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私、酸素拾います!  作者: メケ
ジェシカの章・その3
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第六話 老いた虎

 奴隷ちゃんがこの部屋に来た当初は、この階が上の階よりも暖かいことに驚いていた。

 地熱について勉強したり、キャンディをなめたりしていた。


 軟禁生活が始まって三日経った今では、奴隷ちゃんは本を読むこともなく、ぼうっとしていることが多くなった。

 キャンディにも手を付けず、部屋の一点を見つめている。

 精神状態が極めて不良のようだ。


 何か声を掛けてあげた方が良いだろうか。

 一体いつまでこんなことが続くのだろう。


「起きろジェシカ。いつまで寝ている!」

 突如、大佐と男性の軍人が連なって部屋に入っていた。


「い、一体なんですか」

 今度は性的暴行を受けるのではないかと思い、私の心臓が高鳴った。

 こんなやつさっさと死ねば良いのに。


「来い。奴隷も連れて来るんだ」

 探索地図の取引だろうか。そのために奴隷ちゃんを連れて行くという可能性は十分に考えられる。

 部屋の隅に縮こまっていた奴隷ちゃんに手を差し出した。


「行こう、奴隷ちゃん」

「怖いの嫌だ」

「私も一緒に行く。もしかしたら勇気隊長に会えるかも」

「本当?」

「分からないけど行ってみよう」

「うん」

 

 私は奴隷ちゃんを引き連れて会議室に来た。

 部屋に入ったと同時に鍵が閉められ、入り口の前に大佐の部下が立った。

 私たちは完全に閉じ込められてしまった。

 会議室の中にリリィ少佐がいるが、彼女は私を助けることはないだろう。


「一体どうしたんですか」

 不穏な雰囲気に私は不快感を表した。


「ジェシカ。奴隷の服を脱がせろ」

「はぁ!?」

 この人は奴隷ちゃんに何をする気だ。

「嫌だ。女の裸は好きな男と医者だけに見せて良い、ってお母ちゃんが言ってた」

 もちろん奴隷ちゃんは反発している。


「ぐえっ!」

 奴隷ちゃんのみぞおちに、大佐の鉄拳が入った。

「聞き分けの悪い豚だな。豚だから仕方が無いが、それにしても五月蝿すぎる」

「うえっ、けっ……」

 痛みに奴隷ちゃんは唾液を滴らせながら、悶絶している。


「お前と一緒だよ。服を脱がせて写真を撮る。こんな辱めも、いや、もっと凄いことだって出来るということを勇気隊長に示してやる。無能の息子は頭の回転が悪い。損得勘定という言葉を覚えさせるところから始めよう」

「出来ません。私はチーム・アポカリプスの一員です。戻れなくなります」

「ジェシカ、もう遅いんだよ。それに君の裸の写真を全ての階層に撒かれたくなければ私の言うことを聞いた方がいい。あまり聞き分けが悪いと、気性の荒い男たちが君の部屋に侵入してしまうかも。一晩で経験人数が二桁になりたいかね」

 階級は違えと同じ軍人なのにここまで出来るこの大佐という男は一体何なのだ。


「それに穴があればなんでもいいと言う男もいる。例え動物でも奴隷でもいいと言う奇妙な男がな」

 大佐の目は悶えている奴隷ちゃんに向けられた。

 奴隷ちゃんにまで魔手を伸ばすことも臭わせている。


 すでにこの会議室に閉じ込められた私に為す術はない。

 大佐が出てきている以上、叫び声を上げても誰も助けてくれないだろう。


「ジェシカ、早くしろ! 上の服だけで良い。脱がせろ」

 屈服するしか無いのか。


「……奴隷ちゃん。服を脱ごう」

「なっ、なんで私が脱がないといけないの? ジェシカお姉ちゃんが先に脱いでよ」

「えっ」

 全員の目がこちらに向いている。


「ジェシカ。脱げ」

 私が脱がなければ奴隷ちゃんは服を脱がない。奴隷ちゃんが脱がなければ、奴隷ちゃんが無残にいたぶられ、なぶられる結末が待ち受けている。

 私がここに連れてきたのだ。責任は取らなければならない。


「ジェシカ、早くしろ」

「分かりました!」

 一度見られた身だ。写真がバラ撒かれたら、元も子もない。

 ヤケクソになった私は上に着ている物を全て脱いだ。


 男たちの下卑げびた視線が私の胸を重点的に見てくる。

 リリィ少佐は申し訳なさそうに目を背けるだけだった。


「良い乳してんな」

 階級が私よりも下にもかかわらず、大佐の部下たちは下劣に笑うだけだった。

「奴隷ちゃん。脱いだよ」

「いやだ。絶対やだあああああ。隊長さんに見せる。見せるぅううう!」

 奴隷ちゃんは絶叫し始めた。


 大佐の部下が奴隷ちゃんの服に手を掛けた。 

「いやだああああああああ! いやだあああああああ!」

 耳が痛くなるほどの絶叫に、大佐の拳が動いた。

 奴隷ちゃんが殴られる!


 奴隷ちゃんをかばった私は、脇腹に一撃を受け、その場にひざまづいた。

 あまりの苦痛に、唾液腺から唾液がキュウキュウとにじみ出てきた。低く唸るだけで声は出せなかった。


「うああああん、あああああああああああああ!」

 奴隷ちゃんが号泣し始めた。それでも彼らは表情一つ変えずに、へらへらと笑っている。


 奴隷ちゃんの服が、脱がされそうになったその時、

「五月蝿いぞ。貴様ら神聖なる会議室に子供を入れるとは一体何の騒ぎだ!」

 神聖なる会議室のドアが蹴破られ、髭を生やした初老のおじいさんと護衛たちがぞろぞろと会議室に入ってきた。


「しょ、少将。今日は他のシェルターに出向かれたのでは?」

 大佐の顔がみるみる引きっていく。

「孫娘が熱を出したと聞いて戻ってきた。ところでお前らは何を騒いで……なんだこれは!?」

 少将は、半裸で嘔吐えずく私と絶叫に近い泣き声を出す奴隷ちゃんを見て、目をかっと見開いている。


「か、カメラに裸……貴様らぁ中将の娘に何をしておるんだ!」

「これには訳があります。探索地図が必要なのです」

 大佐は焦ったように少将に言い訳を始める。


「で?」

「チーム・アポカリプスの隊長が探索地図を渡さないのです。彼の贔屓ひいきにしている奴隷を連れてきました。裸にして写真を撮り、脅します。何だって出来ると脅……」

 少将は大佐をぶん殴った。


「まどろっこしいことをしやがって。それはお前の趣味だろうがああああああ!」

 大佐の前でトウモロコシのような歯が舞い、カラカラと地面に転がった。


 年寄りではあるが、少将は昔、シェルターの格闘技大会で何度も優勝したことがある実力者だ。

 老いても虎は虎。それを素で行く武闘家だった。


「意味が分からん。おいジェシカ。なんでお前が裸になってるんだ」

 ここだ! 勝負所はここしかない。少佐如きでは滅多に会えない少将との対話が出来る!

「話せば長くなりますが、大佐の指示です。数日前、大佐に裸の写真を撮られてからは言いなりにされてます」

 頬を涙が伝った。


 もちろんこの涙は計算ではない。

 なんでこんな辱めを受けなければならないのだと悲しくなったら自然と出てきた。こんなことなら市民の方が気楽なのに、なんで軍隊に入ってこんな仕打ちを受けなければならないのだろう。


「ルーク、大佐のカメラを回収しろ。マイケルとウォルターは待機。A班はこの馬鹿ども全員を牢獄にぶち込め。残りは大佐の部屋を片っ端から捜索しろ」

 少将の護衛たちは行動を開始した。

 大佐も含めた全員が連行されていく。


 大佐の引き連れていた部下で、残っていたのはリリィ少佐だけになった。

「ジェシカ少佐、服を着給え。心が痛む」

 私は脱いだ服を着て立ち上がった。


「おじいぢゃん。ありがどう」

 奴隷ちゃんは泣きながら少将に抱きついた。


「奴隷のくせに触るんじゃない!」

「おねえぢゃん。じじいがおごったぁああああ!」

 奴隷という身分はなんとも不憫だ。

 奴隷ちゃんに同情しながら、こちらに走り寄ってきた奴隷ちゃんを抱きしめた。



「探索地図が必要なのか。チーム・アポカリプスは議長の息子が隊長をやってたな」

「はい」

「ここからは私が仕切る。ジェシカ、お前は部屋で休め。護衛を付ける」

「ありがとうございます。奴隷ちゃん、行くよ」

「待て。奴隷は儂と来い」

「いやだ。殺される。おねえぢゃん。いやあああああああああ!」

「今から勇気隊長に会わせてやる。だから泣くんじゃない!」

「殺される! 殺されるぅうううう!」

 奴隷ちゃんは少将に抱えられて、終始、泣きわめいていた。


「少将。これを」

「ああ、すまない」

 少将はリリィ少佐から封筒を貰って、部屋を出て行った。

 会議室には徐々に小さくなっていく奴隷ちゃんの声だけが聞こえる。


 残ったのはリリィ少佐と私だけだった。

「少将を呼んでくれたのは、リリィ少佐でしたか」

「ええ」

 リリィ少佐は悲しそうな顔をしている。

 人を助けたのだから少しくらい誇った顔をするのかと思っていたが、どうやら違った。


「二度も辱めを受けさせて、ごめんなさい」

「いいです。リリィ少佐にはいつもお世話になってるのに、また助けられました」

「護衛は付けるけどこれから一人で部屋で眠れる? お医者さんのカウンセリングも希望するなら受けられるけど……」

「大丈夫です。今は泥に浸かるように眠りたいので、起きてから考えます」

 リリィ少佐と握手して、私は会議室を出た。


 会議室の外は人だかりが出来ている。

「ジェシカ。何があったんだ」

 普段は目線も合わせないような他の軍人たちが怪訝けげんそうな顔をしている。


 この人たちは私に興味があるのではなく、私に起こったことに興味があるのだ。心配を装い、聞き出して、陰で楽しむ下劣な人種なのかは私には判断が出来ない。

 ならば答えないのが正しい答えだろう。


「お答えすることは出来ません。眠いので失礼します」

 私はそういってその場を去った。


 部屋に戻ると、私は乱暴に扉を閉めて鍵を掛けた。

「はあ。疲れた」

 私はベッドに横になった。


 隊長さんはきっと私のことを裏切り者だと思っているだろう。

 もう居場所はない。もう私には何もない。


「もう、どうでもいいや」

 私は目を瞑った。

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