出発
「チュンチュンッ」
…どうやら眠りにつけていたようだ。窓からは日光が差していた。昨日の大雨と打って変わって雲一つない快晴だった。布団にくるまっていたため、汗をかきベタベタになっていた。でも、冷や汗だったのだろうかと昨日の事を思い出してはそう思う。ふと、時計に目をやると集合時間十五分前、シャワーを浴びている余裕はない。机に置いてあったシトラスの香りの制汗剤シートで全身を拭った。遠足は私服で良く、そそくさと着替え必要なものを全てリュックに詰め腕時計を付けて早急用食ゼリーを手に、家を出た。学校へ向かう彼の背中を屋根の上から黒い影が見送っていた…それはすぐに消えた。
走って校門に向かうと既に皆整列していた。その中で、
「戒璃ぃ〜!!!早くしろォー!!!」
この声は燐華だ…怒ってるなこれ。結構遠い距離だと思うけれど耳が痛くなってきた。燐華の苛立ちが目に見えている。
「よーし、これで全員かー?」
生徒指導の加味先生が確認をとる。
「はい!全員います!」
学年代表がそう伝える。全員いる事を確認した先生が遠足の説明をし始めた。先生によると電車で行き、向こうに着いたら自由行動らしい。
「戒璃くん…どうしたの?顔色悪いよ、大丈夫?」
昨日の件で疲れていた僕の顔を実夢が心配そうに覗き込んでいた。
「あ、うん!大丈夫だよ。ありがとう実夢」
心配かけさせまいと微笑みながら答える。と、肩に痛みが走った。ジャストミートで肩パンを入れられる。痛くて摩った。
「戒璃!寝坊か?それとも夜更かしか?」
燐華だ。じーっと僕の顔を覗き込んで頬を膨らませている。燐華が求めている答えはだいたい分かる。謝らせたいのだろう。燐華はSっ気が強い。
僕達は、電車に揺られながら町を目指した。電車の中は意外にも静かだ。土曜日とあってか、家族連れやご老人夫妻などが多い、あまり騒ぐなと先生に言われた為かもしれないな。
『フフッ…』
「え?実夢、笑った?」
って、実夢は寝てるんだった。
「燐華…笑ったよね?」
「何をいきなり言い出すんだよ!夢でも見たんじゃないのか?」
「いや……何でもない…」
実夢が寝ていて笑ったなら、こもった声で下の方から聞こえるはずだ…なおかつ座っている。身長の関係でそう聞こえると思うんだ。なのに、耳元でやや後ろから聞こえたが…ただ僕が聞き間違えたか、空耳を聞いたんだなと変に納得してしまった。なんて考えている内にまた聞こえた。
『フフフッ…』
窓の外を見た。やけに長いトンネルの中だ、当然ながらに朝っぱらでも暗闇である。




