第七話 外部行動開始
常夜の世界において、朝という概念は存在するか。
答えは、存在する、だ。
赤色灯と、けたたましいサイレンに俺は目を覚ました。
「時間か。さて、行くか」
俺は用を足してから服を全て脱いで全裸になった。
寒さが身にしみる。外部行動員がたまに心臓発作を起こし、死亡する理由がよく分かる。
震えながら俺はおむつを着用した。
長時間の外部行動において、トイレ休憩など無い。基本垂れ流しだ。
おむつのカサカサした感触が最初は不愉快だったが今では慣れたものだ。
その上からサバイバルウェアと各種装備を装着して、外部連絡室へ向かった。
道中、他の部隊の隊員たちが忙しそうに外部連絡室に向かっていく。
外部連絡室の退勤カードリーダー器にカードキーをかざし、出撃の証明とした。
広大な外部連絡室に入ると、各隊員が整列して待っていた。電光掲示板にあと五分で出撃と書かれている。
五分後に居住区へ繋がる扉が閉まり、外部連絡室内の空気が全て居住区に送られる。そして外部連絡室が真空状態になった時点で外部連絡室は浮上し、最上階まで行くと外への扉が開く。それが外部行動の始まりだ。
問題なのは、俺の部隊の隊員が誰も来ていないと言うことだ。
他の部隊はすでに揃っていて、いつでも出撃できる体勢だ。
みんなジェシカに怯えて出撃しないとなると、俺とジェシカの素敵なデートが始まる。生きて帰ってこれたら運がいい方だろう。
「隊長。お待たせしました」
通信機からサイモンの声が聞こえる。
サイモンが俺の後ろに付いた。どうやら腹をくくってきたようだ。
「サイモン。行けるか」
「弟のために死ねないが、弟のためには働かなくちゃいけない。仕方が無いさ」
「そうか。ならば行こう」
サイモンに微笑みかけると、ヘルメットの奥でサイモンは満面の笑みを浮かべた。
「すまない遅れた」
参謀のマサルがやってきた。
恐らく髪のセットをしていたか、鏡に映る自分に見とれていたのだろう。気にすることじゃない。
「作戦通り、まずはジェシカの能力を見る。外に出たらジェシカと合流しよう」
「了解!」
二人の返答を聞いて、俺は今日の作戦をもう一度頭の中で反芻した。
今日の目標は液体空気を三千リットル。ジェシカと合流し、彼女の実力を測ったあとに未踏の岩山に行く。その後、エイリアンどもを出来る限り回避しながら液体空気を獲得する。
至って単純、至極明快だ。
電光掲示板の時間がゼロを示し、居住区のドアが完全に遮断された。
「空気を排出します。ご注意ください」
けたたましい機械音声も、空気が居住区に送り出されることによって徐々に小さくなって最後には聞こえなくなった。
「隊長。今日こそはやってやろうぜ」
聞こえるのは通信機から届く仲間の声だけだ。
「ああ。やってやろう。輝かしい俺たちの未来と温かい食事のために!」
徐々に昇降機が稼働し、俺たちのいる外部連絡室が地上に向かっていく。
外部行動員なら、今が一番緊張する時間だろう。
外には様々な形や生態系を持ったエイリアンがいるのだ。
地球が太陽という恒星から離れて数百年。どこからともなく現れた地球の同居者たちとの苛烈な戦いが始まる。
ガゴン。
震動が地上への到達を伝えた。
ゲートが開き、星だけが頼りの暗闇が口を開けた。
「いくぞ」
「了解」
どの部隊もそのような会話をしているのだろう。
さあ、外部行動の始まりだ。




