第30話 異常な魔人との対峙
「ガアアアアアアアアアア!」
化物の口に流されていく人の部品。
ただただ嫌悪するしかない状況が続いていく。
「こんなっ!」
「ッ!? やめなさい!」
飛び出して行こうとしたシスリーを慌ててトゥトゥラが止めた。
「離してください!」
「離さないわよ! 行って何をするっての!」
「そんなの寿々花さんを助けるに決まってます! あんなの見てられません!」
「どうやって助けるの! 私達なんかじゃ、魔人に触れもしないわよ!」
寿々花の言っている事に偽りは無い。シスリー達では、あのマフラーに触れただけでも苦悶で顔を歪める前に蒸発してしまうだろう。
圧倒的な魔人に対してシスリー達ができる事など、見る事だけだ。それが以外は全て自殺と同じになる。
そう、目の前で何が起こっていたとしても。
「……くッ」
だが、それでもシスリーは寿々花の元へ行こうとするが、トゥトゥラはその手を離さない。シスリーが完全に諦めるまで離す気はないのだろう。無意味な行動は絶対にさせないつもりのようだった。
「魔人に勝つ事なんて…………不可能……」
シスリーの脳内でその言葉が繰り返される。
寿々花はたしかにそういっていた。魔人に勝つ事など不可能なのだと。
その事は今のシスリーなら言葉や感覚だけでなく、実感としてわかる。
あんな途轍もないモノをどうにかできる者など何処にもいないだろう。
もし、そんなヤツがいるとするなら、全ての世界はとっくにソイツの手中に落ちてるか、滅びているはずだからだ。
あんなモノに勝てる者など何処にもいない。
それはつまり、あの途轍もない力を持った魔人が世界を滅ぼす事を意味する――――――――のだが。
「…………おかしいです」
魔人に喰われ続け、今にも絶命しそうな寿々花の表情が。
「なぜそんな顔が……できてるんですか?」
最も現状がわかっている寿々花の表情が――――――――全く死んでないのだ。
取り返しのつかない事が起こっているはずなのに。それを最も理解している者なのに、一切狼狽していないのである。
むしろ、寿々花はシスリー達に“期待するような”目をしており。
「今……笑った?」
頼んだ、と。
シスリー達に何も言う事は無くとも、その視線はたしかにそう訴えていた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
横たわる寿々花の頭を踏みつけ魔人は咆哮を上げる。
頭を潰されて生きている人間などいない。今、寿々花は魔人に殺された。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
寿々花だけでは足りなかったのか、それともただ飽きてしまっただけなのか。
魔人が繰り返す咆哮は何処にも人間性の無い、ただ力を誇示するためだけの獣の叫びだった。
「…………うーん、やっぱりねー」
踏み潰され完全に死んだ寿々花。そこには、食い散らかされた死体(寿々花)があるだけ――――――――本来はそのはずなのだが。
「まあ、そうじゃないかと思ってたけどー」
それはレナの思った通りだった。
魔人が踏みつけた、その寿々花の死体が一瞬淡く輝くと、その死体が薄らいでいったのだ。
その淡く消え行く輝きはレナの知る限り結集力で間違いない。
「ど、どういう事よアレ?」
「精巧に作られた偽物…………って、事なんだろうねー」
命尽きたら消える死体など、どの世界でもありはしない。
つまり、死んだのは寿々花本人ではなかったのだ。
「ふーむー」
あの寿々花は高位の結集力の使い手でも出すのは難しい限りなく近い自分だ。冥府界でも使い手が極少数しかいない、奥義とも言うべきモノだが、寿々花はそれが扱える使い手だったと言う事だろう。
だが、レナにはそんな事よりも気になる事があった。
「でも、一体何のためにこんな事したのかなー?」
そう、気になるのはそこだった。
一体何のために寿々花は“あんな事をした”のだろう。
自身の偽者が死ぬ事に、どんな意味があったのだろうか。
あの分身をレナ本人だと思わせたかったのだろうか。しかし、そうだとするならあまりにお粗末すぎる。魔人と戦った事ですぐに偽者とバレたのだから。
なら、警告の意味を込めて魔人の強さをシスリー達に命をかけて教えたとでも言うのだろうか。しかし、そんなバカな事をするワケがない。
かといって、寿々花が無意味な事をしたとも思えず、理由を考えてしまうが――――――――
「そこを気にする前にまずやる事があるわよ」
しかし、トゥトゥラの言う通りレナも含め全員、寿々花の不自然さについて考える暇は無い。
寿々花の偽者を殺した魔人の興味が――――――――――今、この場の四人に向けられた。
最強の魔界力
究極の覚醒力
無限の結集力
絶対の属性力
その恐るべき力を持つ魔人に逆らう術は四人に無い。
偽物とはいえ、魔人にあれだけ攻撃できた寿々花でも勝てなかったのだ。ただ、殺されるのを待つばかりであり、できる事と言えば殺される順番が最後になるよう祈るくらいだ。
「…………あれ? そういえばあの魔人……さっきからおかしくありませんか?」
なのに、シスリーから出た言葉は絶望とはほど遠い疑問だった。
「おかしいって何がよ? この最悪な状況が覆るような、凄まじく素晴らしい事に気がついたって期待したいけど……」
幸いまだ魔人は興味は持てど、こちらを襲う様子は無い。その場を彷徨いているだけだ。
何か手があるのなら今のうちと、トゥトゥラは諦観と期待を半分づつ込めてトゥトゥラに聞いた。
「やっぱりおかしいです! 間違いありません!」
「だから何がおかしいのッ!? さっさと言いなさいよッ!」
もったいぶるその様子に思わずトゥトゥラは突っかかってしまう。




