第三話 暗闇の中の死神
「はあっ。はあっ。はあっ」
闇の中で私の息づかいだけが響いていた。
一筋の光さえ見えず、真っ暗な暗闇の中で私は立っていることだけが認識できていた。
「ジェシカ。てめえアヌビスの乗り方を知らねえのか。健二を踏み殺しやがったな」
「だから攻撃するなって言ったろ。ここは脆い岩で出来てんだぞ。二人も死んだんだ。分かってんのかてめえ!」
かつての仲間たちの叱責が聞こえる。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
今まで私は何人を殺してきただろう。
「よかれと思ってやっただと。すげえな、お前は死神か?」
私は私の裁量で、最良の結果を出そうとして来た。
だが、いつもいつも失敗ばかりで、次こそはと思っていた。
だけど、挽回する機会どころか、大切な人たちの命でさえこの手からすり抜けてしまう。
「おい、ジェシカ!」
私以外の人間だったらもっと上手く出来ただろうか。
「ジェシカ!」
私より優秀な人間がいるのになぜ私より先に死ぬのか。
その一部は私が殺していることは紛れもない事実だ。私は生きていて良いのだろうか。
「ジェシカ! おい、ジェシカ!」
「あ」
気がつくと、暗闇は晴れ、勇気隊長が目の前にいた。
私の肩をゆすり、酷く困惑したような表情だった。
「あ、ああ、あ……」
私は状況が理解できず、声を失ったかのように、あ、しか発音できなかった。
「終わったよ」
勇気隊長の背後には動けなくなったアヌビスが横たわっていた。
両方の後方脚部がへし折られ、コックピットでは片腕を切断されたリリィ少佐の絶叫が通信機を通じて響いてくる。
「あ、ご……」
「終わったよ」
「ごめっ、んっ……」
「終わったんだよジェシカ。さあ、行こう」
勇気隊長の声に覇気はなかった。
ざらついた無機質な声に、勇気隊長の心証が現れていた。
勇気隊長は私が身動きを取れないでいることに気付き、手を差し伸べてくれた。
その手を取り、私たちはシェルターの方に歩き始めた。
私はサイモンを殺してしまった。私はサイモンを殺してしまった。私はサイモンを……
「があっ!?」
何の前触れもなく、勇気隊長は私から手を乱暴に突き放し、空を舞った。
「が、ああああ、あああ、ああ……」
勇気隊長の苦しそうな声が、無線からヘルメットの中に響く。
アヌビスの尻尾の先端が勇気隊長に突き刺さり、持ち上げているのだった。
「これで、秩序は、守ら、れ……」
「なんて人なの」
リリィ少佐は腕を切断された状態だ。
肉体の一部が真空下に曝されてるのに、強力な精神力と根性で勇気隊長に攻撃してきたのだ。
リリィ少佐の最後の反撃だったのか、アヌビスの尻尾は地面に倒れ落ちた。
「お、おおお……」
勇気隊長は痙攣しながら、地面に顔を突っ伏した。
「今、助けます!」
私はグレネードランチャーを投げ捨てた。
勇気隊長のバトルアックスを起動させると、アヌビスの尻尾を叩き切った。
「早く運ばないと」
勇気隊長を引きずって、私はシェルターに、懸命に向かった。
このままでは凍傷と出血で、勇気隊長の腹部がどんどん壊死していく。
これは、致命傷だ。
いや、間に合えば、助かるはず。
この人だけは、せめて最後に生き残ったこの人だけは生き残って欲しい。
「ぐ、ぐぐぐぐ」
アヌビスの尻尾が背中に突き刺さった勇気隊長が重い。早く着いて。
「ジェシカ!」
不意に、張りのある声が響いた。
「この人、怪我してるの?」
助けに来てくれたのはレベッカだった。
生きてたんだ。
「レベッカ。彼を助けて」
「わかった。二人で持つよ。せえの!」




