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私、酸素拾います!  作者: メケ
ジェシカの章・その2
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第二話 彼らの外部行動

 昇降機は止まり、ゲートがゆっくりと開いた。

 無数の星達が私を出迎えてくれた。

 この景色を見ると、外に出てきたという実感が湧く。


 人影が見えたので、目をこらすと、ゲートの前には隊長たちが来ていた。もしかして待たせてしまったのだろうか。

「おせえぞジェシカ」

 サイモンの唸る声が聞こえた。


「す、すみません」

「誤差の範囲内だ。行くぞジェシカ」

 隊長が庇うように声を掛けてくれた。


 本当に優しい。こんな私のために……

 隊長たちは私に背を向けて南西の方に向かった。

 こちらの方向は演習場じゃない。

 恐らく私が来るのが遅すぎて、私の練度を確かめる時間も無いのだろう。

 背中を見つめながら私はアヌビスの移動を開始した。


 アヌビスは最大高さ十メートル、全長二十メートルほどだ。

 アヌビスの下顎は高さ三メートルのあたりに位置する。

 隊長たちの凄みは、彼らを見下ろす位置にいるはずの心臓を高鳴らせた。


「隊長。初っぱなからこれじゃあ先が思いやられるぜ」

「気にするな。あと数分遅ければ置いていった。今回はそれまでに来た。ただそれだけだ」

 相変わらずの勇気隊長の冷静さに、肌が粟立つ感覚を覚えた。

 恐怖か畏敬いけいか。彼の背中には口にするのも難しい、ただならぬ気配が漂っていた。


「ジェシカ。外部行動において最も大切なことは何だと思う」

 抑揚のない勇気隊長の声に私はおののいた。彼の背中に答えは書いていない。

 もしかしてやっぱり遅かったことを怒っているのだろうか。

「大切なことですか。時間、ですかね」

「いや、その話は終わったろ?」

 私が勇気隊長の機嫌を伺っているのを見透かされてしまった。


 これはかなりの難問だ。百戦錬磨であれば経験と言うし、通ぶれば運と言うだろう。

 隊長は私に何を求めているのだろうか。


「運ですか?」

「まあそれもある。運の悪い奴は何処までもツいていない。だが、変えようのない運という要素を重要なものと言えない」

「では、経験ですか」

「その通りだ。経験は最も大事なものだ。ところでジェシカ。俺の言う経験ってどういう意味だと思う?」

「どういう、ですか?」

 私は試されているのか。


 勇気隊長の哲学的な話に、意外と面倒な性質を持っているのではないかと私は勘ぐってしまった。


「要するに、外部行動を行っていけば私の実力が付いていくって事ですか」

「惜しいな。実力が付くのはジェシカだけじゃない。みんなだ。この部隊はファーストエスケーパーと軽んじられているが、これから行く未踏の地では熟練の経験者だ。無能の戯れ言と思わず、頼むから指示に従ってくれ。ブライト大尉、ショーン少佐、ビリー大尉、ドナルド大尉……様々な軍人がアヌビスの熟練者だと豪語して、初回の外部行動でみんな死んだ。頼むから俺たちの指示には従ってくれ」

「分かりました。どんな人にも敬意を持って接します」

「敬意は払わなくていい。ただ、死ぬなよ」

 隊長は私のことを本当に気にしているようだ。


 先ほど聞いた名前は名だたるアヌビスの乗り手たちだ。

 この部隊で命を落としたとは知らなかった。

 私はもしかしたら本当に死んでしまうのかもしれない。

 そう思うと身体が震えてきた。


「ジェシカ。俺が外部行動で最も不要だと思うものは言葉だ。恐らく、俺の言った言葉と、ジェシカの聞き取った言葉の意味は違う。それは、もちろんサイモンや参謀にも言えることだ。だから指示は、短く具体的に話す。分からないことがあったら聞いてくれ」

 隊長はそれから無言になって、道なき道をひたすら歩いた。

 道の凹凸に文句も言わず、隊長たちは着々と進んでいく。


「ジェシカ。俺たちから距離を二百メートル離して移動してくれ。ここから先はエイリアンが多く居る。アヌビスの光は闇の世界では誘蛾灯のようなものだ」

「分かりました。先に行ってください」

「こちらも目視していくが、ジェシカも音波レーダーで索敵してくれ。こちらに対処できないほどのエイリアンが来たら、俺たちと戦う。その作戦で行こう」

 小さくなっていく三人の背中を見て心細くなってきた。


 今までいた部隊はアヌビスと外部行動員が一緒に目的地に向かった。

 子供の話や、昨日のご飯がおいしくなかったことを隊の人たちが話しながら、私はアヌビスのレーダーで補足し、敵を見つけてみんなで倒していた。だけどこの部隊は違う。

 隊長以外は喋らない。私のことが嫌いなのだろうか。


 いや、でもそれ以上に寡黙である。仲間同士の話さえせず、黙々と前進していくだけだ。

「皆さんは何か話をしながら外部行動をしないんですか」

「ピクニックに来てるんじゃねえんだぞ。吸える酸素が途中で尽きたら死ぬんだ。ただでさえ目的地は遠いのに、無駄口を叩く暇はねえ」

 サイモンは息を少し上げながら、私に言い放った。


「気にすることはないよジェシカちゃん。今まで、三人でやってきたからね。一人のミスをカバーできる人材もいないんだ。だから細心の注意を払うんだよ」

 参謀さんは、優しい声で語りかけてくれた。

 この人たちは私が嫌いなわけじゃない。


 今までいた部隊はシェルターから近く、部隊の人員もそれなりにいた。ミスをカバーし合える人数と、サバイバルウェアの酸素の残量に余裕があり、アヌビスも側にいた。

 一方、この部隊は三人でアヌビスもいなく、遠方への外部行動のため酸素残量は前のいた部隊より余裕はない。

 必然と余計なものは省かれ、洗練され、錬磨されていったのだろう。


 そう考えると、小さく見える三人の姿がなんとなく大きく見えた。

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