第三話 混迷した怒りの矛先
こいつマジでやべえ。言葉が見つからねえ。
俺はルルルカへの対応に悩んでいた。
「悲しいさ。喧嘩もした事はあるが俺の相棒みたいなもんだ」
俺は参謀の裸体写真を見て、しんみり思った。
馬鹿な奴だがとても良い奴だった。それだけは確実に言える。
「じゃあ私がマサルさんのように接するので、サイモン隊長は私のことを参謀と呼んでください。どんな感じが良いですか。気軽な感じがいいです?」
「……」
俺は何でこんな情緒不安定な奴を入隊させてしまったのだろう。
だが、自分の大切なものを失っても、前に進もうとする点では寝たきりベッドの上で腐っている隊長より評価できる。
「参謀ビーム! 参謀ビーム!」
突如、ルルルカは胸で十字に手を組み、奇行をし始めた。
ああ、うるさい。
普通の訓練生だったらぶん殴ってるところだが、相手は参謀の妹だ。しかも精神を病んでいる。
俺は何も出来ずに黙って立っていた。
帰れ。頼むから帰ってくれ。
変にルルルカを否定して、さらに情緒不安定になっても困るので、俺は黙っていた。
「もうそれくらいにしたらどうだ。参謀と呼んで欲しいならそれなりに頭を働かせろ。それなら呼んでやってもいい」
「頑張ります。その時は参謀さんのようにサイモンって呼びます。良いですか?」
「勝手にしろ」
「腕が鳴るところだな。よし、よし、よし」
ルルルカは鼻歌を歌いながら、とても満足そうだった。
「また来ますね」
「ああ」
俺は表面上は笑顔を取り繕っていたが、ルルルカが俺に背を向けたときに真顔に戻った。
ルルルカのとても落ち着かない姿を見て、俺は大きな不安を覚えた。
やっと行ったか。
そうは思えど、ルルルカの事を厄介者と思う事は出来なかった。
血は繋がっていないが、俺も参謀がいなくなってから調子が悪い。
おまけに勇気隊長も下半身不随で嫌なニュースばかりだ。突然息切れがするし、ここぞというときに気が抜けているのが自分でも分かった。
ルルルカほどではないが俺も精神に不調を期待しているんだろう。大丈夫だ、珍しいことじゃない。
肉親を失ったルルルカの今の状況が良いとは言わない。だが、悪いとも言えない。
居なくなった兄の存在を埋めるために自分が兄になる。端から見ればよく分からない心の動きだが、自分が兄の立ち位置に埋まることで、そもそも兄という存在を消してしまいたいようにも見える。
ルルルカが部屋から出ようとして入り口のドアに近づいたとき、ドアがノックされた。
「入れ」
「失礼します」
部屋に入ってきたのはジェシカだった。
ジェシカの少しつり上がった目は怒っているようにも見えるが、怒ってはいない。
むしろ彼女は気弱な部類だ。
「お前っ!」
ルルルカが突如、ジェシカに飛びかかった。
とっさのことで、ジェシカは対応できずに頭から倒れ込んだ。
すぐさまルルルカはジェシカに馬乗りになって、ジェシカを殴り始めた。
「ルルルカ! 何をやってる!」
突然の出来事にジェシカは対応できていない。手を伸ばして抵抗しているが、一方的に顔を殴られているだけだった。
「よくも兄様を殺したな!」
「やめろ! さっきまで兄は居ないって言ってたろ!」
俺はルルルカをジェシカから引き剥がし、俺のベッドに放り投げた。
ルルルカの体は俺のベッドの上で跳ね、体が壁にぶつかった。
「ぎゃっ!」
俺に放り投げられたルルルカは俺のベットの上で、丸くなってううう……と呻いている。
「ジェシカ、大丈夫……じゃないな」
ジェシカは鼻から血を流している。
「さ、サイモンさん。これいったいなんれすか?」
「ジェシカすまねえ。俺の監督不行き届きだ。立てるか?」
「……ふぁい」
俺はジェシカを肩で支えて起き上がらせた。
「お前のせいで、お前のせいで死んじゃったんだぞ。バカ女! 死ねえっ!」
ルルルカは俺のベッドの上で涙を流しながら、俺の枕を投げ、シーツを剥がして宙に放り投げている。
「ルルルカ、黙れ! 参謀になりたいならもう少し感情を制御しろ」
気持ちは分かる。だが参謀が死んだ事とジェシカとは関係ない。
ジェシカが一人で立ったので、俺はジェシカの頭を撫でた。
幸い頭部からの出血はないようだ。手に血が付かなかった。
「サイモンさん、大丈夫ですから」
「大丈夫じゃねえよ。頭部CTくらい撮れ。頭ぶつけてただろ?」
「サイモンさんの責任にもなります。大丈夫です」
「じゃあ転んで頭を強く打ったとか嘘でも良いだろ。とりあえず医務室に行くぞ」
俺はなんとかジェシカを説得して、廊下に連れ出した。
もちろんルルルカも追い出した。




