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私、酸素拾います!  作者: メケ
樟木勇気の章・その1
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第二話 奴隷ちゃんの提案

「ジェシカ」

「はい」

「申し訳ないんだが、奴隷ちゃんと結婚する約束をしてたんだ。俺がこうなる前から二人で約束してたんだ」

 俺はジェシカを諦めさせるべく、俺と奴隷ちゃんの関係を説明した。

 きっとジェシカも身を引いてくれるだろう。


「え? まだ十一歳……」

「そうだ。三年後をめどに結婚する予定だ」

「そ、そんな……私、頑張ったのに……」

 ジェシカは膝を折り、崩れ落ちた。


 もしかしたらジェシカは俺の気を引こうと外部遠征を行ったのかもしれない。

 気を引くにしては大きな戦果すぎる。


 そもそも奴隷ちゃんが結婚相手だと気づいていたら、ジェシカは俺や奴隷ちゃんを助けただろうか。

 分からない。ただ、ジェシカは奴隷ちゃんを連れて帰ってきた。

 そんなジェシカを俺は振るのだ。

 最低だろうか。


 だが、俺には奴隷ちゃんがいる。俺にとってかけがえのない存在だ。

 俺は横にいる奴隷ちゃんに目を向けた。


 奴隷ちゃんは泣き崩れたジェシカを見つめながら、ぼそぼそ呟いている。

「あ……」

 俺は久しぶりに見た奴隷ちゃんの行動に、思わず声を上げてしまった。


 他の人間が見たら呪詛じゅそを唱えているように見えるかもしれないが、これは違う。

 これは、俺が奴隷ちゃんにお菓子を買ってあげる際に、見られる行動だ。


 売店でご褒美としてお菓子を買うことがある。すると奴隷ちゃんは、俺が設定した予算ちょうどになるように、徹底的に計算をしていく。

 もちろん俺の視線とかは気にしない。

 そのときに見られる行動が今の行動だ。


 今、奴隷ちゃんはジェシカを勘定しているのだ。

 恐るべきはその勘定の正確性だ。

 奴隷ちゃんは自分の利益になりそうな事は決して逃さない。


 いやしいとののしる人が居るかもしれないが、奴隷階級の人間は最下級の存在だ。親が子供をたくさん産むが、栄養不足や病気でどんどん死んでいくので、生存能力が高くないと生き延びていけないのが現状だ。

 奴隷ちゃんのこの行動も生きるためのすべとして彼女の生き方に深く関わっているのだろう。


「隊長さん。ジェシカお姉ちゃんが可哀想だよ」

 突如、奴隷ちゃんが口を開いた。


「え……まあ、そうだな」

 値踏み、足踏み、損得勘定を行った奴隷ちゃんが可哀想という言葉を言うのに驚いた。

 よく言えば威風堂々、悪く言えば面の皮の厚さに俺は再度惚れ直してしまった。


「ジェシカお姉ちゃんは隊長さんのために、尽くしてくれたんだよ」

「うん、そうだね」

「ジェシカお姉ちゃんの事好き?」

「好きだよ、ただしそれは……」

「好きなんだよね」

 奴隷ちゃんは俺に反撃の隙を与えなかった。


「まあな。ここまでしてくれて嫌いだと言う恩知らずでも薄情者でもない」

「じゃあ、ジェシカお姉ちゃんとも結婚できるよね」

「ジェシカお姉ちゃんとも?」

「うん」

 奴隷ちゃんは、泣き崩れるジェシカのそばに歩み寄った。


「ねえねえ、ジェシカお姉ちゃん」

「何よ、奴隷ちゃん」

 ジェシカは顔を上げ、泣き腫らした顔で、恨めしそうに奴隷ちゃんを睨んでいる。


「ジェシカお姉ちゃん、良かったら隊長さんを半分こしない?」

「物理的に?」

「そうじゃなくて。私ね、ジェシカお姉ちゃんの事も隊長さんの事も好きなの。ジェシカお姉ちゃんが隊長さんと結婚したいって気持ちも分かるし、分かってたんだ。私も隊長さんの事が大好きだから。私一人で結婚すると、ジェシカお姉ちゃんが結婚できないの。だから三人で結婚しよう」

「「さ、三人で?」」

 俺とジェシカの声がハモった。

 ジェシカは驚いて俺と奴隷ちゃんの顔を交互に見ている。


「ジェシカお姉ちゃん、私は半分譲ったよ。お姉ちゃんはどうするの?」

 奴隷ちゃんはまっすぐジェシカを見つめていた。

 ジェシカは判断に困っているのか、ううう、と唸る声を上げている。


 奴隷ちゃんは譲歩したつもりだろうが、ジェシカの心境は複雑に違いない。

 少将の娘であり、大佐補佐であるジェシカがこの条件に首を縦に振ることは無いだろう。


「ちょっと考えさせて」

 ジェシカが、奴隷ちゃんにそう答えた。

 ジェシカに考える余地はないだろうと思ったが、ジェシカは考える時間を要求するという選択をしたようだ。

 一体どうなるのだろうか。


「三日後に返事するわ。だから奴隷ちゃん。時間をちょうだい」

「いいよ、待ってるからね」

 ジェシカは奴隷ちゃんに頷いて、踵を返して部屋を出て行った。


 奴隷ちゃんはジェシカの背中を見届けても、凜然と佇んでいた。

 いつものあどけなさとは違う、キリッとした表情の奴隷ちゃんに俺は問いかけた。


「ちなみに俺の選択肢や、考える時間はないのか」

「三人じゃ迷惑?」

「いや、そんな事はない。ただ、奴隷ちゃんは本当にそれでいいのかって思ったんだ。俺は奴隷ちゃんとこれからも一緒に居たい。最初はどうなるか分からなかったけど、でも今まで上手くやってき……」


 ああ、そうか。

 俺は今の状況をやっと理解した。


 俺は死にかけた。

 もし俺が死んだら奴隷ちゃんは一人だ。仮に子供が生まれたとしても、白人たちの気分次第で、子供もろとも奴隷層に戻される可能性がある。

 そこは穏健派の白人たちがかばうかもしれない。


 だが、穏健派の急先鋒であるジェシカとここで争って、果たしてその庇護ひごを受けられるかはかなりの疑問符が残る。これがおそらく奴隷ちゃんの出した彼女なりの答えなのだろう。

 もちろん俺としても、俺がいなくなったとしても奴隷ちゃんが暮らしていけるのならそれでいい。ジェシカと上手くいけば、チーム・アポカリプスも復活できるだろう。


 そうすればサイモンもきっと喜ぶ。サイモンはメンタルの弱さを見ると、隊長としては不適格だろう。本人も自覚しているはずだ。

 後はジェシカが納得できれば、すべてが丸く収まる。

 いや、その言い方は最低だ。


 すべてが大団円だ。


 これが正しい。

 俺自身ジェシカが嫌いなわけじゃないからな。

 おっちょこちょいなところはあるが,優しいところは十分に感じている。たまに変な発言が見られるがそれも愛嬌あいきょうだ。きっとそうだ、そうに違いない。


「俺の体を物理的に半分にする」とか言ってたけど、たぶんウケ狙いだ。もしくは天然っぽく見せてるだけだ。だってそうじゃないと、そうじゃないと……


「こ、これからは間違って人を殺してしまったら部屋のポスターにカウントするので許してください」

 ふと、ジェシカ入隊時に参謀を呆然とさせた言葉がよみがえってきた。


「うううううう」

 ジェシカは本気だ。ジェシカは本気でおかしい。

 結婚して大丈夫なのか? なんか不安になってきた。結婚したくねえ。奴隷ちゃんとの結婚もやめた方がいいんじゃないか。これがマリッジブルーなのか?


「隊長さん、不安?」

 奴隷ちゃんが、俺の横で微笑んでいる。

 しかしその笑みはどこか儚く、自信が無さそうな、悲しそうな微笑みだった。


「そんな顔するなよ。嫌ならジェシカに譲歩しなきゃ良かったんだ」

「私はジェシカお姉ちゃんと一緒に居ても構わないよ。ただ、隊長さんのことも考えてなかった。男の人はたくさんの女の子に囲まれると幸せだってお母ちゃんが言ってたけど、隊長さんは違うの?」

 奴隷ちゃんは小首をかしげていた。


 この子はまったく……


「お母さんから悪い事を教わったな。だけど、大方おおかたあってる。ほぼ事実だ。だけど男にも選ぶ権利がある。それは忘れないでくれ」

「うん、分かった。でもジェシカお姉ちゃんおっぱい大きいよ」

「!」

「前ね、見たもん。ああ見えてね、すんごい大きかったよ! 胸にね包帯巻いてね、小さく見せてるの」

「……」


 世の中の争いは二つの要因のうちどちらかによって起こる。

 一つは相手に対する理解不足による争い。

 そしてもう一つは相手を理解した上での排除行動だ。


「ふむ」

「この前ね、触ったらね、すっごく柔らかかったんだよ。だからね、ジェシカお姉ちゃんとも結婚しよう? きっと楽しいよ。ね、ね、ね?」

 少なからず、奴隷ちゃんにも浮気心はあるようだ。

 奴隷ちゃんは親に物ををねだるように必死に俺に語りかけてくる。奴隷ちゃんがジェシカの事が好きなのは嘘じゃない。

 打算的な部分が無いわけではないだろうが、それでも奴隷ちゃんはジェシカの事を気に入っているようだった。


 俺はジェシカと奴隷ちゃんを少し理解したので争いと抵抗をやめた。

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