理由
「山田が休み!?」
成川の声が体育館に響いた。まだ体育館には二人しかいない。
副キャプテン山田が休んだことは一度無かった。
「大会一ヶ月前にあいつ風邪でもひいたか?ひいたこと見たことないけど」成川がズボンに手をツッコミながら唇を尖らせている。
「さっきニコから聞いた。詳しくは聞いてねぇよ。ニコもわからんって言ってたよ。」
キャプテン早瀬は静かに言った。
「まあニコにとっちゃどうでもいいんだろうな。てかあいつに最後に会ったのいつだっけ。」
「バレー知らんし部活に興味ねぇんだろ。」
ニコは顧問の川端先生のことだ。タバコばっか吸ってるじいちゃん先生で、タバコ→ニコチン→ニコだ。
「こんちゃーす」
1.2年生が体育館に入ってきた。
「あれ、山田先輩はいないんすか?」
「休み」
そう答えた早瀬には1.2年生がにぃーっと笑ったように見えた。
1.2年は隠しきれない笑顔を見せぬように倉庫に駆けていった。
ネットをたてる1.2年生。それを見ながら必要に見えないテーピングを指に巻く成川。その横で入念にストレッチをする山田。がいない。いつもの風景と少し違う部活。完璧主義者の早瀬には気持ち悪く感じた。
「集合!お願いします!」
早瀬の号令で体育館に挨拶をしてからいつも通り部活は始まった。
1.2年生はニタニタしながらランニングしている。
早瀬には理由がわかっていた。
この1.2年生の笑顔は1週間継続していた。
そして山田の休みも1週間継続していた。
早瀬には落ち着かない1週間であった。