第二話 大佐
胸が焼けるような焦燥感、締め付けられるような閉塞感に襲われながら私は大佐の机の前に立った。
「お呼びでしょうか」
「本日の外部行動はご苦労だった。そろそろ退勤の時間だろうが、呼び出して済まない。三〇〇〇リットルを回収できたのはいつぶりだっただろうかと思いを馳せる量の回収量だった」
「ありがとうございます」
「それで、報告して貰いたいことがある。向こうは平和なのか?」
「平和、ですか?」
何を言っているのかさっぱり分からなかった。あれだけエイリアンに襲われたのに、平和な外部行動だったなど口にすることは出来ない。
「平和の意味が分からないか。たったファーストエスケーパーは三人の部隊だ。今まで外部行動に行って無傷。その上、今回は三千リットルの液体空気を回収してきた。普通じゃ考えられない。そこで、考えられることは二つだ。ファーストエスケーパーが化け物の精鋭揃い。もしくは向こうにエイリアンがいない。どっちなんだ」
大佐の質問は至って単純な質問だ。
「向こうにもエイリアンがいます。私の所属するチームアポカリプスは精鋭揃いです。配属してくださってありがとうございました」
「アポカリ……ああ、ファーストエスケーパーのことか」
勇気隊長率いる部隊はチームアポカリプスだ。だが司令部においてもはや正式名称はファーストエスケイパーになっているようだ。
「まあ、エイリアンがいると言っても三人と一機で帰ってこれる程度の危険性だろ。シェルター内の液体空気備蓄量も少ない。さらに運の悪いことに酸素生成器が一機壊れて修理中だ。今度、大規模な遠征を行いたいと思う」
「危険です。未確認の巨大エイリアンがいると勇気隊長は言ってました。勇気隊長の描く探索地図を参考にするべきだと思います」
「描き上げるのはいつになるんだ。この半年、一度も報告もない。それに一番危険なことをお前は分かっていない。このシェルターの吸える空気がなくなったら死ぬんだ。なぜそれが分からない」
「分かりました。ならば口頭でも勇気隊長からアドバイスをもらえれば……」
「くどい。そもそも未確認の巨大エイリアンだと。そんなものが存在していたらとっくに見つけてる。ダイオウイカの発見とは違うんだぞ」
「……」
大佐に何を言っても私の言いたいことは伝わらないだろう。
「ああ、ジェシカ。地図って言ったな。隊長からもらってこい。俺たち軍人が描き上げる」
「……そんな」
この人たち、大量の液体空気があると知って、勇気隊長から手柄を奪うつもりだ。
「反抗するな。ちょっと空気を回収してきたらもう天狗になったのか? 許せん。リリィ、付いてこい」
私は司令部から引き釣り出されて、大佐専用の仕事部屋に連れてこられた。
銃火器などが飾ってあり、火薬の匂いがする。
机の上を見るとカメラと、全裸で体中痣だらけの青年が泣いている写真が置いてあった。
確かこの青年は数ヶ月前に自殺した軍人だ。どうして彼の写真がここに……
「!」
私はこれからされることに予想が付き、震え上がった。
「ジェシカ少佐。君には人類に対すると愛と忠誠が足りない!」
大佐の鉄拳が、私の心窩部を捉えた。
「があっ、おっ……」
激痛と吐き気で、立っていることさえ私は出来なくなり、私は床を転げ回った。
その間も大佐は、
「裏切り者」「最低の反逆者」
など私を貶しながら、私を蹴ったり踏みつけたりしてきた。
一通り終わったのか、私は、ゆっくり顔を上げた。
「!」
顔を蹴られて、口の中が切れた。
「ぐっ、ううっ……」
呻く私を大佐は冷たい目つきで見下ろしていた。
「リリィ、全裸だ。写真を撮るから脱がせろ!」
「た、大佐。女の子ですよ。それに中将の娘ですよ!」
「大将も中将も少将もこのシェルターにはほとんどいない。実質、俺が頂点だ。俺が王だ。そんなことも分からないのかリリィ少佐」
大佐はリリィ少佐に銃を向けた。
「ごめんねジェシカ」
「リリィ少佐。やめてください」
「私は死ぬのが嫌なの。ジェシカもそうでしょ」
リリィ少佐の目には怯えなど微塵も感じ取れなかった。任務をこなす軍人のまっすぐとした目つきに私は震え上がった。
「やめてくださいリリィ少佐……少佐!」




