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私、酸素拾います!  作者: メケ
ジェシカの章・その2
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第四話 犬

「こちら参謀。指示を出す。総員戦闘態勢を取れ。サイモンと僕で東側の隊長のいる岩まで戦いながら到達する。ジェシカは僕たちと別れて西側で戦闘を行ってくれ。あまり離れるなよ」

「わ、分かりました」

 私は岩を乗り越えて、大地を蹴った。


 経年劣化した鉄骨を微に砕きながら、私は多口型のエイリアンたちに向かった。


 かつて海という居場所に生息していたヒトデという生き物には管足と呼ばれる触手があったそうだ。先端には吸盤があってそれで移動していたという。

 それと同じ形をしている多口型エイリアンは管足ではなく触手と呼ばれている。触手の先は口になっており、多口型は多数の触手で絡め取りながら獲物を捕食する。

 それが多口型と呼ばれる所以だ。移動速度は時速十キロ。人間が走る速度と等しい。隊長たちは生き残れるだろうか。


 まずは先手。

 地を這う多口型を踏み潰した。


「ギイイイイイイイ!」

 多口型の断末魔が聞こえた。


 アヌビスにはほぼ真空の状態でも音が聞こえるように特殊な装置が付いている。外気が真空状態と言っても本当の真空は物理上発生しないため、この機器が使えるのだ。

 エイリアンたちの移動音も聞き取れたら良いのだが、そこまで便利ではない。こちらから発した音波を回収するか、近くのエイリアンの鳴き声を聞くための装置だ。


 触手で飛び跳ねてコックピットに張り付こうとする多口型には、噛みついてその体を真っ二つにした。

 いける!

 逃げようとするエイリアンを私は追った。

 二度と刃向かえないように、徹底的に教えてやる。


「ジェシカ。それ以上はだめだ。戻れ!」

 隊長から絶叫に近い声が通信機から響いた。

「隊長。ここは叩くべきです。私なら……」

「戻れ!」

 私は目を閉じて大きく息を吸った。


 自分としては叩くべきだと思う。

 しかし、今は隊長たちが襲われている。ならばやるべき事は一つ。


「皆さん。今、助けに向かいます」

「待機しろ」「待ってくれ」「来んな」

「……」

 え、何がしたいの?

 通信機から響いた三人のお呼びでない発言に深く傷ついた。


 私が来ると踏まれると思っているのだろうか。まあ、かつては踏んじゃったこともあったけど、それは最初の頃だよ。失敗したから一生懸命に練習したし、それなりに上手になったと思うんだけどな。やっぱり私は誰にも認められないのだろうか。何もしないでここにいるのは楽だ。そりゃあ楽だ。死ぬ可能性の低いアヌビスの中で横たわってエイリアンと戦わない。安全地帯の中で過ごすのは気楽だけど私も役に立ちたい。誰かに認められたい。誰かに褒めて……


「ジェシカ、サイモンたちの所に来い!」


 勇気隊長の声だ。

「はいっ、ただいま!」

 私はうれしくて、全力でサイモンたちのいるところに来た。


「犬が来たぞ」

「犬だな」

 サイモンと参謀さんは腕を組んで頷いている。

 犬とはこの犬型の車両であるアヌビスのことを言っているのだろうか。

 サイモンと参謀さんの横には多口型のエイリアンの死体がたくさん転がっていた。

 全部で八体だ。少人数で、よくこんなに殺せるものだと感心してしまった。


「バトルアックスだけで倒したんですか?」

「他に武器があるように見えるか。こんなもの、サバイバルウェアの身体能力増強効果を最大限活用できるように鍛えておくんだよ。何匹かぶっ殺せばあとは勝手に逃げてく。簡単な仕事だ」

 サイモンは二の腕をペチペチ叩いている。

 この二人とケンカして十秒立っていられたら、褒め称えられるだろう。


「隊長。生きてる?」

 参謀さんは笑いながら、通信機に問いかけた。

 この笑みは、恐らく勇気隊長の生存を確信してるからなのだろう。

「生きてるよ。早くシャワーを浴びたい」

 隊長の立っていた岩場から白銀色の光が見える。


「さすがだよ隊長。さっさと空気を回収しよう」

「ああ。今からそっちに行く」

 勇気隊長が来ると、彼は血まみれだった。


「返り血が凄いな。隊長、何匹殺したの」

 参謀さんはずいぶんうれしそうだ。

「十匹だ」

「マジかよ。隊長には敵わねえや」

 サイモンは今日こそ勝てると思ったのにと悔しそうに心境を吐露している。

 一人でそんなに倒せるわけが無い。

 だが三人で外部行動を行う以上、強者が揃うのだろう。


「じゃあみんな。だいぶ時間を食ったが酸素に余裕はある。このまま貯留池に向かい、空気を回収する」

「了解」「わかった」「了解です」

 三人が先行し、私はその後を追った。


 先ほどまで多口型のエイリアンに攻撃されていたのに、レーダーに反応はない。

「隊長さん。敵が来ませんね」

「実力を分からせたからな。残念なことに三日後には忘れてる」

「ははは。それは残念です」


 やがて、青く煌めく液体を湛えた泉に到着した。

 この青い光景は艱難辛苦を越えて目的地へ到達した外部行動員たちが見ると、必ず病み付きになると言われるほど綺麗な色をしている。

 この量では何十回も通わないとこの液体はなくなりそうにないだろう。


「うわぁ、綺麗。ペンキでも流したのかな」

「宝石みたいっていうのかと思ったぜ。センスねえな」

 サイモンは私のセンスのなさに落胆し、額へ手を当てている。


「まあまあそう言うな。綺麗なことには変わりないだろ」

 参謀さんもそう言って、綺麗だと感嘆を零した。

「眺めているのに申し訳ないが、先に空気を回収するぞ。他の種類のエイリアンが来るかもしれん」

 隊長の一言に私たちは身を引き締まらせた。


「ジェシカ。液体空気の側に移動してくれ」

「はい」

 液体空気で出来た泉の側で私はアヌビスを伏せさせた。


「液体空気回収モードに移行して」

「かしこまりました。液体空気回収に移行します」

 アヌビスの腹部から液体空気の回収用ホースが排出されるのをコックピットのモニターで確認した。


「俺が採取と護衛を行う」

「いいのか隊長。疲れてるだろ」

 サイモンは勇気隊長の肩を叩いた。


「平気さ。サイモンと参謀は観測手だ。参謀は西側から南側を、サイモンは東側から南側を見てくれ。岩に登って、周囲と縁からエイリアンが接近してこないか観測して欲しい」

「任せてよ」「わかった」

 参謀さんとサイモンたちは離れていった。


 ホースが無事に液体空気を回収し始めたのを見てから、勇気隊長はバトルアックスを起動した。


 無防備なアヌビスを守ってくれる用心棒役を買って出てくれるようだ。

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