サイモンの章・その1 第一話 お楽しみタイム
定刻まであと二十分。
俺はオムツを履いて、サバイバルウェアを着た。
相変わらず寒い階層だぜ。ジジィになるまで外部行動は続けらんねえな。
俺はバトルアックスを起動させ、白色灯の点灯を確認した。
うん、問題はない。
俺は外部連絡室に向かって歩き始めた。
「サイモン。通じてるか?」
チーム・ラグナロクの風切尾羽から通信が入ってきた。
尾羽は最近隊長になった若手の外部行動員だ。
「ああ、通じているさ。今、外部連絡室に向かっているところだ」
尾羽は俺が昔、訓練生の時に世話になった風切隊長の弟だ。
兄つながりで彼とも良好な関係を築けている。そう思う。
「サイモン、この通信はルルルカちゃんとも繋がっている」
「そうか。ルルルカ、調子はどうだ?」
俺は通信機越しにルルルカに連絡を取った。
「はい、準備は出来ました。今から出発します」
ルルルカも準備万端なようだ。
今回は訓練生であるルルルカを連れていくことになっている。
「分かった。で、尾羽。今回はどこに行くんだ?」
俺は尾羽に今回のミッションの詳細を尋ねた。
訓練生を連れて行く以上、ハードな場所ではないことを願いたい。
「今日はな、元沼地に向かう」
「ああ、良い場所じゃねえか」
元沼地と呼ばれる場所はシェルターから近く、掃除屋と呼ばれる特殊外部行動員が定期的にエイリアンを殺して回っている。
そのため危険度はかなり低く、訓練生のルルルカ向けと言えるだろう。
「風切隊長。そこは安全なんですか?」
ルルルカは初めての外部行動に不安を覚えているようだ。
「ああ。基本的にエイリアンに会うこともない。外部遠征でお疲れのところ申し訳ないが、空気漏れを起こしたようで液体空気を回収してこなければならない」
「分かりました」
今回は派遣という形でチーム・ラグナロクと一緒に外部行動を行う。
もしかしたら尾羽はルルルカをチーム・ラグナロクに入隊させたいのかもしれない。
女性外部行動員は数が少ないから、どこも欲しがっている。
女がいれば、男どもの士気が上昇するし、股間のレバーも上昇する。
チーム・ラグナロクも未婚者が多くて困っているのだろう。
液体空気を回収できる外部行動員の給料は確かに高めに設定されているが、先立たれるリスクを考えると、不人気になる気持ちも分からないわけでもない。
俺は外部連絡室前で出勤簿にカードキーを晒して、入室した。
他の部隊も並んでいたので、俺はチーム・ラグナロクの部隊を探した。
部隊にはそれぞれのマークがある。部隊章と呼ばれるものだが、俺はチーム・ラグナロクの部隊章をつけた部隊員を探した。
ちなみに、チーム・ラグナロクの部隊章は槍と指輪だ。
「おお、いたか」
すでにチーム・ラグナロクの部隊員たちが集まっていた。
「来たぜ、よろしくな」
俺はチーム・ラグナロクの部隊員たちに挨拶をした。
挨拶はコミュニケーションにおける基本だ。
「サイモン。外部遠征に行ったんだって? 道中で良いから話聞かせろよ」
俺に話しかけてきたのは尾羽の次に歴の長い、天津場紅緑だ。
紅緑は副隊長で尾羽と仲の良い部隊員だ。
尾羽の右腕役をやっており、通常なら本隊に昇進するはずだったが、尾羽と一緒に居たい、と昇進を蹴ってしまった。
こんな絶好のチャンスを逃すなんて、紅緑はホモかなと思ったけど、多分それは違うだろう。
俺はチーム・ラグナロクのメンバーたちに歓迎されながら隊列に並んだ。
このメンバーは新生・チーム・ラグナロク第一分隊だ。
第一分隊は簡単に言えば補欠チームだ。本隊のチーム・ラグナロクに欠員が出た場合に、人員が本隊に補充される。
スティーブン前大佐が強行した外部遠征によってチーム・ラグナロクが壊滅した。
そのため第一分隊からたくさんのベテラン部隊員が本隊へ昇格したが、それと同時に多数の訓練生に毛の生えたような人間が第一分隊に合流した。
この事態になったのはチーム・ラグナロク第一分隊が優秀な外部行動員の獲得に失敗したからだ。
中堅の外部行動員が多数抜けた中で、おいて一番有能で歴のある部隊員は尾羽だった。
そのため本隊の推薦もあり尾羽は部隊長となった。
現在、尾羽の部隊の練度は決して高いとは言えないだろう。
「なあサイモン」
「ん?」
紅緑が俺に話しかけてくる。
「今度さ、お楽しみタイムが終わった後に、裏お楽しみタイムをやるんだが来ないか?」
「マジか!?」
まず、お楽しみタイムとは外部行動員層の連中が集まって、発掘した映画やドラマを見る会を指す。
ジャンルは問わず、様々なものが放映される。
三週間前は「死霊のはらわた・リメイク」を見た。凄く怖かったのでホラーは二度と見ない。
と思っていたら今度は誘われて、渋々「死霊の盆踊り」を見ることになった。
「死霊のはらわた」に「死霊の盆踊り」という死霊続きで、俺はまた怖い作品なんだろうと戦々恐々としていた。
だが、「死霊の盆踊り」の内容はホラー映画好きの外部行動員たちの期待を大いに裏切り、ただの抜けないポルノを何十分も見させらる始末となった。
俺としては映画よりも、みんなのポカンとした顔や、「いつ本編が始まるんだ?」といったひそひそ声に耳を傾けていた。
結果として、面白かったが二度目はない。
資料室に永遠に保存されることとなるだろう。
そして、先ほど紅緑が言った「裏お楽しみタイム」とはアダルトな作品を男たちだけで見るフェスティバルだ!
この前見たのは黒人が、でかいブツで不釣り合いなほど華奢な女優をかわいがっていた。
もちろん放映した後は、
「サイモン、お前のはあんなにでかいのか?」
と周囲の男たちが興奮しており、俺がみんなの前で萎えた竿を晒す羽目になった。
黒人モノは二度と見ねえことにした。
「で、内容は?」
そこが一番重要だ。黒人モノは俺にとってのトラウマだ。
「タイトルは「レズラビリンス! 怒濤の四連発!」だ」
「絶対に行くぜ! エロスは人種を越える!」
俺は二つ返事で承諾した後、紅緑の手を握った。
「いやぁ、部隊は刷新されたけど、この部隊には女が入隊しなかったからさ。みんなこういうの大好きなんだよな。この前見た記録媒体は女優の×××から大量に……」
「あ、あのぉ……」
通信機からルルルカの声が聞こえる。
「ここに並べば良いんですよね」
俺たちの背後から、困ったような顔をしたルルルカが申し訳なさそうに隊に加わった。
恐らく先ほどの通信はルルルカも傍受していたのだろう。
部隊員たちの顔が青ざめていくのが分かった。
「さ、サイモン。この可愛い子は……」
全員が固唾をのみ、ルルルカの様子を窺っている。
「俺が一時期チーム・カリユガで訓練隊長をしていたときの生き残りだ」
「……なるほど」
急に部隊員たちは背筋を伸ばし始めた。
「今日はフォーメーションAで行くか?」
「いや、今日はタンク役がいる。Bで行こう」
「バカ野郎。今日は訓練生がいる。Tで行こう」
尾羽の部隊員たちは急に真面目になった。
女がいるってすげえ効果があるんだなと俺は痛切に感じてしまった。




