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私、酸素拾います!  作者: メケ
ジェシカの章・その3
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第五話 軟禁生活

 その日から私は奴隷ちゃんとともに部屋で過ごすことになった。

 食事は部屋に運ばれてくるので、私たちはそれを食べる軟禁生活が始まった。


 運ばれてきた食膳を奴隷ちゃんが見たとき、彼女は目を輝かせていた。

 私の食膳は相変わらず豪華で、肉から野菜までバランス良く乗せられていた。

 一方、奴隷ちゃんの食膳は質素と言うにはあまりにも貧相だった。栄養価は抜群とは言われているが、茶色く揚げられたバッタがひっくり返って皿に載っているのを食事というのだから、この世は残酷な格差が支配している。


 豪華な食膳が自分のものでなかったと気付いた奴隷ちゃんは、なんとも言えない悲しそうな表情になっている。

「奴隷ちゃん、私のご飯食べる?」

「いいの?」

 先ほど曇らせていた顔が、ぱあっという擬音が正に適切と言えるほど奴隷ちゃんは顔を輝かせてこちらを見てくる。

 ううっ、眩しすぎる。


「食欲無いから」

「食べる!」

 食膳を奴隷ちゃんの方に全部渡すと、うお~と歓声を上げている。

 そして食膳と私の顔を交互に見ていた。


「全部良いの?」

「良いよ」

「!」

 奴隷ちゃんはそれから私に目もくれず、食事に食らいついた。


「何の肉? おいしいよ」

 そう言いながら奴隷ちゃんは霜降りの牛肉に食らいついている。

 霜降りの牛肉は軍人の上級階級のみが食べられる食材だ。私も月に一回ほどしか食べられないし、勇気隊長も食べたことがないだろう。

 奴隷ちゃんは興奮しながら食べている。


 食欲がなかったのも理由の一つだが、これが私に出来る唯一の贖罪だ。

 私は落ち着かず、指をいじりながら机の前に座っていた。

 何もしていないと大佐にされたことを思い出して、大声を上げそうになってしまう。

 私の心を唯一、平穏に保ってくれるのは奴隷ちゃんの笑顔だけだった。


「ごちそうさま!」

 奴隷ちゃんは二人分の食事を平らげ、幸せそうにしている。

 こんな笑顔を見たら勇気隊長が奴隷ちゃんに甘くなる理由もよく分かる。

 可愛らしくて、一生懸命今を生きていて、光り輝くエネルギーの塊。それが奴隷ちゃんだ。

 彼女の側にいれば、彼女の光を浴びて自分たちも暖かくなる。

 そう感じられるほど奴隷ちゃんには魅力はあふれていた。


「これからどうなるの? 隊長さんのところに帰りたいよ」

 奴隷ちゃんは食事を平らげて、現実に戻ったようだ。


「帰れないの。私も奴隷ちゃんが部屋から出ないようにするために、この部屋にいるように言われた。だけど実際は私もここに閉じ込められているようなものだよ」

「うう。隊長さんに雑草食べさせたいよぉ」

 奴隷ちゃんはぐずりだした。

 いつも隊長さんの側にいたからこそ今の奴隷ちゃんがある。

 その根底が覆された今、奴隷ちゃんの心は危機に瀕しているようだ。


「ごめんね奴隷ちゃん。私で我慢して」

「嫌だぁ」

「給仕の人にキャンディ買ってきてもらうから」

「……我慢するぅ」

 意外と扱いやすい子だが、私よりキャンディの方が上なのかと悲しくなった。


 しかし、私たちが出会って時間も経ってない。

 食欲、睡眠、性行為が人間の一番重要な欲求だ。

 飢える奴隷ちゃんの気持ちは大事にしたい。


「暇だよ。何か無い?」

 奴隷ちゃんはベッドの上で足をぶらつかせていた。


「本ならあるよ」

「あ、いっぱい本がある。あぬびす?」

「私が外部行動に行く時に、乗っていく乗り物よ」

「へえ~」

 奴隷ちゃんはアヌビスの本を読み始めた。


「ねえねえ、ジェシカお姉ちゃん。外にはエイリアンがいるんでしょ」

「そうだね」

「寒くないのかな? 外に出ると凍って死んじゃうんでしょ」

 奴隷ちゃんは不思議そうにしている。


「エイリアンが凍らないのは乾眠状態で、行動をしているからよ。乾眠状態になると、どんな環境変化にもほぼ適応できるの。似た生命体がとクマムシかな。クマムシは乾眠状態になると、動かなくなるけど、エイリアン達は乾眠状態でも活動するの。そしてエイリアン達の血液など体液は私たちが外部行動で持ってくる液体空気に近い組成をしているから凍らずにすむの」

「……?」

 奴隷ちゃんには難しすぎたようだ。可愛らしく小首をひねっている。


「難しかったかな?」

「よくわかんなかった。この本、読んでてもいい?」

「暇だと思うから適当に読んでて良いよ。ちょっと私、寝るね」

 寝ればきっと忘れる。もしくは気持ちが少し軽くなる。

 そう思って私はベッドに横になった。


「おやすみ」

「おやすみ!」

 奴隷ちゃんは本棚からアヌビスの乗り方について書かれた本を取り出した。


 私は勉強熱心だなと感慨にふけながら、柔らかいベッドの上でゆっくりと目を閉じた。

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