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私、酸素拾います!  作者: メケ
サイモンの章・その2
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第二話 荒唐無稽

「着いたか」

 俺は周囲の風景に目をこらした。


 星明かりの下、ほぼ暗黒の中、俺は鍛え上げた目で周囲の輪郭をしっかりと捉えた。


 俺がたどり着いたのは、北側の山の窪地だ。

 俺は今、窪地を下から見上げている。


 ここは遙か昔、流れた水が山肌を削り、窪地を形成した。この場所はエイリアンがたまに休息を取る場所として使っている。

 液体空気が貯まっているところがあるせいか、たまにエイリアンたちが液体空気に口を付けている。

 どの風景を見てもえらく殺風景だが、この世界はへこんでるか盛り上がってるか、平らか、それしか無い。


 映画のように地上で花鳥風月を楽しむような世界はもう失われた。

 いつか、そんな世界が再び戻るときは来るのだろうか。

 そしたら俺は何をしたら良いんだろう。

 液体空気を拾う仕事は終わりだ。青空の下で本でも読もうか……俺のガラじゃねえな。


 考えるのをやめて俺は窪地をもう一度見上げた。


 窪地には二匹のエイリアンが見えた。

 アリ型のエイリアンが多口型のエイリアンの死体を食らっている。体を揺らしながら、一心不乱に死体を摂取していた。


 アリ型が足の欠損なく無傷で捕食しているとは不思議な事だ。落ちていた死体でも捕食していたのだろうか。


 アリ型のエイリアンは基地内にいる数ミリの小さなアリとは違い、一メートルほどの巨躯で堅い装甲に守られている。尻には強力な酸を放出できる管があり、危険なエイリアンの一種である。


 弱点は細い首と下腹部だが、下腹部を攻撃すると強力な酸が傷口から放出される可能性がある。

 酸を浴びると時間の経過とともにサバイバルウェアが劣化し、最終的に穴が開く。酸に曝露ばくろした隊員は早めの帰還が求められる。


 小さなアリとは違い、アリ型のエリアンは群れるよりは一匹で捕食対象を探している傾向がある。

 しかし、繁殖期の際には群れて獲物を探し、メスに積極的に獲物を与える習性があるので注意が必要だ。

 これは、掃除屋経験者の勇気隊長の受け売りだ。


 勇気隊長だったら博士と話に花を咲かせていただろう。なんで俺がこんな仕事を……

「ふうっ、ふうっ」

 訓練生たちも興奮しているのか、息が荒い。


「良いかお前ら。今から俺が倒してくるから見てろ」

「分かりました」

 俺は自然が形成した窪地を山の方に向かって上ってり始めた。


 わざわざ相手を挑発する必要もない。背後から一発で決めてやる。

 俺はアリ型のエイリアンの背後にたどり着いた。


 この窪地は立地条件が最悪だ。

 背後の山は標高が高く斜面が急だ。人間の目は左右には見渡しやすいが、上は見づらい。

 下手をしたら獲物である俺を発見したエイリアンが山の斜面を駆け下りてくるかもしれない。


 さっさと片付けよう。それにしても何で俺はこんな苦境に立たされているんだ?

 ああ、そうか。それもこれも、俺が戦闘を見せるだなんて安請け合いしたためだ。どうして戦闘の意思がないエイリアンに攻撃を仕掛けなければいけないんだ。くそったれ!


 アリ型のエイリアンは、俺を一瞥したが、再びエイリアンの残骸をあさっている。

 一見、すきだらけだが、奴らは狡猾こうかつだ。

 近付けば毒腺から毒液をぶちまかしながら、攻撃をしてくる可能性がある。


 相手にしたくない。やっぱり帰ろうと言ってもいいだろうか。

 俺はアリ型のエイリアンの背後で立ち尽くしていた。


 それにこのエイリアン、隙が無い。何かを狙っているのか、やたらとこちらを警戒してくるが、攻撃は仕掛けてこない。


 視界の端で、山の上から砂粒や石が転がってきた。

「!」

「サイモン隊長、上です!」

 通信機から訓練生たちの警告が聞こえた。


 山の上を見上げると、別の個体のアリ型が砂丘から降りてきた。

 それと同時に先ほどまで多口型を捕食していたアリ型のエイリアンが俺に攻撃を仕掛けてきた。

「ちっ!」


 二対一は分が悪い。一瞬で片付けて、サシに持ち込む!

「さっ、サイモン隊長!」

 俺はバトルアックスを起動させ、目の前のアリ型の首を狙って、薙ぎ払った。

 アリ型の頭が吹き飛び、体液がじわじわと首からにじみ出ている。


「サイモン隊長、まずいです。サイモン隊長!」「わああああっ殺される!」

 隊員たちはパニックになっているようだ。


「殺されない! 大丈夫だこれくらい」

 失礼な奴らだ。俺は弱くねえ!


 間髪入れずにもう一匹のアリ型のエイリアンが降りてきたが、頭を吹き飛ばし片付けた。

 複数体はやはりきついが、この程度なら対処できる。


「ふうっ、どうだお前ら……!」

 油断した瞬間、横からアリ型に押し倒された。


 三匹目!


 目の前でアリ型の堅そうな顎が開いたり閉じたりしている。

 不味い、噛まれる!


「サイモン隊長! 助け……」

「助けはいい。これくらいなら倒せる!」

「サイモン隊長、助け……」

「大丈夫だ、見てろ!」

「隊じょお、たす……」

「大丈夫だって言ってるだろうが! 俺を見くびるな!」

 俺はバトルアックスの柄をアリ型の首に押しつけて、どうにか致命的な噛み付き攻撃を避けた。


「おおおおおおおおお!」

 なんだ、なんの声だ?

 通信機越しから奇妙な声が聞こえる。


「くっ」

 俺にのし掛かるアリ型は唾液を垂らしながら鋭い顎を動かしている。

 アリ型の顎は強力だ。噛まれたらサバイバルウェアに挟まれて圧迫骨折する。


 何度か俺の顔に噛み付こうとしていたアリ型は、突如として噛み付き攻撃をやめた。

 アリ型のエイリアンは周囲を伺うと、俺を襲うことをやめて離れていった。

 そして、何を驚いたのか、一目散に逃げていく。


「お、ゴオオオオオオオオ」

「ご、ぶふぅうう。うぶうぅうう」

 腹の底から絞り出すような鈍い悲鳴が、通信機を通して伝わってきた。


「まさか……」

 訓練生たちのいた場所を見下ろすと、多数の触手がうねり、たばなり、訓練生たちが解体されていた。


 かなり攻撃的な種類とされる多口型のエイリアンだ。

 触手を用いて外部行動員の体をへし折り、ねじ切っていく。


「ああ、あ、ああ……」


 隊員たちの笑顔、尊敬に満ちた眼差し、俺を呼ぶ声。それらが鮮明に浮かぶ中、たった今それの持ち主が殺されていっている。


 帰還生存率、帰還負傷率。目指していたもの全てが、荒唐無稽なものに変わっていく感覚があった。


 最高の成績を残した勇気隊長には頑固なところがあると思っていた。でもそれは間違いだった。俺たちの危険な行動を前もって止めてくれたんだ。もし、俺の隣に勇気隊長がいたら絶対にこんな所に連れてこなかった。どんなに嘆願たんがんされても連れてこなかっただろう。


「サイモンくん! みんなが、みんなが殺される!」

「!」

 ラッシュフォード博士の声に俺は我に返り、窪地の斜面を駆け下り始めた。


 本来ならば、一目散に隊員の下に向かうべきだった。

 なのに俺は木偶でくの坊のように立ち尽くしてしまった。子供のようにただ、震えていた。


「やめてくれ、やめてくれ」

 窪地の斜面がやたらと距離があるような気がする。

 降りても降りても続く斜面に、心臓は早さを増していく。

 俺は震えながら窪地の斜面を駆け下り続けた。


「ううぅううう、えぶっ。えぇええ……」

「ぎゅっ……くふっ、ふっ、おぅっ」

 通信機越しに幾つもの断末魔が生まれていった。

 きしむ骨、血のあぶくを吐き出す音。


「やめろおおおおおおおお!」

 斜面を駆け下りたその先に待ち受けていたのは、

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