樟木勇気の章・その3 第一話 探索地図の行方
奴隷ちゃんが連れ去られて二時間後。
体のしびれが抜け、落ち着きを取り戻した俺はサイモンと参謀を部屋に召集した。
「というわけだ。液体空気の回収量に目の色を変えた大佐に奴隷ちゃんは連れて行かれた。ジェシカは顔中痣だらけだったよ。よって探索地図についてどうするか話し合いたい」
奴隷ちゃんが大佐に連れ去られたあと、俺はサイモンと参謀を部屋に集めて、緊急会議を行っていた。
二人の表情は冴えない。やっと探索地図が完成しそうなほど未踏の区域を探索したが、探索区域も地図も寄越せと言われては目も当てられない。
探索地図は作成した部隊の地位向上に、貢献する貴重な資料だ。
探索地図の制度上にも問題点があり、探索地図は探索した部隊が最初から最後まで作成しないと評価には繋がらない。途中でも渡せというのはお前らは評価しないと言っているのと同義だ。
命をかけて作成した探索地図はその部隊の命の結晶と言っても過言ではない。
探索地図を途中でも回収される制度があるのは懲罰的、そして何時でも手柄はなかったことに出来るのだから大人しく言うことを聞けという威圧な意味合いがある。
今回の件に関して、最初に口を開いたのはサイモンだった。
「俺としては渡すしか無いと思ってる。奴隷ちゃんが連れて行かれた。あれがもし俺の弟だったら……そう考えると。いや、考えたくもない。それで良いんじゃないか」
サイモンは渡すべきだとしている。
「僕は反対だ。今度、別な未踏の区域を割り当てられて、完成しそうになったらまた奪われるに決まってる。この部隊はずっと馬鹿にされっぱなしだ。一生、それが続くんだよ。一度味を占めたら、とことん奪われる」
参謀の意見にサイモンは眼光を鋭く光らせた。
「仮に奴隷ちゃんを諦めたとしよう。そしたら役立たずの奴隷ちゃんは処分される。奴隷だから命は軽いだろうな。そして頭のおかしいあいつらは次に脅しの材料を見つけるだろう。俺の弟だよ。もしくは参謀、お前の両親だ」
「僕の両親は違う。奴隷じゃないし……」
「ああそうかい。お前の両親は奴隷じゃないから命に価値があるもんな」
「サイモン。君はいつも嫌みったらしい。その言い方どうにかしたらどうだ」
「人間の血が流れてない奴に言われたかねえ」
二人はいがみ合い、睨み合っている。
ここは一度流れを断ち切らないといけないだろう。
「二人の気持ちはよく分かった。どちらの意見も正しいよ。一度渡せば、脅迫すれば地図が手に入ると思われても癪に障る。かといって地図を渡さなければ奴隷ちゃんの命が危ういのも事実だ」
「隊長はどうするんだ」
参謀はじっくりと俺の意見を聞きたいみたいようだ。
「今回は渡してみよう」
俺は笑顔で言った。
それを聞いた参謀は顔を歪めていた。
自分の意見が取り入れられなかったと思っているのだろうか。
「隊長、ずいぶんひでえ笑顔だな。怒ってるのか」
サイモンにしては珍しくこちらの表情を読んでいる。
「俺たちは元々三人でやってきた。今は庭に行くようなものだが、最初は非常に遠いあの区域に行くのも精一杯だったな」
二人に問いかけると、二人は笑った。
「サイモンがジェシカに言ったピクニックじゃないというのは正にその通りだ。更に星を見る者もいる。おかげで逃げ惑うエイリアンのせいで、探索地図に書き込むはずのエイリアンの巣とアヌビスの窪地への侵入地点は何度も書き直しをしている。おかげでこの部隊は無能というレッテルを貼られることになった。まあ、長い経験の中で俺たちはあの遠い区域まで行って三〇〇〇リットルを回収することが出来るようになった。ということは?」
「そうか、情報を与えないでピクニックを敢行させるのか。隊長、思ったより鬼だな」
「まあ、そう言うな参謀」
俺と参謀の会話を聞いていたサイモンは身震いをしていた。
「奴隷ちゃんをこれからも人質に取られないように、本質的に救うには彼らにピクニックを敢行させる。奴らの罪は奴らの命で贖わせてやる」
「今日の隊長こえぇんだけど。参謀、なんか言ってやれ」
サイモンは苦しそうに唸っている。
腹の虫が治まらない俺は、そんなに怖い顔をしているだろうか。
「隊長は普段怒らないけど、怒ったら一番怖いのは知ってるだろ」
「ああそうか。地獄の釜が開いたなら仕方ねえな」
俺たちは緊急会議を終えて、向こうからの連絡に備えることにした。
奴隷ちゃんが連れ去られて三日が経った。
遅すぎる。向こうは何をしているんだ。
この三日間、奴隷ちゃんが心配でまったく眠れなかった。あいつらは殺してやる。全員、根絶やしにしてやる。
ジリリリリリリリリリリ。
室内にけたたましい音が鳴った。電話が鳴っている。
「はい、チームアポカリプス隊長、樟木です」
「こちらチャールズ少将だ」
あれ、大佐はどこだ? 何で少将が出てくるんだ。
「君の奴隷について話し合いたい。探索地図を持ってくれば解放する。途中ので構わない」
「分かりました。行きましょう」
「私の部屋にて待っている。気になるなら部下も連れてきて良い」
部下も? 大幅な譲歩だな。軍人に囲ませて言うことを聞かせるつもりかと思ったが、連れて行って良いとは……部下も大した奴らじゃ無いと思われているのか。
「分かりました。行きます」
まあいい。サイモンと参謀は相当な手練れだ。連れて行って損はない。
電話を切って、サイモンと参謀に話を伝えた。
「なんで少将が出てくるんだ。俺たちと戦争をしたいのか」
サイモンはいらだっている。
「まあ落ち着け。行ってよう」
「分かった。行こう」
参謀は話に乗ってみるようだ。
「二人じゃ心細いだろ。俺も行ってやるよ」
サイモンは親指を立てている。
「サイモン。気持ちはうれしいが、市民層に行って、自分の弟を見ていてくれ。状況に応じて、外部行動員の居住区域に連れてくることを許可する。何があるか分からない」
サイモンは、はっとした様子で立ち上がった。
「迂闊だった。ちょっと様子を見てくる。隊長、頑張れよ」
サイモンは部屋を出て行った。
「参謀、行くか」
「ああ。やってやろう」
俺たちは部屋を出た。




