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私、酸素拾います!  作者: メケ
ジェシカの章・その2
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第五話 星を見る者

液体空気はアヌビスのホースで一秒に五リットル回収できる。アヌビスは三千リットル貯蔵できるので、六〇〇秒かかる計算だ。分にすると十分間になる。


 それにしても三〇〇〇リットルを回収する機会にありつけたのはいつぶりだろうか。

 隊長は無言のまま立っている。

 周囲を見渡したり、ホースがきちんと液体空気を吸い取れているか周りに気を配っている様子が見られた。


 一般的に外部行動員が死ぬ可能性が多い場所はエイリアンの巣の付近だ。その次に死亡する確率の高い場所はなんと液体空気を回収する地点だ。

 基本的に身動きが取れない状況で、横に発光するアヌビスがいるためにとても目立つ。

 勇気隊長は部下に危険な仕事をやらせたくないらしい。

 自己犠牲の塊のような隊長さんに次も使ってもらえるだろうか。


 この区域にここまで大量の液体空気があることが知られれば、上層部の見る目も変わるに違いない。私よりもっと優秀なアヌビスの乗り手が外部行動に駆り出される可能性は高い。

 私、また独りになるのだろうか。寂しい。また居場所をなくすなんて絶対に嫌だ。

 隊長さんを褒めて、また一緒に外部行動をしたいと思わせることが出来れば次に繋げられるはずだ。


「た、隊長さん。私、三〇〇〇リットル回収できそうなの久しぶりです。隊長さんがやってきたことはこんなに偉大なことだったんだなって、知らなかったです」

「二人でいるのは気まずいか?」

 頭の中が真っ白になった。


「ち、違います」

 私の心を見透かされたような気がして、つま先から頭まで私は震えあがった。


「冗談だ。知ってもらえて何よりだ。その言葉、サイモンと参謀にも言ってやってくれ」

 冗談、なのだろうか。私の感じたものは一体何だったのだろう。


「サイモンさん、参謀さん。今日は一緒に連れて行ってくれてありがとうございました」

「ははは。照れるな」

 参謀さんは恥ずかしそうに笑っている。


「ジェシカお嬢。ピクニックは帰るまでがピクニックだ。まだまだ楽しんで貰うぜ」

 サイモンは褒めてくれているのだろうか。気を引き締めろということなのだろう。


 やがて液体空気を回収し終わり、ホースを巻き取っていると、

「隊長、星を見る者だ。移動してる」

 参謀さんの緊迫した声が響く。


「星を見る者か、まずいな。参謀、そろそろ終わるから戻ってきてくれ。サイモンも戻ってきていい」

 星を見る者、とは一体何だろう。ずいぶんロマンチックな言葉だ。

「「了解、隊長!」」

 二人の声が重なると同時に、勇気隊長は低い声で唸った。


「まずいな」

「?」

 音波レーダーに影が映った。その影は次々に増えていき、レーダーが赤い点で埋め尽くされていく。


「隊長さん、前方に多口型が来てますよ」

「星を見る者の影響だ。奴は他のエイリアンに混乱をもたらす時があるからな」

「逃げますか?」

「これからサイモンたちが来る。それに逃げたらサイモンか参謀が一人になって奴らの餌食になる」

「つまり?」

「サイモンたちが来るまで戦うんだよ。頼りにしてるぞジェシカ!」

「は、はい!」

 レーダーに映る敵の数を見ると、三十匹以上いる。こんな大群は見たことない。


「ジェシカ、突っ込んで殺していけ。隙が出来たら俺も狩る」

「無茶ですよ」

「いいからやれぇええええええ!」

「わわわ分かりましたああああ!」

 死にたくないよぉおおおおおおお!


 よく考えれば一人でエイリアンをたくさん殺せる人間が、普通の感覚をしているわけがない。もちろんアヌビスの乗り手もそれくらい出来るだろう、という彼らなりの価値観の染みついた物差しで私を測るのだ。もしかしたら今まで軍人たちが死んだのはこれが原因かもしれない。


 ああ、あらゆる私の師よ、母よ、神よ。私に力をお与えください。願わくばこの苦境を乗り切らせてください。


 私は多口型のエイリアンに突っ込んでいった。

「うああああああああ。死ね死ね死ね死ね死ねえええええ!」


 アヌビスのコックピットに張り付いてこようとしたらば噛みつき、背後はアヌビスの尾を振り回した。視界に映る多口型のエイリアンには、ひたすらに爪を振り下ろし、致命の一撃を与えていく。


 勇気隊長は何をしているのだろうか。

 まさか後ろで悠然と待機という名の休憩を取っているわけでは無いことを願う。

 後方を確認すると、隊長はバトルアックスで多口型のエイリアンを格闘中だった。

 他の部隊なら二人以上で倒す多口型を、どこからそんな馬鹿力が出るのか一撃で処していく。


「くっ」

 隊長の腕が多口型の触手に絡め取られた。

 このままでは腕をへし折られてしまう。


 救助に行こうとしたときには、隊長は触手を腕に巻き付けたまま、敵を倒していく。

 そんなことが出来るはずがない。人間の体が折られる力を持つ敵の力をはねのけることは不可能なはずだ。


 隊長を観察していると、隊長は小型のナイフを腕に装備していた。


 触手が腕に巻き付いたら、バトルアックスから手を離してナイフに持ち替え、触手を切断し、ナイフを収納して、バトルアックスに持ち替えていた。


 この時間わずか二秒。神業のような対処方法に私は戦慄していた。

 恐ろしいほどの精密で機械的な動き。いけすの魚をさばく職人を見ているようだった。


「クリア! ジェシカそっちは?」

 多口型も刃が立たないと分かったのか、撤退していく。


「敵は撤退しました。クリアです」

「よかった。ふぅ」

 隊長の荒い息が通信機越しに聞こえる。


「隊長。怪我はねえか?」

 サイモンが東側から現れた。息を切らしているのか荒い息が聞こえる。

 すぐに参謀さんも息を切らしながら現れた。


「大丈夫だ。怪我はない」

「はあっ。良かった」


 お互いの無事を確認してから私たちは帰投への途についた。

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