快感
大会が1週間前に迫った日。
部の雰囲気は硬直していた。
練習試合は全敗。明らかなチームのブランクだった。
「山田先輩が意外と勝利の女神だったんじゃね?」
「まじでそれだわ」
と後輩が話してるのが早瀬には聞こえる気がした。
早瀬は日に日にやる気が無くなるチームを見て危機感を感じていた。
気持ち悪い汗を毎日かいていた。
「ああ。山田がいたらなー」
早瀬はびっくりして隣を見た。
そこには相田が冷笑しながらいた。
「わかってますよ。僕は。このチームの最悪の状況の理由。最も一番分かってるのは早瀬さんだと思いますけどね」
早瀬の胸に一本の細い針が刺さった。
「は?なんで?」
明らかに動揺した声を出した早瀬。
負けを実感した。
「この部をまとめてたのって山田先輩ですよね?」
「あいつは副キャプテンだからな」
「違うでしょ。副キャプテンの声を自分を経由させて部に広げてたのはわかってます。他のアホな後輩がわかっていたのかはわかりませんが」
早瀬は鼻に手を添えながら話した。
「副キャプテンが俺に言ったことことをキャプテンがみんなに伝えていた。これのなにが問題なんだよ」
「山田先輩言ってましたよ。自分が嫌われもの役を買わせられたって。都合のいいことだけキャプテンが言って、後輩への注意とかは言わさせられたって。山田先輩頭いいし、バレーの知識も凄いあるからあえて自分がベンチに下がって監督をしていたんでしょ。早瀬先輩は山田先輩を利用してたんですよね?」
早瀬は黙った。
1年前の新人戦。チームが劣勢の中、早瀬の一言で逆転していった。
「7番はスパイクをクロスにしか打てない。ストレートをあげてクロスを閉めていこう」
しかしこの言葉は山田が早瀬に伝えたものだった。
それを早瀬はチームメイトに自分の言葉としてみんなに伝えたのだった。
山田を利用していた。
ずっと利用していた。
それが山田にとってストレスだったのはわかっていた。けれど自分にチームを冷静に見る目もなく、バレーの知識もない。そんな自分がキャプテンと煽てられる快感に、山田を利用する罪悪感は負けたのだ。
早瀬は相田に言った。
「謝ってくる」