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私、酸素拾います!  作者: メケ
第二部・外部遠征編
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序章

 前回までのあらすじ

 ジェシカはチーム・アポカリプスに所属した。

 その後アヌビスを使って大量の液体空気を獲得した。

 しかし、議長の息子である勇気隊長が功績を立てたことにより、危機感を持ったスティーブン大佐はあの手この手を使い、チーム・アポカリプスの手柄を横取りした。

 その後、奪った探索地図を用いてスティーブン大佐は外部行動を行った。

 案内役としてジェシカが先頭を切るも「星を見る者」と呼ばれる巨大エイリアンと、多口型と呼ばれるヒトデ型のエイリアンに襲撃され、部隊はジェシカを除いて全滅した。

 その後、勇気隊長率いるチーム・アポカリプスが救助に向かった。

 無事に救助するも、またもや手柄を立てられると困ると考えたリリィ少佐がアヌビスに乗ってチーム・アポカリプスを襲撃する。

 リリィ少佐は勇気隊長によって討伐された。

 勇気隊長はリリィ少佐の襲撃を受け、下半身不随となる。

 サイモンはジェシカに顔を焼かれたが、五体満足で帰還した。

 参謀は真っ二つにされて死亡した。

 怒り狂ったジェシカは外部行動員司令部を襲撃し、瀕死の重傷を負うも復活した。

 そして、虐められていたことにより、正常な判断が出来なかったとして咎められることはなかった。

「はあ~」

 今日も私はため息をつきながら鏡をのぞいた。


 相変わらずのくせっ毛に思わず嘆息してしまうのは仕方がないことだ。

 今日はとりわけ髪が言うことを聞いてくれない。

 湿気だろうか。空調によってこのシェルターは管理されている。いつも徹底した管理と補修が行われているが、千年以上経つとさすがに調子が悪いようだ。


 レベッカは、ブロンドがうらやましいと言ってくれるけど、こんなぐるぐる頭では不格好に見える。

 可愛くないつり上がった目でにこりと笑ってみるが、果たして私の笑顔を見た男たちは可愛いと思ってくれるだろうか。


「う~ん。私、怒ってないのにな」

 口を尖らせるのをやめて、私は部屋を出た。


「さ~て、今日も仕事をしますか」

 私は気怠けだるい雰囲気を見せないように、私はキビキビと歩いた。


 ああ、だるい。


 仕事を効率よく終わらせるには、事前に今日の仕事をどのように終わらせるか考えておく必要がある。


 ああ、見える、見えるぞ。私が椅子に座ってぼうっとしている姿が。何で私はこんな扱いなんだろう。考えているだけで嫌になってくる。

 一人で悶々としていると、いつの間にか司令部の前にたどり着いてしまった。


 ゆゆしき事態だ。

 常に時間は誰にでも等しく過ぎていく。


 だが私の脳みそはバグっているようだ。仕事の時だけ妙に遅く時間が経過する。

 例え錯覚だと自分に言い聞かせても、時間に対してどれほどあなたが間違っていると説き伏せても、この苦痛な時間は変わらない。

 理屈は分かっているのにこうも上手く行かないとは、どうしたものか。


 いつまでも渋ってはいられないので、私は重い扉を開けた。

「おはようございます」

 挨拶は欠かさない。元気に挨拶する事は愛され上手の第一歩だ。


「おはようジェシカさん」

「ジェシカ補佐。よろしく」

 みんなの挨拶を受け、私は愛想笑いを浮かべながら席に座った。


 ああ、早く帰りたい。

 そう思いながら私は自分の席に目を向けた。


 一つの埃さえも落ちていない、本当に綺麗な机が私の席だ。

 ちなみに写真立て以外は仕事の書類さえ一つも無い。本当に困った状況だ。


 意味の無い事をし続ける事は非常に辛い拷問である、という話は訓練生の時に習った尋問術の教科書に書いてあった。


 しかし、何もしないというのも果てしない拷問だ。

 お飾りも楽じゃ無い。


 ちなみに私の席は大佐の隣だ。

 新しく着任したジョナサン大佐はいつもニコニコしながら私に話しかけてくれる。


 私は昇格し、大佐補佐という聞いたことのない役職に就くことになった。

 刷新された外部行動員の司令室は、雰囲気が良くみんな笑顔。私に八つ当たりする人もいない。怖いくらいに組織は改善された。


 だが、

「あの~大佐。そろそろ仕事が欲しいんですが……」

「ジェシカ大佐補佐。英雄に仕事をさせるのは申し分ない。どうしてもと言うのなら、掃除なんかどうだ」

「はぁ。どこをやってきましょうか」

「そこら辺をやっといて」

 そこら辺ってどこだよ。まあいいか。司令室の中を掃除しておけば良いのだろう。


 私は司令部の中の掃除を始めた。


 時計の針が一秒ずつ時を刻んでいく。


 意外と埃がたまっていることに眉をひそめながら、私は掃除機をかけていった。


 それにしても英雄が掃除をすることは良いのだろうか。

 仮にも大佐補佐なのだから前の少佐よりは偉いと思うのだが、基準がよく分からない。

 掃除を無難にこなして、私は席に着いた。


 時計の針が時間を一秒ずつ刻んでいく。


 私は席に座っているだけだった。何もせず、ただひたすらに時が過ぎるのを待っているだけだった。

 時計が遅い。なんで一秒ずつ進んでいるんだ。六十秒で一分なんて長すぎる。せめて仕事中は十秒で一分進んでくれないだろうか。


 私が座っていても、司令部の他の左官たちは何も言わない。

 むしろ私が無言で何かをしようとすると、視線が集まってくるのが分かる。目で見なくても針で突き刺されるような感覚を私は感じていた。

 ここに居て私は意味があるのだろうか。


「大佐。外部行動がしたいです」

「まだ慌てるような時間じゃない。君がリリィ少佐の襲撃を受けてからそう時間は経ってない。もうちょっとゆっくりしていた方が良い」

「……はい」

 納得は行かないが、立場は大佐が上だ。戻るしかないだろう。


 私は口を一文字にして席に戻った。

 つまらない、つまらなすぎる、つまらない。

 愚痴を心の中で言っても仕方が無いが、どうしても出てしまう。


 おもしろき、こともなき世を、おもしろく 。

 日本のサムライの言葉だけどそれが出来たら苦労はしない。

 だからこそ知的好奇心を持ち、常にアンテナを張り巡らす必要がある。


 だが、好奇心があっても、物事を理解するには知識が必要だ。


 難しくて読みたくはないのだが、仕方がなしに薬理学の本を読み始めた。

 小難しいカタカナが並んでいるが、私に理解できるのだろうか。


 テトラサイクリン系、セフェム系、キレート化合物……


 そもそもどうしてこんなに難しいのだろう。クシャミナオールとかハナミズデナーイとかわかりやすい物質名にしてほしいものだ。


「……う~ん」

 現在、勇気隊長は下半身不随である。


 下半身不随を治療するには分子標的薬が必要になる。

 人間の神経が再生しないのは、再生を阻害する分子が神経細胞の末端と結合してしまうからだ。その原因分子さえ排除できてしまえば、勇気隊長は元通りの生活を送る事ができるだろう。


 問題なのは、このシェルターに分子標的薬を作る製法が存在しないということだ。

 千年前の人類は、シェルターに人と技術を分散させた。


 もちろんシェルターには面積という問題があるから、分散させたかった気持ちは理解できる。

 もう一つの目的として地下通路で交易を行い、仲良くやってもらいたかったみたいなのだが、現実は上手く行かなかった。


 食物の病死により切羽詰まった他のシェルターが攻めてきたり、事故や連れ込んだエイリアンが破裂して施設が損傷したりとそれぞれのシェルターで問題は山積みだった。


 それでも我々人類はどうにか上手くやってきたつもりだったのだが……


 私はため息交じりに薬理学の本を閉じた。


 敬愛するリリィ少佐が殺人鬼だったのは、私の心に傷跡を残していた。

 同じように敬愛していた勇気隊長が、リリィ少佐の魔手に掛かった。その結果として勇気隊長が満足に生活を送れなくなってしまったのは私の胸の中に暗い影を落としている。


 時計の針が十時を指し、私は立ち上がった。

 いつものコーヒータイムだ。

 マグカップにコーヒーを入れて、配っていくとみんなは笑顔でありがとうと笑ってくれる。


 みんなの笑顔それだけで十分だ。私は幸せだ。あとは私が上手くやって勇気隊長を幸せにする。それだけだ。

 だけど隊長さん。この作戦には危険がつきまといます。それが終わったら私のことも幸せにしてくれませんかね?


 コーヒーを配り終えた後、私は机に戻ってゆっくりコーヒーを飲んだ。


 不味まずっ。まさに泥水。


 顔をしかめながら私はマグカップを机に下ろした。

「……」


 ふつくれているだろう私の視線の先には、机の端に置いてある写真立てがたたずんでいる。

 その中には私と隊長さん、そしてサイモン、参謀さん、奴隷ちゃんの五人で撮った写真が寂しそうに収まっていた。

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