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私、酸素拾います!  作者: メケ
サイモンの章・その1
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第四話 二人の策略

 シェルターに戻ると、俺は共同浴場に向かった。

 俺は最近、共同浴場を使っている。


 外部行動員の隊長は自室にシャワーが付いているが、部隊員たちは共同浴場を使う。

 隊長たちは忙しいので、自室でさっと済ませる人が多い。

 俺も教育隊長をやらされたときには、よく使っていた。

 俺は奴隷を雇わなかったので、自分で自室の浴室を掃除をしていたが、風呂掃除は面倒だった。

 その点、共同浴場は清掃係がいるので掃除もしなくていいから助かる。


「あぁ~」

 俺は低い声で、シャワーの温かさに喜んでいた。


 これは生命の水だ。

 このお湯が俺の疲れを流してくれる。

 悦に浸っていると出入り口の扉が開かれ、尾羽が浴室内に入ってきた。

 俺に微笑みながら尾羽は隣にやってきた。


「サイモン、お疲れ」

「尾羽か。お疲れ」


 珍しいこともあるもんだ。

 隊長格の人間が共同浴場に入ってくるのは、大量の液体空気が取れたときに労をねぎらう時くらいだ。

 その時はお互いの背中を擦り合うのだが、この状況では珍しい光景と言える。


「久しぶりだな。尾羽と一緒に風呂に入るなんて」

 俺は尾羽に一声掛けてみた。

 何か裏がありそうな気配に、俺は尾羽の腹を探ろうとしていた。


「そうだな。お互いに忙しい身だからな。勇気隊長はまだ良くならないのか?」

「すぐには良くならないさ。数日前に外部遠征から帰ってきたばかりだぜ。薬を飲み始めてそんなに時間は経ってない」

「それもそうだな」

 尾羽もシャワーを浴び始めた。


 俺は参謀に作り方を教えて貰ったボディソープで体を洗い始めた。

「サイモン、それ良い匂いがするな」

「使ってみるか?」

「ああ、ありがとう。久しぶりに見たら肌の調子が良いんじゃないか?」

「いくら褒めてもケツは貸さねえぞ」

「ハハハ。よせや」

「ふっふっふ」

 軽口を叩き合いながら俺たちは自分の体を洗っていた。


 おかしい。他の部隊員が入ってこない。尾羽は一体何の目的があってきたんだ?

 時間が経つにつれ、不審なこと続きで俺は尾羽に対して疑念を抱いていた。


「なあサイモン」

「なんだ?」

 何か来るぞ、来るぞ!


「お願いがある」

 来た~。ほらな?

 やはりという気持ちが隠せなかった。

 厄介事でなければ良いのだが、俺には嫌な予感しかしなかった。


「未踏の岩山地帯に行きたい。勇気隊長から探索地図の譲渡と液体空気の回収許可を取って欲しい」

「やめとけ。あそこには「星を見る者」っていうでかい化け物がいる。あとそいつらの他に多口型がいる」

「ヒトデ野郎か。厄介なエイリアンだな」

「ああ」

 俺はシャワーを止めて、湯船に浸かった。


「ジェシカが連れて行った部隊も死んだろ。死に急ぐんじゃねえ」

「それはそうだが、アヌビスが破壊されたり酸素不足でパニックになったからやられたんだろ。それに練度も低かった」

「尾羽、じゃあお前が率いている部隊の練度は高いのか?」

 俺が見た限りでは、尾羽の部隊は練度が低い。

 新人が多すぎて上手く部隊が回らないのだろう。


「サイモン、何が言いたい。俺の部隊を馬鹿にしてるのか」

「無言かつ、かなりのスピードで目的地にたどり着くのは最低条件だ。エイリアンと遭遇して戦闘が長引いたら諦めてさっさと帰る。尾羽、俺たちはファーストエスケーパーと呼ばれていた。それを実行しないと部隊員が死ぬ。部隊が強いかどうかだけじゃなくて、隊長である尾羽も正確な指示が出せるのか?」


 外部行動は一人で行うわけではない。

 自分の指示に対して、部隊員たちが解釈をし、解釈によって行動を行う。

 この一連の流れに支障を来した場合、大なり小なりミスや事故が起こる。


「やってみるさ。俺だって探索地図を作ったり、未踏の地に行ったことだってある。部隊に新人が多いのは事実だが、経験を積ませるのも大事だ」

 どうやら尾羽は引かないようだ。


「……分かった。その覚悟、勇気隊長に伝えておく」

 絶対に勇気隊長に断らせてやる。

 わざわざ苦労して探索した土地を何で渡さなきゃいけないんだ。


「サイモン、保証はする。未踏の岩山地帯で得た賃金の十パーセンをマージンとして払う」

「分かった。その条件も伝えておく」


 俺は嫌な気分になったので、さっさと湯船から上がった。

 とはいえ尾羽は見知った仲だとしても今では部隊の隊長だ。敬意を払ってこの件は伝えるべきだろう。

 俺はすっきりしない気分で風呂から上がった。

 



「はあ? マジで言っているのか隊長」

 俺は隊長に一連の流れを話した後、隊長の反応に驚いた。

「ああ、本当だ」

 俺は隊長の言ったことに耳を疑った。


「隊長、あんたが今言ったのはせっかく頑張って作った探索地図と探索地を渡すって言ったんだぞ」

「ああそうだ」

 隊長は、けろっとした様子だ。


「長い闘病で記憶が抜けて落ちちまったのかもしれねえから一応言っておく。あの地図は俺と隊長、そして死んだ参謀が努力して作り上げたものなんだぞ。マージン十パーセントは安くはない金だがそれでいいのかよ」

 俺は隊長がこんなに薄情な奴だったとは知らず、泣きそうになった。

 いや、それは言い過ぎか。隊長もこんな体になったから金に困っているのかもしれない。


「これでいいんだよサイモン。あと一つ条件を変更させてくれ。マージンの代わりに尾羽隊長が部隊員たち全員に払う給料。その合計の三ヶ月分の金を俺たちに先払いすることを条件としてくれ。そしたらマージンは要らない。計算が面倒だと伝えてくれ」

「……」

 そうだよな。先に金が欲しいよな。

 策略を十分に練るはずの隊長が目先の金に囚われるとは隊長も変わっちまったんだな。実はもうあの時の勇気隊長とやらは死んじまったのかもしれない。


 目頭が熱くなり、

「分かった。伝えてくる」

 俺は背を向けて、隊長の部屋を出ようとした。


「サイモン。一応言っておくが、尾羽たちには許可を出しただけで、チーム・アポカリプスが未踏の岩山地帯に行けなくなるわけじゃない」

「……分かってる!」

「それともう一つ」

「何だよ!」

 言い訳がましく話す隊長に俺は声を荒げた。


 隊長は自分を許して貰いたいがために、俺を納得させようとしているのだろうか。よほどの理由がない限り俺は納得するつもりはない。


「尾羽隊長の部隊は未踏の岩山地帯までたどり着けない。違うか?」

「……」

 隊長のしたり顔に俺は、はっとした。

「ククク……ハハハハハハハ!」

 俺は思わず笑いがこみ上げてきた。


 耄碌もうろくしていたのは俺の方だったのかもしれない。

「隊長、あんたも人が悪いな」

「そうでも無いさ。俺の調子が良くないことを利用して、利益を得ようとする奴を利用するだけさ。俺の調子が良ければ液体空気を大量獲得して、今頃悠々自適な生活を過ごしていられる。それなのにこのザマだ。尾羽から貰う報酬は半年分と言いたいところだがあまり暴利を貪ると反感を買うからな。この作戦はあくまで向こうが失敗してくれることを念頭に置いている」

「分かった。伝えてくる」

 俺は隊長を見直したと同時に恥ずかしくなった。


 やっぱり隊長は隊長だ。いろいろな意味でしたたかだ。

 俺は隊長に手を振って、部屋を出た。


 


 行き着いた先はチーム・ラグナロク第一分隊の部屋の隊長室だ。

 ここは尾羽の隊長室となっている。


 俺がノックをすると、尾羽が出てきて中に招かれた。

「やあサイモン、勇気隊長と話は付いたか?」

「ああ、何とかな」

 俺は少しやるせなさそうな顔を演出した。


「率直に言うと勇気隊長は条件を変えて欲しいみたいだ」

「どんな条件だ」

 尾羽は興味津々に耳を傾けている。

 上手く食い付いてくれているようだ。


「まず、一つ目。チーム・アポカリプスも液体空気が回収できるようにすること。そして探索できるのは尾羽が率いるチーム・ラグナロク第一分隊のみだ」

「それは大丈夫だ。あくまで地図をもらい、探索区域を借りるだけだ。チーム・ラグナロクの本隊が行くこともない。十分に懲りてるみたいだ」

 まずは確認と相手が受け入れやすい条件を話した。

 勇気隊長がよくやる手段だ。その後に徐々に条件を挙げていく。


「二つ目。尾羽の部隊員たち全員に払われる給料の総額、その三ヶ月分を払って欲しい。計算が面倒だからマージンは要らないそうだ」

「……」

 尾羽は黙った。

 部隊員全員の給料の三ヶ月分は大金だ。

 とは言え、未踏の地に行って探索地図を書く手間とリスクを考えれば決して高くもない。

 そして一度払えば後腐れが無い。


 つまりは未踏の岩山地帯に行って液体空気が回収できるのであればとてもお得と言うことだ。

 あくまで回収できればな。


「資料をみたけど、とてつもなく魅力的な量の液体空気があるのは知っている。だが、安い金じゃないな」

「……そうだな。俺は伝えるだけの役割だ。俺よりも勇気隊長と話を付けた方が良いんじゃないか?」

 そう言って俺は立ち上がった。


「どこに行く?」

 尾羽は目を丸くして俺を引き留めた。

「そろそろ隊長のオムツを替えてくる時間だ。まだ自由に動けないからな。後は隊長と話を付けてくれ」

「待て。分かった、払う」

 尾羽は血相を変えて、支払うと言った。


「考えなくて良いのか?」

「いい」

「まあ、それなら書類にサインしてくれ」

 俺は尾羽に書類をサインさせて、写しを渡した。


「勇気隊長に会うのは敷居が高い」

「ああ、そんなこともあったな」


 それもそのはず。尾羽は平の外部行動員だったときに、年下だった勇気隊長に喧嘩をふっかたことがある。

 周囲の隊員の制止も聞かずに奴隷ちゃんを侮辱し、勇気隊長を殴った結果、血祭りにされた。


 その後、仲間の部隊員から勇気隊長が掃除屋スイーパー出身だと聞いた時の、

「……それなら……早く言ってよぉ」

 と言ったセリフは今でも熟練部隊員たちの語り草であり、笑いぐさでもある。


 基本的に外部行動員は全員が筋肉質だが、隊長は群を抜いている。

 みんな体格が良いのは共通しているが、隊長のは筋肉が詰まっていると言った方が正しいような筋肉の付き方をしている。

 そしてエイリアンとの戦闘経験も十分に経験があり、ボコられるのも無理はない。


 もしかしたら尾羽は今も話しづらいのかもしれないな。


「分かった。サインは貰ったから隊長に伝えておく」

 俺は心の中でガッツポーズをしながら尾羽の部屋を出た。

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