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私、酸素拾います!  作者: メケ
ジェシカの章・その4
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第三話 パニック

「ジェシカ。だいぶ先に来てたみたいだけど酸素の量は大丈夫?」

 レベッカが私の事を気に掛けて、声を掛けてくれた。


「酸素残量は九十%だから問題ないよ」

 レベッカに返事をすると、レベッカは安心した旨を告げてきた。

 レベッカもいるし、今回の指揮官は私だ。

 今回の外部行動で死傷者が出れば私の責任問題になりかねない。注意喚起くらいはしておくべきだろう。


「みなさん。向こうは危険なので注意してくださいね。エイリアンがいっぱい居ます」

 今回の外部行動をする全員に不本意ではあったが無線で語りかけた。


 しかし返って来たのは笑い声だった。

「ジェシカ少佐、心配しすぎ。ファーストエスケーパーでさえ大丈夫だったのに」

 無線から爆笑が沸き起こった。


 大勢に笑いものにされて、私は心底どうでも良くなった。

 死ぬ奴は死ぬべくして死ぬのだろう。


 私は勇気隊長たちと行った外部行動と同じスピードで、歩を進めた。

 ウスノロと呼ばれた外部行動員たちは、私の速度に付いてきている。

 しかし、勇気隊長たちと比べると遅すぎて徐々に間隔が開いてきた。

 地形が悪く、大きな石が転がっており、歩きづらそうだった。

「ジェシカ。少しスピードを落とせ。外部行動員が付いてきていない」

 中佐に注意され、私は足を止めた。


 知らないうちに引率している部隊から距離が百メートルほど離れている。

 私は無線を切ってから溜め息をついた。

 アヌビス五機での行進など今までしたことは無いが、アヌビスの光はエイリアンを呼び寄せるという。それなのにエイリアンが一頭も見当たらないのはどういうことだろうか。

 幸福感で満たされた外部行動員の脳内に、その違和感が入るスペースは無いようだ。

 常時、荒い息と、話し声がだけが聞こえる。


「ん?」

 この前は見なかったはずの大きな落とし穴が北側にぽつりと開いている。

 私たちは南西に向かっているので、この前は見落としていたのかもしれない。


 アヌビスがすっぽり入ってしまいそうな大きな穴を一瞥して、私は目的地に進んだ。

 穴が動いた気がするが気のせいだろうか。そもそも穴が動くって何だろう。


 頭に疑問符が浮かんだが、よく分からないので私は報告しなかった。




 外部行動を開始してから四十五分。何事も無いまま例の窪地の前に到達した。


 ライトを向けると、前方に煌めく液体空気のたまり場が見えた。

 液体空気はすぐそこだ。


 しかし勾配は変わらずきつい。戻って来れなくなる場所があると勇気隊長たちは言っていたので、私は前回サイモンと降りた場所に向かうことにした。

「みなさん。これから降りやすい場所に行きます。この前、勇気隊長たちはアヌビスが降りられる場所を探していました。そこから行きましょう」

「ジェシカ少佐、何を怖じ気づいているんだ。この程度の高低差ならアヌビスでもいける。総員、出撃せよ」

 中佐の声で、アヌビス三機が窪地に降り立っていった。

 勾配は三十度ほどだろう。外部行動員たちもそれに続くような形で次々と降りていく。


「あんたの言うことは聞いておくわ。三〇〇〇リットル回収できたことは素直に信頼できるし」

 レベッカは付いてきてくれるようだ。

「レベッカ。信じてなくてごめん」

「別に良いって。あとで甘いクリームの載ったケーキでも奢ってくれれば許す」

 レベッカは、うふふとうれしそうに笑っている。


「さあ、行こう」

 レベッカが私を誘ってくれたとき、大地を震わす轟音が鳴り響いた。

 中佐たちが降りていった窪地が爆発物でも爆破させたかのように砂埃を上げている。


「な、なに?」

 私たちは激しく動揺し、事態の把握に努めようと努力した。

 先ほどまで何も無かった空間に、黒い穴のような巨大なものがそびえ立っていた。

 低いうなり声とともに、それは目をぎょろぎょろと動かしている。

 鋭い白い歯にはアヌビスが二機挟まっていた。


「出してくれ。挟まれてる!」

「痛い痛い痛い痛い!」

 他のアヌビスの乗り手たちが呻いている声だ。


「多分、あれが星を見る者だよ」

「え?」

「勇気隊長が言ってたの。この区域には星を見る者っていう巨大なエイリアンがいるって」

「あれがそうなの? どうみても別空間に行くための穴みたいよ」


 それもそのはず。星を見る者は黒かった。ベンタブラックという光を反射しない黒色を塗りつけたような色をしている。非常に黒く、空間に穴が開いているように見える。

 星を見る者にライトを当てても色の変化が無かった。

 判別がつくのは目だけだ。白い目がぎょろぎょろと動き、周囲を捉えている。

 星を見る者はゆっくりと顔を傾けて、地上を見下ろした。


「くそっ、化け物だ。総員、空気貯留池に急げ」

 星を見る者の攻撃を回避できた中佐が外部行動員を連れて、貯留池まで疾走していく。

「あいつに食われたら助かりそうもないね。私たちも行くよ」

 レベッカに急かされて、私たちはサイモンたちと一緒に降りた箇所から窪地に侵入した。

 ここからならば最短で貯留池にいける。


「!」

 次の瞬間、私は空を舞っていた。

 空がいつもより近く見え、半回転した先にはぎょろぎょろと目を動かす星を見る者の顎が見えた。

「あ、死ん……」

 星を見る者は私のアヌビスに食らいついた。


 星を見る者はアヌビスを噛み砕かんと、ギリギリと音を立てながらアヌビスに歯を立てている。

 目の前のモニターが壊れ、鋭い刃が飛び出てきた。

 星を見る者の歯だろう。

「殺される!」

 この前までは安全だったはず。なのにどうして!


「ジェシカ。外部行動ではパニックになった者から死んでいくのよ」


 母の声が聞こえたような気がした。

「パニックになったら死ぬ。パニックになったら死ぬ。パニックになったら……あ!」

 呼吸を落ち着かせて、私の目に付いたのは、パニックルーム移送装置だった。


 これだ。

 スイッチを押すと、コックピット内の重力緩和用の水が全て排出された。

 その後、私の身体はアヌビス後方に吹き飛ばされ、転がった。


「いったぁあああ!」

「パニックルームへの移送が完了しました」

 機械音声が私の移送を終えたと告げた。


 もっと優しく移送できないのかと文句が言いたくなったが、今はそれどころでは無い。

 パニックルームが安全であるとは言えない。

 爆弾を受けても傷一つ無いのがパニックルームの売り文句だが、はたして規格外の怪物に何処まで通用するかは未知数だ。


 ぎぎ、ぎぎぎ……

 パニックルームにも歯を当ててるようだ。

 しかし噛み砕くことが出来ないと理解したのか、軋むような音が消えた。

「ふう、よかっ……」


 私の身体がまた宙を舞った。

 壁にぶつかり、また反対の壁にぶつかり、私の身体は無重力のように回転し続ける。

 脳みそが揺さぶられ続け、私は天地を失ったかのような感覚に陥った。


 ゴォーン!


 衝撃ととも、最後に天井にぶつかって私は気を失ってしまった。

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