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私、酸素拾います!  作者: メケ
ジェシカの章・その3
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第四話 誘拐

「汚い部屋だな」

 大佐は不快そうに呟いて椅子に座った。


 なぜこいつが来たんだ。ああ、保険か。私では頼りない、不可能だと算段したのだろう。

「お初にお目に掛かる勇気隊長。いや、この前も会ったかな? 戦果が無いので忘れてしまったよ」

 大佐の挨拶に隊長さんは鼻を鳴らして睨み付けた。


「お目覚めのところ申し訳ない。君たちはよくやった。探索地図をいただきたい」

「探索地図は完成していない。その他報告する重要事項に山ほど記載がある」

「君の言いたいことは分かった。要するに出来ないと言うことだろ。安心したまえ。私たちが引き継ぐ」

「また奪う気か。そうやっていつもいつも……」

「人聞きが悪いな。君の父、議長殿はシェルター内の人間を管理できなかった。反乱が起きて追放されたのは仕方が無い。だって、無能だからだからな。なあ、無能の息子よ」

 勇気隊長は険しい表情をしたままベッドに座っていた。


 議長とは白人たちが反乱を起こしてシェルターを乗っ取る前の最高権力者だ。

 まさか勇気隊長が議長の息子だとは知らなかった。

 これで勇気隊長が率いるチーム・アポカリプスがここまでぞんざいに扱われる理由がよく分かった。

 他の有色人種たちに、議長の息子であろうといとも容赦はしないという見せしめだったのだろう。


「さっさと帰れ」

「ジェシカでは恐らく無理だと思い私が来たのだ。手ぶらでは帰らん」

 大佐は奴隷ちゃんの前に立ちはだかった。

 手にはバチバチと音を放つスタンガンが握られている。


「待て、何を……」

 大佐は近寄った勇気隊長にスタンガンを押し当てた。


「ぐっ!」

 勇気隊長は地面に膝を付けたが、再び立ち上がろうとした。

「まだ足りないな」

 大佐は再びスタンガンを押し当てた。

 バチバチと音を立てながら、勇気隊長の身体を電流が貫いていく。


「う、うぅ……」

 勇気隊長は体がしびれて動けないようだ。

 地面に倒れ伏して、大佐を睨み付ける事しか出来なくなっていた。


「嫁は貰っていく」

 大佐は奴隷ちゃんの腕を乱暴に掴んで引っ張った。


「おじさん何するの? 痛いからやめ……ぎゃあっ!」

 奴隷ちゃんも感電させ、動けなくさせた。

「た、い、さ……」

 勇気隊長は力なく横たえるしかなかった。


「探索地図を持ってくるのを楽しみに待っている」

 大佐は部屋から出て行こうとしていているので、私も後を追おうとした。


「おい、何をしている。奴隷を連れて来い」

 奴隷ちゃんを連行していくつもりだ。脅しの材料に使う気だろう。

「それは、やり過ぎでは?」

「あの写真をばらまかれたくなければ言うことに従え。バカはバカなりの扱い方があると思ったがこれほどまでお前は愚鈍だったとはな」

 大佐は部屋を出て行った。


 勇気隊長の方を見ると歯を食いしばって立ち上がろうとしている。

「じぇ、し……」

「ごめんなさい」

 私は奴隷ちゃんを私は抱えて部屋を出た。


「たい、じょ、さ、ん」


 栄養不足でか細く、女性的でない奴隷ちゃんの身体が異様に重く感じた。




 奴隷ちゃんを司令部のある階層に連れて行くと、大佐は顔を引き攣らせた。


「不浄な奴隷をこの階層に連れてくるのは遺憾だが、人類の存続のためだ。ジェシカ少佐、君の部屋で飼え」

「はい」

「あとはもういい。部屋に帰って寝ろ。いいか、部屋から出すなよ。他の軍人が間違って殺すかもしれない。用事は済んだ。あとは帰って良いぞ」

「はい」

 私は奴隷ちゃんを連れて、部屋に戻った。


 香水の甘い香りが今日は嫌に鼻につく。

 私はゆっくりとベッドの上に奴隷ちゃんを下ろした。

 強力な電流を当てられて放心状態となっている奴隷ちゃんを見て、私は思った。


 私は完全に裏切り者だ。


 だけどあんな恥ずかしい格好の写真を撮られてしまった。だから勇気隊長を裏切ったのは仕方が無い。それは本当だろうか。それは正しかったのだろうか。

 ゆっくりと頬を涙が伝った。


 白人と有色人種たちの立場が変わってから、お偉いさんたちは、私たち白人は奪われる側ではなく奪う側であれと教育してきた。かつては私も白人の一人として奪う側に立っているつもりだった。

 でもそこは大変居心地が悪くて、奪う側でもなく奪われる側でもない中立の立場でありたいと願っていた。だけどいつの間にか奪われる側になっていた。

 全てが遅かった。弱いままでは誰も、そして自分さえも守れなかった。

 それ悟ったとき涙を抑えきれなかった。


 隣まで聞こえるだろう声を張り上げて私は泣きわめいた。

 私が何をしたわけでもないのに奪われて奪われて、どうして私はここまで弱いのだろう。

 私はそこまで器量も良いほどではない。

 だが、全てを奪われる程までに私の存在は罪なのだろうか。


「おね、ちゃん。だいじょう、ぶ?」

 奴隷ちゃんはニコッと笑った。


「奴隷ちゃん。奴隷ちゃん!」

 私は彼女の胸で泣いた。


 平たく柔らかくもない彼女の胸では確かに鼓動が聞こえた。そこは安心する場所で、どことなく母のような匂いがした。

「ジェシカ、お姉ちゃ、んも、大変だね」

「ううっ。ごめんなさい。ごめんなさい」


 奴隷ちゃんは母のように私の頭をなでてくれた。

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