ジェシカの章・その5 第一話 裸族
酷く寂しい二日間だった。
電話もしたくなったけど、この寂しさが自分への罰と戒めなのだ自分に言い聞かせ、私は電話をしなかった。
裏切った私を救ってくれる三人には感謝しないといけない。
こんな私を助けてくれるなんて彼らは神の使いだろうか。
私は手で涙を拭いた。
パニックルームの中は非常に暖かく、裸でも過ごすことが出来た。
誰かに見られたら裸族を疑われるかもしれないが、幸いここには私しかいない。そもそもこんな暑苦しいサバイバルウェアを着て二日間過ごすだなんて、私には不可能だ。それなら裸の方がましだと思った。
裸の不便な点は温かい麺類を食べるときは、身体にスープが跳ねて熱い事くらいだろうか。跳ねたスープがサバイバルウェアの染みにならないことは利点であるが、文明人がして良い姿ではないと言うことがよく分かった。
今日で勇気隊長が言った二日後の日だ。
あと四時間後くらいに勇気隊長が来るだろう。
そろそろ着替えでもして、この二日間で考えた謝る言葉を伝えようかな。
ピピッ。突如、モニターのスイッチが入り、
「よぉジェシカ。どうだ驚いたか。このサバイバルウェアは特別製で中の様子……」
モニターに映ったのは口をあんぐり開けた三人の顔だった。
急なことで私は呆然としていた。
「あ、え、あ……」
私の戸惑う姿に、モニターに映った三人の顔がどんどん険しくなっていく。
「急げ! ジェシカが裸だ。低体温症になっている!」
て、低体温症? 何を言ってるの?
「ジェシカ死ぬんじゃねえ。親父さんもお前のことを待ってる」
「服を着ないと僕の仲間入りだよ。さっさと着な」
三人に励まされて、
「あ、暑いけど仕方がないなぁ」
と訳の分からないことを言いながら私はサバイバルウェアを着た。
裸を見られたこともそうだが、不用意な行動で、私が瀕死だと思われていることが非常に申し訳なく、恥ずかしかった。
パニックルームで発見したサバイバルウェアに着替えて、酸素量を確認した。
サバイバルウェアの酸素の残量は一〇〇%だ。今から帰ってもお釣りが来るくらい酸素がある。
更にこの二日間で発見したのが自決用の銃が一丁に、手榴弾が二個。正直これは要らなかった。外の環境では撃つことは出来ないが、一応持っておこう。
少し重いけど、バトルアックスも持って行くことにした。
更にエイリアンとの対決用の真空対応型グレネードランチャーも発見した。
極限下では爆発物はその冷気によって爆発が起きず、不発となる。
しかしこのグレネードランチャーは中の爆薬が真空状態で密閉されており射出時に、解除されて、標的まで飛んでいく。
真空下での爆発は爆風が起こらないため、基本的に触れた物体にしか爆発の衝撃波は伝わらない。
即ち標的に必ず命中させる必要が出てくる。
これは掘り出し物だ。勇気隊長たちに見て貰おう。
それから三十分ほど待つと、
「ジェシカ。服は着たか」
勇気隊長がモニターに顔を出した。
「大丈夫です」
「良かった。低体温になると、幻覚が現れて、そのあと発狂してとんでもない行動をするんだ。ジェシカが裸のままパニックルームを飛び出さなくて本当に、ぐすっ、良かった」
勇気隊長の泣き顔を見て、私のことを心配してくれていたことが何よりうれしかった。
それに比例して地図を奪ってしまったことも申し訳ないと思った。
「言うこと聞いてくれてありがとなジェシカお嬢。ぐすっ、帰ったらみんなであったかい風呂に入ろうぜ」
え、サイモンまで泣いている。
「裸族じゃなかったんだね。ちょっと悲しいかな。ぐすっ」
「「お前は黙れ!」」
これは参謀さんなりのジョークだろうか。この人もたぶん不器用なんだと思う。
なんやかんやで私のことを心配してくれているようだ。
私はいたたまれなくなり、自決用の銃を視界に入れた。
なにやってんの私! 違う違う。
私はモニターを起動し、周囲の状況を確認した。
幸い、エイリアンはいない。
星の光で遠くから黒い影が三つ見えた。ズームすると勇気隊長たちを確認した。
三人は縁を確認して回り、降りられそうな箇所を探している。
やがて勇気隊長たちは縁から降りて、こちらに駆け寄ってきた。
「ジェシカ、到着したぞ。開けてくれ」
「はいっ、お待ちしてました」
私はスイッチを押して、パニックルームを開放した。
三人はエイリアンの返り血にまみれていた。
「今日も凄いですね」
「ここじゃあ日常茶飯事だ。慣れたもんだよ。さあ行くぞ」
外に出ると、視界の端を何かが蠢いていた。
「多口型がいます」
部隊全員を皆殺しにした忌まわしき多口型だ。
そのおぞましき姿を見ただけで、私は吐き気を催した。
「大丈夫だ。今の時間は多口型も行動が鈍い」
「そうなんですか?」
「ああ。カメラを置いて、生態調査もしてるからな。まあその代わり危険度の低い他のエイリアンが活発になってるけど、近付かなければ害はないやつらだ」
「……」
この人たち、本当にプロフェッショナルだ。
私は定められた時間に行き、帰ってくるのが外部行動だと思っていた。
生存率を上げるための方法を模索していたとは頭が下がる。
いや、むしろ生態調査はもっと行われるべきだったのだ。
権力闘争ばかりにしか興味のない方々が上層部を牛耳っているせいで、とばっちりを受けるのはいつも下部のものたちだ。
私たちは縁から上ると、険しい道を歩き始めた。
「皆さんありがとうございました。私を救ってくれてありがとうございます」
私は三人に深々とお辞儀をした。
「だってよ、隊長」
「何かあったら相談しろと言っただろうが。大佐に弱みをつけ込まれたみたいだが、俺たちも困惑する」
「すみません」
「言っておくけど奴隷ちゃんが連れて行かれたときに俺は……」
「まあまあ隊長。それくらいにしときなよ。さっさと帰ってお風呂だよ」
参謀さんがケラケラと笑いながら勇気隊長を制止した。
奴隷ちゃんの方に話が移り、長くなると感じたのだろう。
「まあそんなわけだ。何か報告はないか」
勇気隊長は参謀さんの意見を飲み、話を切り上げた。
「隊長さん。真空でも打てるグレネードランチャーですよ」
「すげえな。戦争でもするつもりかよ」
私が見せた武器を見て、サイモンが両手を頭部に当てている。
「MGLか。連射可能なグレードランチャーだな。グレネードランチャーは弾の速度が遅いのが難点だが、破壊力は申し分ない。使うときが来ないことを祈ろう。行くぞ」
勇気隊長の詳しい解説が終わり、私たちはシェルターに向かって一直線に走った。




