……」

 向こうは私が引く気が無いことを悟ったのだろう。


 口を一文字にして私を見つめている。

「下半身不随になった勇気隊長を治す薬があるの。他のシェルターにあるからそれを遠征して取りに行く」

 私の要求にルルルカは興味がありそうに考え事をしている。


「それって外に出られるって事ですか?」

 ルルルカは外に出たいようだ。それもそのはずだ。


 サイモンの部隊は壊滅したため、外部行動は他の部隊が拾ってくれるか、隊長を続けることを許可されたサイモンの下に人が集まるまで待つ必要がある。


 無論サイモンは隊長のという役職を事故後すぐに続行するのは許可されないだろう。仮に許可されたとしても信用は失墜しているので、人が集まらないのは明白だ。


 ルルルカが外に出られるかどうかは私が鍵を握っている。

「外に出るわ。一応だけど」

「サイモン隊長は一緒に行くのですか?」

「もちろん、同行してもらう。そのためには死刑を回避するように全力で協力するわ」

「薬を取りに行く作戦……乗ります!」


 よし、人員一命を確保した。

「よろしくね、ルルルカちゃん」

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