願いの術式
ピンポーンと玄関の鈴を鳴らす。すると男の子がタッタッタと廊下を走る音がして扉が開いた。
「パパ!おかえり!......あれ~?お兄ちゃんだれ?」
小学2年生くらいの男の子が扉を開いたままぼーっとしていると、
「ゆうくん?どうしたの...え?......きみは誰?」
どうやら男性の奥さんのようだ、僕を怪しそうに見てくる。それはそうだこんな夜に知らない奴が来るんだから、怪しまれつつも僕は言った。
「あなたの旦那さんの付き添いです。山田さん、さあ来てください。」
涙ぐむ男性を奥さんと子供に任せる。僕らは姿を消すことで家に入り男性を見守った。
「あなた!おかえりなさい...泣いてるの?」
「いや、なんでもないよ...さ、パーティーをしよう!」
彼のプレゼントやケーキを復元しておいてよかった。さっきまで泣いていた男性はにこにこと微笑みながら準備をしている。リビングには壁から壁への国旗が吊るされていたり、豪華な料理が並べられ男性は息子に変形するロボットを、妻には腕時計をプレゼントしていた。家族和気あいあいとパーティーを楽み男性が買ってきた豪華なケーキを囲んでは電気を消して息子の祝いの歌を歌う。そして、すべての項目が終わった。
「そういえばさっきの男の子って誰?突然いなくなっていたし...」
「......」
男性はうつむいたままスッと立ち上がり話を始める。
「二人とも、ごめんな...うぅ...ゆう、佐奈。お父さん事故しちゃったんだ...死んじゃったんだ。」
「え?...なに、なにをいってるの...?」
「パパ...?」
「これが最後のパーティー...うぅ悔しいなぁ...」
すべての気持ちを伝えきった男性はその場で泣き崩れ、大泣きをする。僕はフッと奥さんと子供の前に現れた。
「こんばんは、お騒がせしました。僕は彼の願いを叶えるためにここへ来ました。」
「.......け、警察!警察呼ばなきゃ!...第一、お父さんはここにいるじゃない!なんて不謹慎なことを言うの!?ゆうくん離れて......!」
「やだ、パパから離れたくない。パパと遊びたい、パパともっとお話ししたい。」
「ゆう...」
「あなた、ほんとうなのね...」
奥さんは警察に通報するのをやめ、男性の願いを聞いた。すると、奥さんも泣き崩れ願いを言う。ずっとそばにいてほしいと、僕はベリアルに頼んでみた。
《チッ...おい人間オレ様に両手をかざせ、お前の強い願いとどうしたいかというイメージをしろ。はやくしろ!》
男性は手をかざすとベリアルがその両手に片手でその周りをぐるぐると何かを唱えながらする。
《陰命転生快冥犠景遺子回生(インメイテンセイカイセイギケイイシカイセイ).......唱破!》
すると男性は光輝いただけで何も起こらなかった。
《本来ならば、あの世へ連れていかれるがお前はこの場に残る権利が与えられた。お前の妻子には触れたり、話すことはできるがその他には存在すら見受けられない。それでもいいと覚悟したお前の願いだ。》
さすがだなとそれを見ていた。ああそうだと思い出して男性と奥さんに金色のペンダントを渡した。これはミカエルからもらった緊急用護符だ。護符といっても札ではなく強い力が込められたものである。
「何かあったときはこれを空にかざしてください。山田さん、あなたの願いは叶いました。これでサヨナラです。どうか神のご加護があらんことを...」
僕とベリアルはその場を後にした。