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私、酸素拾います!  作者: メケ
ジェシカの章・その2
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第三話 包囲

 やがて道は上り坂になり、ゴロゴロとした岩が転がっている。

 隊長たちは苦労しながら岩場の上り坂を上っているようだ。

 十分ほど時間を掛けて坂を上ると、

「ジェシカ、目的地だ。前進してこの光景を見てくれ」


 隊長から前進してよしの合図が出た。

 アヌビスを隊長の下まで疾走させると、大きな谷のような窪地が突如出現した。


 私たちのいるシェルターは一階層当たり縦横五〇〇m×五〇〇mだから、窪地の面積はシェルターの一階層の面積十倍くらいだろうか。向こうの縁がかなり小さく見える。


 窪地の中には荒廃した岩が群れをなしており、一キロ先の地点に液体が湛えられているのが見えた。

 ライトを向けて光を当てると青い光を放っている。


「ジェシカ、あれが液体空気だ。あと、あまり光を当てるな。エイリアンが寄ってくる。それに俺たちの夜目も効かなくなる」

「あ、す、すみません」

 慌ててライトを消し、私は謝った。


「凄い量ですね。一回じゃ到底取り切れないですよ」

「だろ。だが地形が特殊で、液体空気の回収はまだ先だ。無事にジェシカが降りられるように探索地図の作成から始める」

「この程度の坂なら降りても無事に戻って来れますよ」

「焦るなジェシカ。そこに山があるだろ。上って観測手をしてくれ」

「私が観測手ですか?」


 観測手は、エイリアンが隊員の側に来ないか、部隊から離れてエイリアンを観測する役目をする外部行動員を指す。非常に重要な役割だが、エイリアンとの戦闘において本領を発揮するアヌビスを観測手に置くのはこの部隊が初めてだ。


「音波レーダーで敵を観測してくれ。この区域に生息する主なエイリアンは多口型だ」

「ヒトデのエイリアンですね」

「そうだ。何があっても指示があるまで窪地に降りるなよ。部隊が壊滅したら帰って良い」

「え?」

 どうして勇気隊長は私を窪地に入れてくれないのだろう。地形が特殊だから?

 目を凝らしてみるが、普通の窪地だ。深さは十五から二十mほどあるが、勾配を考えても上れない角度ではない。


「では行ってくる。観測手を頼んだぞ」

「はい」

 やっぱり私はお荷物なのかな。

 悶々とした気持ちで私は、返事をした。


 一応私もアヌビスの乗り手なのに、一人前として認められていないのだろうか。

「様々な軍人がアヌビスの熟練者だと豪語して、初回の外部行動でみんな死んだ」

 勇気隊長が話した言葉を思い出して、身が震え上がった。

 歪な自尊心に苛まれて、隊長がせっかく教えてくれたこの部隊の惨劇を忘れてしまうところだった。


「じゃあサイモン。参謀。行くぞ」

「任せときな隊長。ジェシカ嬢ちゃんが侵入しやすい迂回路の探索だな」

 サイモンがうれしそうに口を開いた。何処からでも侵入できそうな窪地だが、アヌビスの乗り手が死んでいるということはそう言うことなのだろう。


「隊長、二手に分かれよう。隊長も一人の方が楽だろ」

「悪いな参謀。巻き込みたくならないからな」

「クールだな隊長。あとは任せたよ」

「じゃあジェシカ。山の上に到達したら声を掛けてくれ」

「はい」

 私は山に向かって駆け上がった。


 鋭い爪で大地を踏みしめながら、私は一気に山の上まで到着した。標高三十メートル。所要時間は十秒。人間だったら十分ほど時間が掛かったであろう。

 勾配のきつい山の踏破に私は優越感を感じた。

 勇気隊長と彼が率いる部隊員が小さく見える。これなら役に立てそうだ。ある意味適材適所なのかもしれない。


「登頂できました」

「早いなジェシカ。まだ心の準備が出来てないぞ」

 笑いながら語りかけてくれる勇気隊長は私を褒めてくれているのだろうか。

 私は笑い声で返した。


「では窪地の縁を歩いて行く」

 勇気隊長と他の部隊員は二手に分かれて窪地の縁を歩いて行く。

 縁にも人丈以上の岩があって、隊長たちは警戒しながら進んでいた。

 視界が岩によって阻まれているようだ。


 それにしても外部行動をしているのならアヌビスの降り口くらい探索しておくべきなのだが、なぜ探索していないのだろう。しばらく前からこの部隊はこの区域の探索をしているようだが、やはり成果が出ないのだろうか。

 私はひたすらに三人の行方とエイリアンを観測し続けた。


 窪地の縁でだけでなく、たまに窪地の中までじっと見つめている。

 窪地の中に何かあるのだろうか。

 事実が分からないまま十五分が経過した。


「ジェシカお嬢。ここからなら行けそうだぜ」

 サイモンの低い声が聞こえた。

「行けそうかサイモン」

「ああ。だろ、参謀」

「問題ないね。隊長、ジェシカを連れて行っても良い?」

「分かった。観測手は俺が引き継ぐ」

 勇気隊長は身の丈の二倍はあるだろう岩の上によじ登った。


「バトルアックス起動」

 勇気隊長は外部行動員が使用する武器バトルアックスを展開した。

 人の身の丈ほどもあるその斧は闇の中で銀色の光を発しながら、隊長の所在位置とバトルアックスの起動を知らせる。


 星の瞬きだけが頼りの闇夜の世界。更に音の聞こえない真空空間においては光こそが唯一の情報源だ。暗闇の中で、重くて巨大な斧を振り回すのはあまりにも危険なため、発光するように装置が付いている。

 バトルアックスは大きな斧で、敵を叩き切るための武器だ。


 昔は外部行動に銃を持っていき、気体も凍る氷点下と真空の中、弾薬が爆発しないというコントをして、ほぼ壊滅した部隊もあったそうだ。


 今では一部の例外を除いて原始的な武器に変えられている。

 隊長の持つバトルアックスは本来なら三十キロの重さがある。

 しかし、パワースーツの機能をも有するサバイバルウェアの前では三キロのダンベルのようなものだ。


「ジェシカ。山から降りてサイモンたちと一緒に行動してくれ。俺は岩の上にいるから安心してくれ」

「分かりました」

 私は山から下りて、サイモンたちの方に向かった。

 縁に近づいて落下すると危険なので、少し迂回してからサイモンたちのいる縁にたどり着いた。


「お待たせしました」

「待ってねえよ。早えな」

 ヘルメットの奥でサイモンは白い歯をにかっと見せて笑った。


 縁から窪地内部へ降りていくと、ガラスや鉄骨が落ちている。


「ガラスかよ、まったく危ねえな。転んだら黒人のレーズンになっちまうなんて笑えねえ」

 サイモンは自虐をしながら窪地にゆっくり降りていった。

 ずいぶん勾配の緩い坂だ。十度くらいだろうか。


「サイモン。多口型が二匹現れた。戦闘を行う」

 隊長から通信が入った。落ち着いた様子で状態を報告している。


 私がサバイバルウェアだけで多口型と対敵したらパニックになってるかもしれない。

 さすがは百戦錬磨の部隊長といったところだろう。


「分かった。隊長が戦ってる間は待機だな」

 岩の隙間からサイモンは様子を窺っている。

「サイモン、撃破した。そっちはどうだ」

「多口型のエイリアンがいる」

 サイモンは私たちに待てを出した。

「参謀。西側、敵の数は三だ。こちらに向かってきている」

「サイモン。東側からも多口型が三匹」

「数が増えた。こっちに来てる。こっちの五匹は俺がやる」

「サイモン、こちらも増えた。こっちの七匹は僕がどうにかするよ」

「マジか。敵が十匹に増えた」

「おいお前ら。包囲されてるぞ」

 隊長から慌てた声が聞こえる。


「隊長。何やってんだ。観測手だろ?」

「こっちも多口型に襲われてる! 数が多い!」

「なんでだよ。いつも通りの外部行動だろ」

 サイモンはゆっくりと私の方を見た。


 サイモンの顔が私のアヌビスが発する光で青く照らされた。

「クソッタレ! めちゃくちゃ綺麗な光じゃねえか!」

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