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私、酸素拾います!  作者: メケ
ジェシカの章・その4
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第四話 棺桶

「……さ。ジェシカ少佐。開けてください」

 気がつくと、私を呼ぶ声が聞こえる。


 目を開けても誰もいなかった。

「ああ、通信機か」


 私は助かったようだ。いったい何が起こったのだろう。

 私は這って、モニターの所まで行った。

 モニターでアヌビスの状態を確認すると、パニックルーム以外全ての装甲が無くなっていた。

 恐らく、星を見る者に吐き出されてしまったのだろう。高所から落ちて、パーツが吹き飛んでいったに違いない。

 残るは私の居る棺桶と化したパニックルームだけだった。


 幸い食料と空気は一ヶ月分ある。

 籠城にはもってこいだが、今の事態を把握することが先決だ。


 ゆっくりと身体を起こし立ち上がった。

「ううっ」

 恐らく軽度の脳しんとうを起こしているのだろう。

 生身だったら、たたき肉にされているところだった。


「ジェシカ少佐のパニックルームだ。あそこに逃げるぞ」

 通信機から、外部行動員たちの声が響いていた。

 砂漠の中でオアシスを見つけたかのような歓喜の声がこちらに迫って来た。


 モニターで確認すると、逃げ惑う外部行動員たちがこちらに向かって来ている。

「なんでパニックルームだけなんだ?」

「そんなことはどうでも良い。この中にジェシカ少佐の生体反応があるぞ。開けて貰え」

「ジェシカ少佐。チームアルマゲドンのリーダー・安田です。ここを開けてください」

「……」

 私は口を開くことが出来なかった。


 彼らの五十メートル後方には多口型が群れをなして迫ってきている。

「ジェシカ少佐。足場が不安定で、縁まで上れないんです。中佐も殺されてパニックルームにたどり着けないんです。どうしたら良いんですか!?」

「ヒトデ野郎が来やがった。あんなに殺したのにまだいるのかよ」

「お願いしますジェシカ少佐。妻が死にそうなんです」

 腕の引きちぎれた女性行動員を抱え、男の外部行動員は必死に嘆願してきた。


 ここはもはや棺桶。なんでこんな所に入りたがるのだろう。

 戦意、思考力、判断力を喪失していた私は、ぼんやりと哲学的な思考に耽っていた。

 彼らの背後三十メートルにはすでに多口型が迫ってきている。


「ちくしょう。俺は戦う!」

「隊長。説得をお願いします」

 モニターに映っていた外部行動員たちが、群れの方に向かっていった。


「ジェシカ少佐。俺たちはファーストエスケイパー、いや、チームアポカリプスを見くびっていた」

 チーム・アルマゲドンの隊長・安田はヘルメットの奥で泣いている。


「さっさとシェルターに帰れば良いと思っているだろう。足りないんだよ、酸素が。基地に帰る途中で死んでしまうんだ。みんなピクニック気分でここに来たが、こんな遠くて厳しい環境だったなんて知らなかったんだ。みんな家族がいるし、これからも幸せに暮らしていきたいと思っている気の良い奴らばかりなんだ。どうか、開けてくれ」

「隊長! さらに多口型が巣からぎゃあああああああ!」

「お願いだジェシカ少佐。俺の隣にいるこいつは先月結婚したばかりなんだ。だからここを開けてください」

「ごめんなさい」

「え?」

「ごめんなさい。出来ません」

 この扉を開けるには三十秒かかる。閉めるにも三十秒かかる。最初から無理だ。近すぎる。


「死ねええええええええええええ! このクソ女ぁああああああ。死ねえええええええ!」

「少佐! 助けてくれ。お願いだ、お願っなんだ、やめろ、やめっおごごぉおおおおおおお! おごぉおおおおおおおおおおおっ!」

 呪いの言葉とともに、三人は多口型のエイリアンの群れに飲み込まれていった。

 目の前のパニックルームの壁一枚。その先がどうなっているか見たくもなかったし、想像さえしたくなかった。


 私は蹲って、震えているしくなかった。

 それから聞こえてくる断末魔、断末魔、断末魔、断末魔。


 数分、それとも数時間が経っただろうか。今度はやけに静かになった


「う、ううっ」

 なんて事は無い。

 私も外に出ればこうなる運命なのだろう。

 もう、全てが終わった。

 今回はみんなが悪い。私も悪い。それで良いんじゃ無いだろうか。


 思い返せばあの三人の功績を奪ったときから終焉は始まっていた。

 私がこの作戦で成功を収めれば私と父の汚名は返上され、私はきれいに退役できる。そのような幻想に惑わされず、あらゆる手段を用いて退役していれば、少なくとも私がこのような苦境に立たされることは無かったかもしれない。

 上層部も一部隊の外部行動員としてチーム・アポカリプスを、そして私を少佐として認めてくれればこのような惨敗は無かっただろう。


「ここが棺桶……か」

 勇気隊長の言っていた言葉は正しかった。

 エイリアンに殺されるか餓死するか窒息死するか。

 経過は違えど結末は一つ。訪れる死をただ待つだけだった。

 遺書は書いてきた。思い残すことは無いだろう。

 好きではない父だったが、それでも父には迷惑を掛けっぱなしだった。

 せめて最後に親孝行したかったけど、だめだったみたいだ。


「死にたくない……死にたくないよ」

 この期に及んで私はまだ生きていたかった。せめて少しで良いから幸せになりたいのに、神様はそれすら許してくれないのだろうか。

 もう終わりだ。いや、もう終わらせよう。

 私はパニックルームの中を歩き始めた。


 自決用の銃と手榴弾、そして真空の中でも使える対決用のグレネードランチャーがアヌビスのパニックルームには配置されていると聞いたことがある。

 私は、パニックルーム内を物色し始めた。


「おい、ジェシカ。生きてるか」

「!」

 最も聞きたくて、最も聞きたくない声が聞こえた。

 だけど私はそれにさえすがりつきたい気持ちだった。


「おい、死んでんのか。返事しろ」

「ゆ、勇気隊長?」

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