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私、酸素拾います!  作者: メケ
サイモンの章・その2
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サイモンの章・その2 第一話 ラッシュフォード博士のお願い

 満天の星空、静寂の中で荒い息づかいだけが聞こえる。


 薄暗い荒野を俺たちは歩いていた。

「お前ら、へばってないだろうな」

「「「大丈夫です!」」」


 部隊員全員を視認して俺は、一つため息をついた。

 本日は外部行動の基礎練習だ。


 外に慣れること。


 この単純にして至難の課題が、外部行動員見習いの彼ら彼女らに突きつけられる。


「点呼」

「一」「二」「三」「四」「五」「六」「七」「八」「九」

「……」

 あと一名。返事が聞こえない。

 あいつは外部行動員ではない。もちろん見習いでもない。いちいち姿が消えるたびに背筋が凍ってしまう。


「おい、おっさん。どこ行った」

 俺は通信機に声を掛けた。


「おっさんとは失礼な。ラッシュフォード博士と呼びたまえ。みんなを救うヒーローだぞ」

 不機嫌そうに、しかしどこか頓狂とんきょうな声を上げて、ラッシュフォード博士は反論してきた。


 奴は学者だ。決してヒーローというガタイではない。ヒーローに武器を供給する博士の方がお似合いだ。と言うか博士だしな。

 ただし、ボサボサの髪に、不揃いの髭、冴えない顔は、ヒーローに覚醒する前の主人公にも見える。そこはポイントが高い。頭が良いところも魅力的だ。


 問題なのは、どんなに頭が良くても、危機が迫った時には人間の脳など飾りに過ぎない。


 かつて勇気隊長率いるチーム・アポカリプスは学者を外部に連れて行った事がある。

 全く役に立たず、サシガメ型エイリアンに囲まれた後に、いかに自分が偉いと講釈こうしゃくを垂れた。

 そして、自分ならこの状況を切り抜けられると言い放ってエイリアンの群れに突撃して食われていった。 


 もちろん俺たち三人は助かり、仲良く懲罰牢ちょうばつろうにぶち込まれて、散々な目に遭った記憶がある。


 この男、灰か金か。どちらだろう。


「講釈はいい。姿が見えないがどこに行った」

「途中で立ち止まっただけだ。ここにエイリアンの排泄物があるんだ。奴らはこの極寒の環境でうんこを垂れるんだぞ。僕ならお尻の穴から凍り付いてしまうよ」

「あ~。気持ちは分かる。お前らみたいな学者はクソみたいな衝動性をみんなに納得してもらうためにこんな方便を使うんだ。好奇心ってな。さあ、さっさと戻ってこい!」

「サイモンくん。今日の目的はエイリアンの調査じゃないのか?」

「んなわけねえだろ。あんた今日、初めて外に出るだろ」

「ああ、そうだ。僕はヒーローだから死なない」

「そう言った奴は大半が初日で死んでるよ。さっさと一緒に行動しろ」

「ったくしょうがないなあ」

 ラッシュフォード博士は心の底から渋るような声を出してきた。


 団体行動が出来ない奴は周りの人間の命を危険にさらす。

 奴が学者じゃなかったら、置き去りにしてやるくらいに俺は腹が立っていた。


 本当のことをいうと、学者は連れてきたくなかった。

 しかし、「星を見る者」という超大型エイリアンの発見により、再びエイリアンの生態調査が重要ではないかという気運が高まってきた。


 そんな中、白羽の矢が頭に突き刺さった間抜けがいる。

 そうだ、俺だ。


 「星を見る者」の生息地から何度も帰還している、かつ五体満足で更に教官である。

 厄介な仕事を押しつけるにはうってつけの立場に俺はいた。


 来た道を少し戻ると、崩れたコンクリートの上に載ったエイリアンの排泄物を見て、ご満悦のラッシュフォード博士がいた。

 奴の着ているサバイバルウェアを後ろから蹴り上げてやりたかったが、俺はぐっと我慢した。


 俺に黙って付いてきてくれている隊員に怒鳴り散らす醜態しゅうたいは見せられない。

「おい、この調子だと次から連れてこねえぞ。俺たちはお前のおりじゃねえ。お前が死んだら俺たちにも責任が来るんだぞ」


 俺の怒気に呼応するかのように、ヘルメット奥のラッシュフォード博士の表情も険しくなる。

 当たり前のことを言っているつもりだが、それでも怒る人は怒る。


 かといって俺が言ったことを守ってくれるかというと、そう言うわけでもない。三人で上手くやっていたあの時代が懐かしくなって、俺は涙ぐんだ。


 勇気隊長だったら、ここは作戦を変えるだろうな。

 めてみよう。褒めて言うことを聞かせる。自尊感情を刺激するとかなんとか言いながら、勇気隊長はこの方法を試してみるかもしれない。


「なあラッシュフォード博士。あんたが死んだら誰がその知識を継承するんだ? すぐに死んでいい存在じゃねえだろ。誰かを救うための知識だ、希望だ。あんたが自分のことをヒーローだって言うんなら、修行の時間が必要だし、ヒーローはそのための時間は惜しまない。本しか読まないナードでもめちゃくちゃ強い師匠に出会って強くなるだろ。違うか?」

 ラッシュフォード博士ははっとしたような顔をして、急にニコニコし始めた。

「……そうだよね。僕には肉体的な修行が足りなかった。君が師匠だな? 師匠は一見頼りなさそうなことも多いからな」

「俺のことを褒めてるのか、馬鹿にしてるのか?」

 こいつ、褒めてもけなしても腹が立つやつだ。


 しかし、俺の発言を肯定しているようだ。

 感触は悪くない。これからもこの方法を使ってみよう。


「総員、帰投する。帰ったら戦闘訓練だ」

「サイモンくん。帰る前にエイリアンを倒すところを見せてくれよ」

「はぁ?」

 ラッシュフォード博士のわがままが始まり、俺はまたイライラしてきた。


「一匹サンプルとして持ち帰りたい」

「ダメだ。シェルターに入れたら爆発する。それに普通の外部行動員はわざわざ遠出して戦わない。率先だって戦うのは掃除屋スイーパーだけだ」


 掃除屋スイーパーは戦闘用のサバイバルウェアを着てエイリアンを討伐する外部行動員のことだ。危険度の高さから掃除屋になりやがる外部行動員の数は圧倒的に少ない。

 だが、掃除屋を続けて三年間生き残ったら、大抵のエイリアンには負けないとも言われている。


 実は勇気隊長も掃除屋出身だったりする。議長の息子だが、子供なので下手に処刑にすることが出来なかった。

 そのためエイリアンに殺させようと掃除屋に入れたら、無茶苦茶強くなったという逸話がある。


「そうだったな。ついつい忘れていたよ。でも倒すところを見てみたい」

「ダメだ。俺の訓練生はまだ戦闘訓練を終えていない。もし襲われたら殺されるかもしれない」

 勇気隊長の意志を継ぎ、俺は帰還生存率一〇〇%の部隊を作り出す。

 それが俺の野望だ。


「俺はサイモン隊長の戦闘が見てみたいです」「私も見てみたいです!」「私も!」「僕も!」

 訓練生のほぼ全員が俺の戦闘を見たいと言ってきた。


「サイモンくん。僕の研究における師匠はその全てを見せて、聞かせて、覚えさせてくれた。君の訓練生たちも君の技が見たいんだ」

 ラッシュフォード博士は俺の目をじっと見つめてきた。


「……分かったよ。じゃあ移動を開始する」



 その昔、勇気隊長の部隊に行く前に所属していた部隊がある。

 チーム・ラグナロクの第三教育分隊だ。

 この部隊には外部行動員になるための訓練生たちが所属するいわば三軍のようなところだ。


 俺も昔、訓練生の時に戦闘訓練の一環として、連れて行ってもらった。

 まだ行くのは禁じられていたが、それでも連れて行ってもらった。


 その時の隊長だった風切かざきりさんが、見て覚えろと言ってくれたのは今でも覚えている。


 まあ、今じゃその隊長も数多あまたと浮かぶ夜空のお星様になっちまった。俺も、いつ逝くんだろうな。だが、せめて何か残してやりたい。勇気隊長。あんたが遺書に残した、何かを残したいという意思、俺が引き継ぐ。タダの外部行動員の泥臭い戦いを見せてやろうじゃないか。


 俺は北方に向かって歩を進め始めた。

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