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私、酸素拾います!  作者: メケ
第三部・愛別離苦編
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第三部 序章 満面のジェシカ

 ジェシカたちは下半身不随の勇気隊長を救うべく、六十七番シェルターまで外部遠征を行った。

 そこは吉田博士が遺伝子的改造を行った怪人の跋扈ばっこする場所で、ジェシカたちはなんとかジェシカたちは奴隷ちゃんを救出と分子標的薬のリモハノールを回収に成功し、脱出する。

田博士が透明になったまま付いて来たため、ラッシュフォード博士は殺害されてしまう。

 吉田博士の作った、改造人間の長であるエセフェルはジェシカたちに総攻撃を掛ける際に、首の爆弾を外し、吉田博士を裏切った。

 全員で吉田博士を荒野に置いてけぼりにし、ジェシカたちはエセフェルとともに自分たちの第三十七番シェルターに帰還した。

 勇気隊長に薬を届けたジェシカは運命の告白をするも、煎薬の奴隷ちゃんから結婚するなら三人で結婚することとの条件を受けた。

 父親にこのことを相談すると、相も変わらず自分の事ばかりしか考えていないので殴り合いの喧嘩をした後、奴隷ちゃんの要求をのみ、三人で結婚することにした。

 一方その頃、第二十四番シェルターがジェシカたちの乗り捨てたアヌビスを鹵獲ろかくした。

 シェルター内でウォータールームを開放し、首をねじりきられた、ラッシュフォード博士の遺体を発見する。

「うへへ。うへへへへへ」

 私は鏡の前でにやけていた。


 昨日のことだ。私は勇気隊長と結ばれた。

 その事実が私の頬をどうしても緩ませてしまう。

 千切れた髪もたぶん数ミリ伸びたし、痣だらけの顔も恋という名の戦争で勝ち取った立派な勲章。

 私は有頂天で、世界一の幸福少女となっていた。


「さてと、今日もお仕事行っちゃいますか!」

 私は紺の制服に着替えて、部屋を出た。


 廊下の電灯は私のためのスポットライト。今まさに人生の絶頂期だ。

 足取りの軽い私は司令部に到着し、

「おはようございまーす!」

 元気に挨拶をした。


「ん?」

 私はその異変にすぐに気付いた。

 いつもならジョナサン大佐の左側の席が私の席なのだが、本日はジョナサン大佐の右側に席が一つ増えている。

 その席に座っているのはすました顔のレベッカだった。


「ジェシカ大佐補佐、おはよう」

 私に挨拶をしたのは、机に置かれた松葉杖が痛々しいジョナサン大佐だった。


「みんな集まったようだから今日から人事発表を行う。レベッカ少佐だが本日から大佐補佐になる。皆さん、新しい大佐補佐に拍手」

 ジョナサン大佐の一声で、左官たちが引きった表情で拍手をしている。

 レベッカは立ち上がった後、うれしくも無さそうに一礼をした後席に着いた。


「ジェシカ、早く席に。本日は申し送りがある」

「あぁ、すみません」

 私は慌てて自分の席に着席した。


「シェルター内の空気量だが、減っている。主に白人層で減っているみたいだ。武器庫アーセナルでまたボヤを起こしたのかと思ったらそうでも無いらしい。このシェルターも補修はしているが遺跡のようなものだ。だからどこで空気漏れを起こしても不思議ではない。いつ壊れても最大限の対処が出来るようにしていこう」

 ジョナサン大佐の申し送りが終わってから仕事が始まり、私は業務に取りかかった。


 席順は私の右隣にジョナサン大佐が居て、その右隣にレベッカがいる。

 なのでレベッカと会話もすることも出来ないまま仕事が始まった。

 私の告白を勇気隊長が受け入れてくれた事をレベッカに聞かせたい。


 昨日、私は勇気隊長に返事をする際にレベッカに付き添われて勇気隊長の部屋に行った。

 部屋の前でレベッカは、あとは頑張って、という旨を述べて帰ってしまった。


 確かに心細かったけど、あれで踏ん切りがついた気がする。

 あのままだったらいつまでもレベッカに依存して、決まりがつかなかったかも知れない。

 レベッカは昔から私のことを知っているし、もしかしたら私のためにあえて去ってくれたのかもしれない。レベッカには感謝しないと。


 数日間不安でろくに眠れずにいたため、私は勇気隊長に告白した後、部屋に直帰して、ぐっすり眠ってしまった。

 つまりはレベッカには報告しなかった。

 レベッカは怒ってるんじゃないかなと思って、私は大佐越しにレベッカの方をチラリと見た。


 レベッカは反応せずに、黙々と仕事をこなしている。

 もしかして無視されているのだろうか。怒ってるのかもしれない。


 私の胃はキュウキュウと痛くなってきた。

 うう、どうしよう。嫌われちゃったかな。大事な報告をしなかった恩知らず、と思われても仕方ないよね。どうしたら良いのかな。


「おい、仕事に集中しろ!」

 私の右隣に座っているジョナサン大佐が私に一喝してきた。


「あ、はい」

「お前はいつもレベッカに目を配らせやがって……もしかしてレズか?」

 ジョナサン大佐は腫れた顔で私を睨んできた。


「いえ、そんなことはないです。私は勇気隊長と婚約しました」

「はぁ!?」

 ジョナサン大佐は突然の報告に吃驚きっきょうしている。

 周囲の視線が私が集まっているように感じる。

 もしかして、私は祝福されているのだろうか。


「そうか。勇気隊長と結婚か」

 ジョナサン大佐は私に生暖かい視線を向け、私の両肩に手を置いた。


「略奪愛をして良いのは、刺される覚悟がある奴だけだ」

「な、何のことですか?」

「とぼけるな。勇気隊長と奴隷の子の熱愛は白人層にも聞こえるほどだ。奪ったんだな?」

 ジョナサン大佐はだいぶ確信めいた様子だ。

 首を右側に少し傾け、上目遣いに睨んでくる。


「ち、違いますよ。言っておきますが奴隷ちゃんも一緒です。三人で結婚するんです」

 神妙な顔をしてジョナサン大佐は私を見ている。

「レベッカ大佐補佐。今の話、聞いてたか?」

 腕を組んでジョナサン大佐はレベッカに語り掛けた。


「いえ、全然。せっかく私が勇気隊長の部屋の前まで付いていったのに報告はなく、たった今聞きました」

「ジェシカ貴様、友人に対してなんたる無礼。親しき仲にも礼儀ありだぞ」

「大佐。別に良いんですよ」

 ジョナサン大佐を止めたのはレベッカだった。


「報告がないのはいつも通りなんで。ね、ジェシカ」

 チクリと言葉でレベッカに刺されてしまった。

「あ、うう……」

 レベッカの微笑みが辛い。きっと怒っているんだろう。


「ジェシカ。怒ってないわよ。あのね、あんたと何年つるんでると思ってるの?」

「れ、レベッカ……ごめんね」

「いいって。私の方を見てたのは伝えたかったんでしょ。分かってるわ。外部遠征、お疲れ様」

 レベッカは私のことを分かってくれたようだ。

 胸にジーンとくるものがあり、目頭が熱くなった。


「諸君。ジェシカ大佐補佐が人妻になるみたいだ。さあ、祝いの品を買うために今日も馬車馬のように働こう」

 ジョナサン大佐の緩いジョークで左官たちも笑いながら、仕事に取りかかり始めた。

 とっても幸せな気分で私も仕事に取りかかった。



 

「外部行動員層に行ってきます」

 切りの良いところまで仕事を片付けて、私は席を発った。

「いってらっしゃい」

 レベッカに見送られて私は司令部を出た。


 エレベーターに乗り、外部行動員層に着くと、ジャック少尉が出迎えてくれた。

「ジェシカ大佐補佐、お疲れ様です」

 ジャック少尉は私にコートを渡してきた。

 もふもふしていて、とても暖かいコートだ。

 その感触に私は目を細めながら、ジャック少尉とともに外部行動員層を歩いた。


「今日はどのようなご用件ですか?」

「捕虜に会いに行ってきます」

「ああ、第二十四番シェルターの方ですね」

「ええ。捕虜の体調管理も仕事のうちです」


 先に私たちはサイモンの部屋を尋ね、サイモンを呼んだ。

「ジェシカ、どうした?」

 サイモンは半袖で汗をかいている。体から汗と湯気を出して、汗を白いタオルで拭いていた。


「お取り込み中でした?」

「いや、筋トレだ。捕虜に会いに行くのか」

「ええ、様子を見に行きます」

「分かった」


 数分後、服を着込んだサイモンがやってきた。

「早く済ませよう。パンプが冷めちまう」


 私たちはサイモンの隊長室から少し離れた、外部行動員層の一室に向かった。

 この部屋は反省部屋と呼ばれる部屋で、外から鍵が掛けられる部屋だ。

 このシェルターに連れてきてから捕虜の少女は未だに目を覚ましていない。


 だが、鍵を開けたと同時に捕虜に攻撃される可能性はなきにしもあらずだ。

 ジャック少尉を先頭にして私たちは部屋の中に入った。


 部屋に入ると覇気のない顔をした少女が、ベッドの上に座っていた。

 だがそれもまた様になっていて、不思議な魅力を感じる少女だった。


「目を覚ましましたか?」

 私が少女に声を掛けると、

「あ? あぁ」

 少女は不機嫌そうに低い声で答えた。


「頭が痛い。ここ、どこ?」

 手短に少女は場所を尋ねている。

「第三十七番シェルターの一室です」

 私の問いに少女は目蓋まぶたをしばたたかせた。


「第六十七番シェルターにいたと思ったんだけどいつの間にか敵対シェルターか。ワープでもしたわけ?」

 第六十七番シェルターで弱っていたときにはしおらしい態度を取っていたように見えたが、覇気の無いこちらの方が本性だったのだろうか。


「あなたが向こうのシェルターで衰弱していたのを助けたんです」

「へえ、助かるわぁ」

 少女は薄く笑って、低い声で話している。

 勇気隊長の薬を探しに第六十七番シェルターまで行って、救出した少女がここまでテンションが低い子だとは思わなかった。


「俺は、サイモンだ。よろしくな」

 サイモンは手を差し出して握手を求めているようだ。

「ああ、どうもどうも」

 少女はテンションこそ低いが、気怠そうな態度から一転して、笑顔で難なくサイモンと握手をした。

 捕虜という立場に怯えず、社交性を持ってサイモンに接している。


「んで、名前は?」

 サイモンは椅子に座り、少女と目線を合わせて話しかけていた。

 少女は私とサイモンに囲まれて、心底居心地が悪そうだった。


「私は竹ノ原銀理恵たけのはらぎんりえ。銀ちゃんって呼ばれてる」

「そうか。銀ちゃんか。」

 サイモンはそれ以上何も言わずに椅子に座っている。


 サイモンの口が、

「やべえ、何を話そう」

 と動いたのを見て私は大変不安に思った。


「これから私に何するんだ? 尋問とか?」

 銀理恵ちゃんの質問に大きく顔をゆがめたのはサイモンだった。


「あぁ?」

 サイモンが何を言ってるんだと言わんばかりに語尾を上げている。


「だって、ここは第三十七番シェルターっしょ? 私はあんたらの敵じゃん」

 銀理恵ちゃんは私たちを疑っているようで、睨み加減で私たちを見渡している。

「殺さねえし、尋問もしねえよ。殺すつもりならハナから連れてこない。山田の奴もギョクも連絡が付かなくなった。だから連れてきた」

 サイモンが話の流れを掴んでいるようで、正直に話している。

 最初は不安だったが、サイモンならうまく話し合えそうだ。


「山田隊長とギョク様に会ったのか?」

「ああ、会ったさ。山田隊長はあんまり信頼されて無さそうに見えたな。どちらかと言うとギョクの方が信頼されているように見えた」

「……」

 銀理恵は情報を整理しているようで、目をつむって考え始めた。


「山田隊長たちに会ったこと、信じるよ。だけど私を助けて何の意味があるわけ?」

 銀理恵の質問にサイモンは口を閉ざした。

 サイモンの沈黙が続けば続くほど、銀理恵ちゃんの額の皺が深くなっていく。

 さすがに見ていられなくなり、私は助け船を出すことにした。


「このシェルターの有色人種たちはシェルター間のいざこざについては詳しくないです。だからサイモンさんはあなたを助けました」

 サイモンは私のフォローに少し驚いているようだ。

 私だって状況を判断して適切な発言をすることだって出来る。

 ふっふっふ。サイモンよ、少しは私を信頼したかな?


 一方、銀理恵ちゃんは表情を硬くしたままだ。恐らくまだ私たちを信頼していないのだろう。

 追撃が必要だ。


「それに最近サイモンさんは近しい人たちを相次いで亡くしたり、不幸に襲われているので、病んでます。見ず知らずのあなたにでさえ死なれるのも悲しくなって助けたのですよ」

「ジェシカお前っ、頼んでもいないことをべらべら喋るんじゃねえ! 恥ずかしいだろうが!」

サイモンは目をかっぴらいて、怒っている。


 ちょっぴり余計だったかと反省しながら、私はごめんなさいと笑って誤魔化した。


「恥ずかしがることじゃないさ」

 銀理恵ちゃんは優しそうな顔をしてサイモンに語りかけている。


「……そうか?」

 サイモンは私から視線を逸らし、銀理恵ちゃんと向かい合った。

 そうだサイモン。私より捕虜の銀理恵ちゃんを見なさい。


「私も他のシェルターの人には言えないようなことをしてきた。だから、生きることは恥なんだなって……最近分かったんだ」

 サムライのような悟りを開いた銀理恵ちゃんに私は何も言えなかった。

 テンションが低いのではなく、外界にあまり興味を示さなくなってるのかもしれない。

 同情してしまうが、銀理恵ちゃんはそれを望むのだろうか。


「仕方ねえさ。人の肉を食っちまうくらい酷かったんだろ?」

 サイモンがそう言うと銀理恵ちゃんの覇気のない顔が急にこわばった。

 生きる気力の無いような顔がみるみる青ざめていき、唇がビクビク動き始めている。


「そ、そそ……それだけは……そ、し、知られたくなかった。誰にも言わないでくれ。お願いします」

 さめざめと泣き始める銀理恵ちゃんにサイモンは動揺するだけだ。

 銀理恵ちゃんはクールな人だと思ったが、サイモンに急所を突かれたようだ。

 早くも銀理恵ちゃんのキャラが崩壊している。


「サイモンさん、頼んでもいないことをべらべら喋っちゃダメですよ。恥ずかしいですから」

「うるせえジェシカ! それさっき俺が言ったセリフだろ。当て付けかよ悪かったな!」

 バツが悪そうにサイモンは立ち上がり、貧乏揺すりをし始めた。


「銀理恵。ひとまず、お前は生かす。一応捕虜として扱ってるから部屋からは出せない。ここは反省部屋といって、使ってないかつての隊長室だ。お偉いさんが使っていたとこだからシャワーもトイレも付いてる。本が欲しければ持ってくるからここでしばらく過ごしてくれ。さっき言ったとおり、俺たち有色人種と白人たちでは他のシェルターの住人に対して捉え方が違う。この階層には白人はほぼいないが、とっ捕まると面倒だから、他の階層に行くなよ。よろしく頼むぞ」

「……分かった。でもジェシカはどみても白人だろ? とっ捕まえに来たのか」

 銀理恵ちゃんは涙を拭いて、返事をした。

 上目遣いで、若干怯えているようにも見える。是非とも押し倒したい。


「こいつは物好きだ。有色人種とも仲良く出来るとても良い物好きだ」

 サイモンは私をそのように評価してくれた。

 物好きという言い方は引っかかるけど、彼の言葉に悪い意味は無いのかも知れない。

 こうやって私に付いて来てくれる以上、嫌っていると言うことはないだろう。


「そう。分かった」

 銀理恵ちゃんは納得したようだが、まだグスグスと鼻を鳴らしている。

 よほど精神的に効いたのだろう。可哀想に。


「ひとまず今日は部屋を出るわ。行きましょう。サイモンさん」

 私たちは部屋を出て、鍵を掛けた。


「なんだかこの部屋に閉じ込めておくのは可哀想な気もしてきたな」

 サイモンが申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 気持ちは分かる。


 現在、第六十七番シェルターから高エネルギー反応が見られたという情報は確認できていない。

 すなわち爆発はしなかった。

 爆発がブラフだったのか、それともギョクたちが止めたのかは分からない。

 銀理恵ちゃんを怪物のうごめくシェルターに放置して、生存できたかというと大きな疑問が残る。


「気分が晴れませんね」

 私はサイモンに率直な感想を述べた。

 間違ったことはしていないけど、正しいことではない。

 この感情はサイモンも理解してくれるだろうか。


「しゃあねえな。本人も死ぬよりはマシだろ」

 私は頷いてサイモンを肯定した。


「ひとまず、私は奴隷ちゃんと一緒に勇気隊長のおむつを見てきます」

 薬が勇気隊長に投薬されているのはうれしいことだが、勇気隊長が一人で動けるようになるにはまだ時間がかかる。

 一体完治までどれほどの時間が必要なのだろうか。


「おう、腰に気をつけてな。俺はルルルカと外部行動をしてくる。チーム・ラグナロクから声が掛かって行くことになった」

「行ってらっしゃいサイモンさん。お気を付けて」


 私たちはそこで別れて、別行動を開始した。

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