ジェシカの章・その4 第一話 父
奴隷ちゃんが勇気隊長の下に帰った翌日。
私は、お父さんでもある中将の部屋に来ていた。
お父さんは中将の椅子に座り、机に両肘を乗せていた。額にしわを寄せて、顔の前で手を組んでいる。
「ジェシカ、大変だったな。気付いてやれなくて済まなかった」
お父さんの声には抑揚が感じられなかった。
事務的な作業の一環として謝っているようにしか見えない。
表情一つ変えないこの男に対して、私は意外と冷静だった。
お父さんは、お母さんが外部行動で行方不明になってから人格が徐々に崩壊し始めていった。
笑顔だったお父さんの顔には徐々に皺が寄り、居るはずのないお母さんの名を呼ぶようになっていった。
徐々に狂い始めていったお父さんは母を追うように外部行動に出て行くようになり、大きな戦果を上げて今の地位を築いた。
子供だった私はそれでもお父さんである彼のことを誇らしく思っていた。しかし、
「ジャック。俺の後を継げるのはお前だけだ」
そう言ってジェシカであるはずの、私の頭を撫でた。
お父さんはお母さんと、
「次は男の子が欲しい」
「男の子だったらジャックにしよう。部下に優秀な奴がいるんだ。そいつの名前をあやかりたい」
と話し合っていた光景を見ていた。
私はお父さんに望まれていなかったのだ。
今では彼は冷静さを取り戻し、私が娘であることを思いだしたようだ。
「ジェシカ、お前は被害者だ。それは確かにそうだが、それとこれとは別の問題がある。分かるか?」
「……わかりません」
「あれだけ優秀な母さんの血を受け継いだのに、お前が失敗ばかりを繰り返す。だから私も立場が危ういと言っているのだよ。自分の立場を理解し、想像力を膨らませて考えろ。お前は勇気隊長達の行っていた区域に誘導係として行き、戦果を上げて自分の立場を向上させろ。そうすれば俺の地位も自然と向上する。いいか、大佐に裸にされたから傷ついたので軍を辞めますなんてぬるいことを言うな。お前を推薦した俺のことを考えろ」
そう、彼は全てを思い出した。
私がいらなかったことも含めた全てをだ。
この期に及んで地位に固執するお父さんからは、もはや愛は感じなかった。
もはや彼はお父さんではない。遺伝子上の関係――父だ。
だが、私は最後の望みとして、外部行動後の円満な退職に一縷の望みを掛けていた。
この外部行動を終わらせられたら、私は退職できるはずだ。私と父の名誉を挽回すれば、きっと父も許すだろう。あとは野となれ山となれ、だ。
「はい、中将。行って参ります」
私は中将の部屋を出て、廊下を歩いた。
私の腫れた顔が気になるのだろう。
奇異な物を見る視線を浴びながら、私は部屋に戻った。
外部行動の予定は二日後だ。
必ず成功させてみせる。




