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私、酸素拾います!  作者: メケ
サイモンの章・その1
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第五話 愛のないムチ

「あのですね、サイモンさん」

「どうした?」

 診察室を出てからというもの……ジェシカは黙りこくっていたから調子が悪いのかと思っていたが、喋れるみたいだ。


「話があるんです」

 ジェシカは伏し目がちに口を開いた。


 おそらく勇気隊長の特効薬の話が聞ける。今日はその約束のはずだったからな。


 本来なら脊髄損傷の特効薬をもらえるはずだったが、このシェルターに在庫が無いと言う話だ。


 治療薬の歴史は古く、日本で開発されたステミラックなど様々な開発がされてきた。

 今ではリモハノール錠と呼ばれる薬を経口摂取で、一ヶ月投与すれば治るらしい。

 ものすごく高価らしいが、リリィ少佐の件があるので親族に当たる少将が動いてくれたみたいだ。

 一介の外部行動員のために少将が動くとは、よっぽど負い目に感じているのだろう。


「まあ、立ち話もなんだ。どこか座れる場所にでも行かないか」

「カフェなんかどうです。有色人種も入れる穏健派専用のカフェがあります」

 俺はジェシカに連れられて、白人層のカフェに入った。


 カースト制度は崩壊し始め、黒人である俺もこのカフェに来ても良いことになっている。

 未だに有色人種禁制のカフェが有るらしいが俺には関係ない。


 カフェには一度来てみたいと思っていたが、周りは白人ばかりだ。

 赤い金魚の中に黒い金魚を一匹入れたくらいに俺は目立っていた。

 じろじろと見られて、見世物小屋の猿になった気分だ。


 白人って言ったってそんなに白くねえくせに調子に乗りやがって。


 非常に不快な気分だったが、ここで問題を起こすと、ジェシカからまた隊長の話が聞けなくなる。

 俺は視線を無視して、席に座った。


 ジェシカは浮かない顔をしている。先ほどルルルカにやられた件がこたえたのか?

「サイモンさん、聞いてください。私、英雄とたたえられて大佐補佐という新しく作られた役職に就いたんですけど、仕事がないんです」


 ジェシカの方から、思ってもみない話を振られた俺は、

「あ、ああ……そうか……大変だな」

 と当たり障りのない返答しか出来なかった。


 あれ? 勇気隊長の話は?


「結局、死神とか無能とか言われなくなっただけで、やってること変わりないんですよ。何かお手伝いしようと思っても、英雄にこんな仕事をしてもらうのは恐れ多い、と言われて。少佐から大佐補佐になっても何も変わらなくて……大佐補佐として与えられていた仕事も新しく来た中佐がやるし、私どうしたら良いですか?」

 もしかしてこいつ、病んでるのか?

 ジェシカはべそをかき、両手を目元に当てている。


「サイモンさん、私もうどうしたら良いかわかんなくて……ひぐっ」

 ああそうだ。確かにジェシカはせっかちだし、自分の言った言動が相手にどう伝わるか考えられない。ミスも多い。外部行動をしたら、引き連れた外部行動員たちが死ぬし、ジェシカは遭難するし、誤射で俺の顔が焼けた。

 こいつ、良いとこねえなあ。


 まあ、顔立ちは悪くない。ちょっと目がきついが、可愛い方だ。性格は意地悪じゃない。優しいと思う。外部行動は向いてない。ミスも多いし他の仕事でもやっていけるのだろうか。


 ということで、俺が考えつく最良のアドバイスは、


「ジェシカ、悪いことは言わねえ。結婚して、子供を産んで、静かに暮らせ」

「酷いですっ。それに私、恋人いないんですよ」

「作れ」

「そこまで言うなら誰か紹介してくださいよ」

「大佐補佐って言ったら、普通は引く手あまたじゃないのか?」

「普通は?」

「ああ。普通はな」


 ジェシカは眉を寄せて、腕を組み意味を考え始めた。

「ぐっ……くうっ」

 ジェシカは机に顔をつけ、震えている。

 俺の言いたいことに気付いたようだ。


 俺が言い放った言葉は、確かに残酷なものだろう。

 だが言ってやらないとジェシカはきっと気付けねえ。これは俺からの愛の……いや、愛してねえ。ただのムチだ。


「サイモンさん。私のこと嫌いですか?」

「いや、そうでもねえが」

「私に誰か紹介してください! 恋人が欲しいんです。私、恋人がいれば幸せになれますから。勇気隊長なんてどうですか?」 

「はあ?」

 とんでもねえ話だ。ジェシカに誰かを誰かに紹介するだなんて、相手に実弾をプレゼントするよりも酷いメッセージだ。ジェシカは外部行動員になんと思われているのか、分かっていないのかもしれない。


「ここまで言って勇気隊長を紹介しないって事は私のことが好きなんですね。分かりました。サイモンさん。さあ、結婚しましょう」

「それは無理だ。一応言っておくがお前はやけくそで、結婚しましょう、って言ったろ。失礼だぞ。あまり俺を失望させるな。何か焦っているのか?」

 俺の言葉にジェシカは体を震わせた。

 図星だったようだ。


「だ、大丈夫です。たしかに失礼でした」

「ったく。とりあえず勇気隊長に言っておく。誰か紹介してもらえるかもな」

「ほ、本当ですか?」

 ジェシカの顔が一瞬明るくなったが、

「私、他の誰かより、勇気隊長が良いなって思うんですけど」

 ジェシカは口を尖らせて申し訳なさそうに俺にお願いしてきた。


 こいつ、本当に勇気隊長のことが好きなんだな。


 勇気隊長には奴隷ちゃんがいるといつも思っていたが、奴隷ちゃんは少し幼すぎる。下半身麻痺で状態が不安定な勇気隊長を養えるのはジェシカくらいだろう。

 ただ、問題なのは隊長の気持ちだ。


「本気で言ってるのか?」

「本気です。お願いしますね。私、勇気隊長の点滴を変えてくるんで。これ、お金です」

 ジェシカはうれしそうな顔をしながら、席から立ち上がった。


「おいちょっと待て、おい!」

 ジェシカはお金を置いて、満面の笑みで去って行った。

 隊長は下半身不随で、どうにもならないのに結婚の話をされても喜ぶのだろうか。


 全部説明できないうちにジェシカは走り去って行ってしまった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 有色人種も入れる穏健派専用のカフェのくせに見世物小屋の猿みたいにジロジロ見られるんですね…… 頑張れサイモン君は強い!
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