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私、酸素拾います!  作者: メケ
ジェシカの章その1
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ジェシカの章その1 第一話 ならば燃え尽きるまで進め

 私は不安になりながらエレベータで上の階を目指していた。

 今でも私は仕事で干されている。それなのに勇気隊長に求婚しても良いのだろうか。

 そもそもどうして人から好かれないのだろう。いや、違う。好かれる必要はないんだ。上手く生きられないことが問題なんだ。

 



「ジャック……ジェシカか? なあ孫の顔が見たい」

 ある日私が父の部屋を訪れると、父がまた私の名前を間違えた。

 だがそれも許すことにした。


 私が司令部を襲撃した件や大佐の暴走等を含めて責任を取った父は退役し、すっかり呆けた顔をしていた。

 仕事人間だった父はなんと私のために中将を退いたのだった。


 父から愛されていないと思っていたが勘違いだったようだ、と思いたい。


 仕事を辞めた父は抜け殻のようで、軍人だった頃の覇気はない。

 仮にジャック少尉の隣で犬に餌をやっていても、違和感のない状態になっている。


 そんな父に何か吉報を送りたい。

 そう思った私が、大佐補佐に昇格したことを父に報告すると、


「初めて聞いた役職だな。とりあえず名前だけ大佐って事か?」

 遠慮もなく、父は言ってのけた。


「まあ、十六歳で大佐なんて普通は無理だ。少佐だって奇跡だってのに。お前が大佐補佐に任命されたのは、外部行動員たちの聖女だからだよ。勇気隊長たちの無念を晴らすべく、司令部に突撃した現代版のジャンヌ・ダルク。大佐の悪行を暴き、手榴弾で鉄槌を打ち、三名の外部行動員の無念を晴らした。手榴弾の破片は肺を通過するも奇跡の復活。極めてストーリー性がある。更に言うなら、くすぶった軍人にとってお前を責め立てるより、空いた椅子の争奪戦をしていた方が遙かに有意義だ。下手に中将の娘を責め立てるよりも、波風を起こさない方に舵を切ったんだろう。それに下半身の動かない勇気隊長をお詫びとして司令部に入れて、介護するよりはお前を入れた方が良い。勇気隊長は有色人種だからな。昇格は少佐の階級に少し色を付けただけだ。まあ見てろ。お前に仕事が割り振られるかどうかを」

「お父さん……」

 父の物言いに私は底知れぬ不安を覚えた。


「ジェシカ。孫の顔が見たい。俺にとってはそれが最良の選択だと思う」

「そうは言われても……」

「分かってる。母さんを探すんだろ。俺だって埋めてやりたいさ。だが俺は、お前が退役して子供を産んだ方が幸せになれると思ってる。父さんはそう思うぞ」

「子供を産むだけが人生ではないです」

「そうだな。ならば突き進め。血にまみれて燃え尽きるまで」

 父の目は、私をじっと見つめていた。


 分かっている。私は人殺しだ。上手く行かなかったではすまないほど人を事故死させた。


 だけどそれでも私は前に進みたい。

 親の前では否定するけど私は自分のことを分かっている。



 

 父との会話を思い出しているうちに、エレベーターは外部行動員の階層にたどり着いた。

 エレベーターのドアが開くと、冷たい風が吹いて、私の体を撫でた。

 外部行動員層に来るといつも思う。相変わらず寒い階層だ。


 カースト制度が本格的に消失すれば、この階層にいる人たちが、地熱の恩恵をより受けられる下の階層に移住を希望するようになるだろう。


 だが住める人数の関係上、それが叶う事はないだろう。

 そうなれば、暖かな下の階にいる白人たちに不平不満が溜まるのは目に見えている。いや、既に溜まっているかもしれない。


 リリィ少佐は間違っていたが、彼女の思想の全てを否定できないのも事実だと思う。

 みんなが平等のシステムを作るのは難しい。

 一つの階層に住める人数は決まっているのだから、上の寒い階層にいる人たちが不満なくくらせるシステムを構築しないと、このシェルターは持たないだろう。


「ジェシカ少佐……おっと大佐補佐。お疲れ様です」

 エレベーターから出ると、ジャック少尉が満面の笑みで立っていた。


「こんにちは、ジャック少尉。少佐で良いですよ」

「いえいえ、大佐補佐と呼ばせていただきます。ん? 泣いていたようですが、どうしたんですか?」

「いえ、仕事も上手く行かないし、結婚相手も見つからないし焦ってます」

「大佐補佐はまだ十代ですよね」

「はい」

「焦りすぎですよ。私も二十代後半で焦ってましたが、無事に結婚できました。可愛い子供もいます」

 ジャック少尉はゆっくりとしゃがんで、前方に手招きをした。


 微笑んでいるジャック少尉のもとに犬が尻尾を振りながら走ってくる。

「よーし、よしよし」

 ジャック少尉は穏やかな顔で犬を撫でている。


「ジャック少尉は幸せそうでうらやましいです」

「そうですか?」

「はい、いつも幸せそうです」

「そうですねえ……この世の出来事は、ただあるだけに過ぎないのです。我々がそれに対して喜んだり悲しんでいるだけで、出来事はただ存在し続けるだけなんです。結局は受け手次第。英雄の死は悲劇的ですが、悪党が無残に死んでいく様は爽快でしょう。同じ死という出来事に、受け手が己の価値観を用いて、感情を動かしているだけです」

 ジャック少尉の話を聞いて、勇気隊長とスティーブン大佐の事が思い浮かんだ。


「要するに受け手次第ということですか?」

「ええ、認知論というものですよ。手に負えなくなった場合は別の手段を使いますが、私はそうして切り抜けています」

「ジャック少尉も苦戦しているんですね」

「毎日が戦いです。いつ、何が起こるか分からないですからね」

 ジャック少尉は薄く笑った。


 ジャック少尉の処世術を聞いて、私も少し安心した。

 強い人には理由がある。それが分かっただけで十分だ。


「大佐補佐はどのような用事で?」

「勇気隊長のところへ行きます」

「ではついて行きましょう。この前殴られたらしいですね。一人で行ってはダメですよ。必ず駐在員に声を掛けてください。お願いしますよ、聖女様」

「ふふっ、そんな神々しい者ではないです」


 二人で勇気隊長の部屋に向かう途中、

「ジェシカ大佐補佐、お疲れ様です」

 見知らぬ外部行動員たちが私に敬礼していく。


 彼らが私を見る目は光り輝いており、私は思わず目を背けたくなった。

 私はただの人殺し、そして足手まといだ。

 私はリリィ少佐の凶行を止めることが出来ず、目の前で仲間たちが蹂躙じゅうりんされていくのを止められなかった。サイモンの負傷は私のミスだ。


「こ、こんにちは」

 それでも私は目をそらさずに挨拶をし返した。


「お目にかかれて光栄です」

 外部行動員は私に肯定的な声を掛けてきた。

 私は確かに聖女として持ち上げられている。

 本当の中身を知ってか知らずか、外部行動員たちは私に敬服しているようだ。


 笑顔で対応するが、居心地がとても悪い。

 彼らは私の偶像を盲信しているだけに過ぎないだろう。

 信用できない私を信用する彼らのことを私は信用することは出来なかった。

「ジェシカ大佐補佐……すっごく可愛かったな。基本はポンコツだけどやる時はやるんだよな」

「おい、声が大きいぞ」

「ジェシカが通れば道理が引っ込む」

「やめろ、聞こえるって!」

 うん。私のことをよく理解している。深く傷ついたが、彼らの事を信用しよう。


 勇気隊長の部屋の前に来ると、私は部屋の前にジャック少尉を待たせて部屋の中に入った。

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― 新着の感想 ―
[一言] サイモンやお父さんの言葉で思い出しましたけど、ジェシカちゃん事故死という名の殺人鬼でしたね。 ちょっと何言ってるがわかりませんが、白人たちのネーミングセンス、私は好きですよ。
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