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私、酸素拾います!  作者: メケ
樟木勇気の章・その2
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第二話 苦死のプレゼント

 食堂からの帰り道。

 サイモンがずいぶんと弟に寄り添っている。


「いいか、ジェシカは悪い奴じゃない。それは俺も分かってる。だが、ジェシカみたいな奴になるなよ」

「うん。分かった兄ちゃん。あれはだめだね」

 なるほど。教育か。


 一方、奴隷ちゃんはジェシカと話をしている。

「隊長さんはね、優しくてね、キャンディくれるんだよ。この前は牛乳貰った」

「牛乳かぁ。高かったでしょ」

「分かんない。隊長さんが買ってきたから」

「そっかぁ」


 サイモンと参謀は部屋の前で別れ、俺とジェシカと奴隷ちゃんで隊長室の前まで来た。

「じゃあなジェシカ」

「またね、お姉ちゃん」

 俺たちはジェシカに手を振った。


「あれ、奴隷ちゃんは家に帰らないの?」

 ジェシカは不思議そうな顔をしている。

「奴隷ちゃんに渡したい物があるんだ」

 俺がそう言うと、奴隷ちゃんは目を輝かせている。


「プレゼント? いいなぁ奴隷ちゃん」

 ジェシカもうらやましそうにすると、奴隷ちゃんは目を丸くしていた。

「もしかして、お菓子!?」

「違う。食べ物じゃない。部屋に置いてあるんだ」

「私もプレゼント見たいなぁ」

「ジェシカも来るか?」


 奴隷ちゃんとジェシカを部屋に招き入れると、俺は奴隷ちゃんに立派な紙に箱を渡した。

「開けてみて」

 奴隷ちゃんは箱の包装に戸惑いながら、箱を開けた。


「櫛だ! いいの?」

 奴隷ちゃんは木櫛を両手で掴んで、いつもの儀式のように見上げている。

 櫛は奴隷には買えないことになっている。


 奴隷は基本的に貧乏であり、更に奴隷という地位では櫛の購入は禁止されている。

 奴隷が櫛を入手するには、奴隷よりも上の地位に属する人間から貰うことが通常だ。

 なぜ櫛が禁止されるかは不明だ。武器になるからだろうか。

 知識の豊富な参謀に聞いても苦い顔をするばかりだ。

 参謀は何か知っているのだろうか。


 櫛を貰う機会としては、雇い主である隊長がその奴隷を一人前として認めたときが通例である。

「いいねえ奴隷ちゃん。櫛って事は一人前だよ」

 ジェシカは俺の言いたいことを汲み取ってくれたようで、奴隷ちゃんに伝えている。


「いいの?」

 奴隷ちゃんは恐縮しているようで、申し訳なさそうな顔をしている。


「遅かったくらいだ」

「好き! 隊長さん好きぃいいい!」

 奴隷ちゃんは俺に飛びついてきた。

 奴隷ちゃんを抱きしめて、ゆっくりと頭をなでると、髪の毛が痛んでいる。


「あ、そうだ。じゃあ隊長さん。私の髪を梳かして」

 奴隷ちゃんは木櫛を俺に渡し、背中を向けてきた。

「やったことないけど良いのか。こういうのは参謀が得意だぞ」

 参謀は見た目に非常に気を遣っている。いつも髪に櫛を通すし、シャンプーも自分で製造して使っているほどの徹底ぶりだ。


「いいの。隊長さんにやって貰いたい」

「分かった。じゃあ座って」

 奴隷ちゃんに櫛を通そうとしたが、櫛が引っかかってしまった。


「いたっ!」

「ああごめん。痛かったか」

「大丈夫だよ。続けて」

 髪の毛が途中で絡まっている。ハサミも買っておくべきだったか。


「奴隷ちゃん。髪の毛が絡まってるようだから切ってあげようか」

 見かねたジェシカがそんな提案をしてきた。

「ぼ、坊主にするの?」

 奴隷ちゃんは怯えている。


 奴隷が罪を犯したとき、髪の毛を丸坊主にする刑がある。

 髪の毛を切ると言われて、良い印象を抱かなかったのだろう。


「違うよ。絡まった毛を切って整えるの。男の子にもきっとモテるよ」

「やる!」

 急にやる気を出した奴隷ちゃんはジェシカに髪を切ってと催促し始めた。

 やはり女の子だなと思いながら、俺は奴隷ちゃんの背後から離れた。


「ジェシカ。可愛く頼む」

「任せてください」

 ジェシカはピンクのポーチからハサミを取り出して、奴隷ちゃんの髪の毛を切り始めた。

 ジェシカは髪の毛の絡まったところを切り落として、そこを起点に周囲の髪の毛のバランスを調整していく。

 前髪や髪の毛の分厚くなったところを切って、髪の毛を空いていくと、奴隷ちゃんは垢抜けた少女になった。


「隊長さん。どう?」

「めちゃくちゃ可愛い。本当に奴隷ちゃんか?」

「きゃー」

 奴隷ちゃんは叫声を上げて喜んでいる。


「ジェシカ。ありがとう」

「どういたしまして」

「ジェシカお姉ちゃんありがとう。立派な女になった」

「そうだね」

 ジェシカも満足そうに微笑んでいる。


「奴隷ちゃん。髪の毛が落ちるから風呂に入ってけ」

「はーい」

 奴隷ちゃんは浴室の方に入っていった。


「良いんですか。怒られませんか?」

「大丈夫だ、奴隷ちゃんは口が硬い。自分に利益があったことを他人に話すと自分の持ち分が減ることをよく知ってる」

 ジェシカは納得しない顔だ。身分の卑しい奴隷を外部行動員の隊長が使う部屋の浴室に入れた事を批難しているのだろう。


「奴隷をお風呂に入れるのは勇気隊長という心強い後ろ盾がいるのですから良いのですが、女の子をさすがにお風呂に入れるのは……もしかしてこのあとお楽しみですか?」

「お楽しみ?」

 何を言って……はっ!


「ちげーわ! なに言ってんだお前!」

「ち、違うんですか? そういう仲かと思ってそろそろお暇しようかと」

「勘違いするな。まだ十一歳だぞ。そういう対象としてみていない」

「失礼しました!」

 ジェシカは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。

 恥ずかしそうにするくらいならそう言うことは聞くなと言いたいところだが、本人が反省しているので良いとしよう。


 ジェシカは失言が目立つが、根は悪くなさそうだ。彼女の悪いところばかりではなく良いところを見よう。面倒見が良いところは彼女の良いところだ。


 立って待つのも体が疲れるので、空いている椅子に俺は座った。


「じゃあこちらからも失礼な質問をしてやる」

「なんですか」

 ジェシカは身構えている。これから俺がする質問はいじわるな質問だ。


「他の白人たちは奴隷を嫌っている。不可触民のように扱っているが、ジェシカは気にしないのか」

 ジェシカはきょとんとして、なんだそんなことか、とでも言いたそうな顔をして笑っている。


「このシェルターは奴隷がいるからこそ成り立つ組織構造をしています。奴隷は犯罪者とその家族ですが、私はその子供まで蔑むことは出来ません」

 ジェシカの目に、嘘偽りがないことを確信して、俺はゆっくり微笑んだ。


「隊長さんは奴隷ちゃんのことをどう思っていますか」

「家族かな。妹みたいなもんだと思ってる。よくわかんないけど」

「家族みたいですもんね。お兄ちゃんと妹みたいで。そういえば家族はいないんですか」

「いない」

「そうですか」

 ジェシカはそれ以上聞いてこなかった。


「大事にしてあげてください」

「ああ」

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