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私、酸素拾います!  作者: メケ
終章 
41/147

私、酸素拾います!

 気がつくと私はベッドの上で寝ていた。

 天井やカーテンの色調から、ここが病室だということに気がついた。


「目が覚めたかね、ジェシカ」

 私に声を掛けてくれたのは少将だった。


「お久しぶりです少将」

 妙に懐かしい気がしてきた。数年間眠っていたような気がする。


 起き上がろうとしたら少将が静止してきた。

「そのままでいい。すまなかったと言いたかった」

 私は少将になんと言ったら良いか分からなかった。

 少将はどこかに電話をしている。電話口では男の人の声が聞こえた。

 ジェシカが起きたと、だけ伝えて少将は電話を切った。


 勇気隊長、サイモン、参謀さん。

 この三人はリリィ少佐の強襲がなければ今でも元気に生きていただろう。

 リリィ少佐は勇気隊長が殺害したため、少将も愛するものをなくした悲しみに暮れているだろう。


「なんと答えたら良いか分かりません。私も人を殺しました」

「君は二週間近く眠っていたから、このシェルターで起こったことを説明する。君が手榴弾で司令部を破壊した件の責任を取り、中将である君の父さんは職を退いた。君が大佐から受けた任務は人員不足の上に難易度が高く、その後の心神喪失による殺人に繋がった一因として判断された。人殺しは大罪だ。だが、君の裸の写真が大佐以外の机からも出てきた。その件もあって、君はこの呼吸器外科に入院し、精神科でカウンセリングを受ければ無罪放免だ。次は無いと思え」

 この時点で少将は目に涙をためていた。


「裸……あの時は助けてくださって、ありがとうございました」

「礼はいいさ。私も大佐をもっと見張っていればこんな事にはならなかった.。あと、カースト制度は廃止になる予定だ。リリィが暴走して外部行動員を一方的に殺害したのは記録に残っていて、動画と音声もしっかり残っていた。外部行動員の隊長たちが所有するパソコンになぜかリリィの動画が流れていたんだ」

 タイミングが良すぎる。

 恐らく私のことを思って誰かが流したのかもしれない。

 レベッカあたりだと思うが、無用な思い込みは彼女を怒らせるだろう。

 私はその言葉を胸にしまった。


「それを見た外部行動員たちは、遭難した軍人を外部行動員が助けたのに優秀だから殺すとはいったい何事だ、と猛抗議が来た。反乱を起こされる前に目下平等を謳おうという狙いだ。ひとまず、白人以外のアヌビスの乗り手が任命された。これはシェルターに住む人たちの平等化の一歩だと思いたい。上手くいくかは分からんが……」

 口を紡いだ少将は、ゆっくり休んでくれと言って、去って行った。

 凄く緊張した。体がだるいしもう少し寝よう。


 目をつむって休もうとしたとき、

「ジェシカお姉ちゃん」

「!」

 病室の入り口に奴隷ちゃんが立っていた。


 奴隷ちゃんが面会に来たようだ。彼女の目の下にはクマが出来ていた。

 奴隷ちゃんは室内に入ってきて、私のベッドの側に立った。


「あの、奴隷ちゃん。勇気隊長の件は非常に申し訳なく思っているわ。これから大人になるまでの面倒は私が見る。好きな人ができたら、結婚の資金も準備も私がする。償って償えるものじゃないけど、私に出来ることは何でもするから」

「本当? 良いの?」

 奴隷ちゃんは怒っている様子はなく、疑わしそうに首をかしげていた。


「本当よ。約束する」

「そいつは気前が良いな。感謝するよ」

 ぎいっ、ぎいっと車椅子をならして病室に現れたのは勇気隊長だった。

「え!?」

「ジェシカ。幽霊でも見たような顔だな」

「あああ、あ、あ、あ……」

 言葉にならず、私は口を塞ぐだけだった。


「一時期心臓が止まったらしいな。まあ今は元気だ。足が動かなくなったけどこの通り元気にしてる。ヤワな外部行動員じゃ、あの区域は務まらない」

 私の頬を大粒の涙が頬を伝った。

 勇気隊長に会えてうれしい気持ちや申し訳ない気持ちで、私は混乱してしまい、子供のように私は泣きじゃくった。

 泣いて泣いて、吐いて、看護師が驚いてやってきても、腹の底から私は泣き続けた。


「今日の面会はこれくらいで。勇気隊長もあまり無理してはだめですよ」

 看護師が勇気隊長に面会の終了を告げている。


「無理をしてるし、背中が痛いのは事実だ。俺も安静にしたい。だが看護師がベッドから出ろって言うんだぞ。早期離床そうきりしょうだなんてご無体な」

 看護師に勇気隊長たちが追い出されそうになったが、私は声を絞って、二人を引き留めた。


「大丈夫か、ジェシカ」

「はい」

「もう一人会いたがっている奴がいるんだが、いいか?」

「は、はい」

 誰だろう。レベッカだろうか。


「入ってきて良いぞ」

 部屋に入ってきたのは黒人の男だった。


「よお、ジェシカお嬢。俺も一時期、顔の一部がレーズンになっちまったが、まあこの通り元気だ」

 病室の入り口からサイモンが入室してきた。

 顔の右側は少しケロイドになっていたが、顔を見れば一目瞭然だ。


「あえええええ!?」

「そりゃあ誤射の達人ことジェシカお嬢が射撃をするつったら警戒の一つや二つはするさ。死んだと思ったろ?」

「死んじゃったって思ったんです。だって声が徐々に……」

「そりゃあヘルメットに穴が開いて真空状態になったら声は通らなくなる。戦闘の役にも立たないからヘルメットを補修しながらゴロゴロ転がって戦線離脱した。お陰でその後に蟹型のエイリアンに殺されそうになったが、生きてて悪いか?」

「いえ、生きてて良かったです」

 うれしさもあったが、衝撃的といった方が正しいだろうか。


 私はサイモンの腕に触れた。

 ゴツゴツした筋肉質な感触に私は目を細めた。

 生きてる。暖かで、死人じゃない。

「生きてるって言ってるだろ。俺たちはヤワじゃねえ、って隊長が言ってるのにお前はまったく……」

「傷つけて、すみませんでした」

「仕方ねえ。生きてりゃ儲けもんだ。それに俺はジェシカお嬢のことを高く買ってるんだぜ」

「え?」

 サイモンが私を怒るどころか褒めてくれている。こんなこともあるのだろうか。


「リリィの襲撃に対する抗議で、まさか司令部を襲撃するとは恐れ入ったよ。白人なのに、いや、これは言っちゃあいけない言葉だったな。ひとまず、俺たちのことをそんなに思っていてくれた事に感謝する。ありがとう」

「私たち、仲間ですから」

 私は過激派だと思われているのだろうか。

 怒らせたら怖いってのはこの事だな、とサイモンはゲラゲラ笑っている。


「ま、早く治せよ」

 サイモンは私をぎゅっと抱きしめて、すぐに離れた。


「もしかして参謀さんも生きているとか……」

 かすかな期待を持って言ったが、サイモンは額に皺を寄せている。


「おいおい、あそこまでやられて生きてたらホラー映画の世界だぜ。悲しいが死んじまったよ」

「……そうですよね。みんなの体調が良くなったら、あとで一緒にお墓を参りをしてくれませんか」

 私の誘いに三人は頷いた。


「あのね、ジェシカお姉ちゃん。いや、ジェシカ少佐にお願いがあります」

 奴隷ちゃんは涙ぐみながらも凛とした表情をし始めた。

 いつもと雰囲気が違う奴隷ちゃんは、気をつけをして、私に敬礼をしてきた。


 突然に改まった奴隷ちゃんに私は困惑した。

 私は敬礼されるような人間じゃない。だけど、どうして奴隷ちゃんは私に敬礼をするのだろう。

「外部行動員として私は働きます。お金が必要なんです。私はアヌビスの乗り手として、ジェシカ少佐と一緒に酸素を拾います」


 少将の言っていた有色人種のアヌビスの乗り手とは奴隷ちゃんのことだったようだ。

 隊長さんはもう下半身不随だ。働けなくなった隊長さんのために、奴隷ちゃんはお金を欲しているのだろう。

「でも、奴隷ちゃんはまだ子供だよ。だから……」


「私、酸素拾います!」


 私は奴隷ちゃんの覇気に気圧された。

 私は大変愚かだった。子供と言えど、いや子供だからこそ成長をするのだ。

 奴隷ちゃんの顔は立派な戦士の顔つきだった。

「わかったわ、奴隷ちゃん。よろしくね」


 私の承諾に奴隷ちゃんはうれしそうに笑った。


 第一部はこれでおしまいです。この話を読むために長い時間を割いていただき本当に感謝しています。


 私は一つの話を完成させてから投稿という流れを取るので第二部が完成するまでの更新はありません。


 それでも、この『私、酸素拾います!』を面白いと思って頂けたなら……『酸素つきても待ってるよー』という方がいらっしゃいましたら、ブクマ、評価の方をお願いします。


 あと、よろしければ感想の方もお願いします。


 重ねて、最後まで読んで頂いた皆様に感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。

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