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どうしても友達が欲しい

チョコムース

作者: なっこ




俺の弟は、幼馴染の可愛い女の子が大好きすぎて、彼女を学校で羽虫や有毒物質から遠ざけるために、擬態という技を覚えた。








俺たち4人が出会ったのは本当に生まれる前から。母さんと父さんは結婚してすぐに今の家を買ったそうだ。元々隣に住んでいたらしい幼馴染の両親たちと、たまたま同級生だったことからすぐに仲良くなり、たまたま同時期に妊娠・出産(ただし二度目は計算)したことから家族ぐるみの付き合いは暗黙の了解のうちになされていた。よって文字通り、生まれる前からの付き合いなのである。





そして俺と幼馴染が生まれて3年後、両親の間にもう一人生命が芽生えた。その知らせを聞いてしばらくすると、幼馴染の両親も赤ちゃんが出来たらしい。なんでも同級生にしたかったそうだ。親父さんすげえ。で、そんなこんなでうちの弟は元気に先に生まれた。そしてそのほとんど一年後、幼馴染の小さな妹は結構危うい状態で、それでもなんとか生まれたらしい。体は小さく、最初は一人での呼吸も困難だったそうだ。弟とギリギリ同級生だったが、そうは思えないほど小さく、か弱い女の子は、俺たちみんなの妹で、守るべきお姫様となった。俺の弟はまわりより成長が早かったらしく、余計に同い年のはずのそのちっちゃな女の子が儚く見えたものだ。










初めて俺たち4人の世界が少し広がったのは、幼稚園のとき。俺と親友は弟たちより3つ上だから、少し先にその世界の広がりを実感した。だが、そこで気づいてしまったのだ。俺たちの妹が可憐すぎることに。まわりの同級生の女の子たちに比べて、あまりにも可愛い。身びいきではないのだ。今思うと、俺たちの両親も、幼馴染の両親も顔の作りは整っているので当然とも言えるだろうが、その頃の俺たちにとっては衝撃だった。





そして幼稚園児とは乱暴で、粗雑だ。これはいけない。俺たちの宝が壊れてしまう。少し強く腕を引っ張っただけでポキンと折れてしまいそうに儚いのだ。こんな乱暴な世界に出してしまっては、きっとすぐに消えてしまう。人になりきれなかった人魚姫のように、砂になって。そう思うととんでもなく恐ろしくて、身震いが止まらなくなった。





怖くてどうしようもなくなったので隣の家に行って、寝ている赤ちゃんを眺めた。ただその子が居るだけで、空気が暖かくなって、こんなにも心穏やかになれる。不思議に思ってその柔らかいほっぺをツンと人差し指でついてみると、一瞬顔を顰めたあとふにゃ、と微笑んだ。そのあどけなくも可愛い笑みに、息を飲む。見惚れてぼーっとしていると、頰に触れたままだった指をきゅ、と握られたのだ。まだなにも掴めないような、小さな小さなその手で。






この子は守らなければならない存在だ。俺が、俺たちが守ってあげなきゃ。








両親に言われて可愛がっていただけの幼馴染の妹を、本当に守るべき存在だと認識したのはたぶんこのときが最初だ。












それから俺たちは、まさに3人一丸となって彼女を守ってきた。




そして俺たちが高校生ときの3ヶ月妹失踪事件をきっかけに、俺と親友はついに妹の兄貴の枠を超えた。少なくとも俺たち個人の精神的には。それ以降、俺たちは今までにも増して妹に張り付くようになった。毎日誰かしらが彼女のそばに居る。文字通り、すぐそばに。自分のことにも他人のことにも興味のない妹は、面倒臭い事をとにかく嫌がる。



しかし言い換えればつまり、面倒臭いことさえなければ、面倒臭いことを減らしてやれば、いつまででもそばで張り付いて居られるということに気づいたのだ。そこからはすごかった。俺も親友も俺の弟も、なにせ生まれる前から一緒にいたのだ。彼女のしたいこと、したくないこと、言いたいこと、欲しいもの。なんでも大抵は手に取るようにわかる。たまに生まれる気まぐれな興味には驚かされるけれど、それはそれで面白かった。





中学生の頃は、出席日数が十分だと分かると、妹は徐に休みだした。どちらの両親も結構な放任、というか、自分たちで責任を取れよ、という風潮があるため、卒業出来て、受かる高校があるならなんでもいいという姿勢でそれを受け入れた。俺と親友は義務教育ではないからそんなにたくさんは休めなかったのだが、幸いにも俺たちは3人だ。そうしてめでたく、俺たちは3人で、ローテーション制のお姫様の僕となったのだった。














さて、俺たちの可愛いお姫様は、家ではメガネを外して過ごす。なんでも耳当ての部分が擦れて痛いのだそうだ。彼女が痛いというのなら、可哀想だから本当はメガネを辞めさせてあげたい。だがこればかりは仕方ないのだ。これ以上の害虫駆除は、俺たち自身がお姫様と一緒に過ごす時間が減る可能性がある。それはなんとしてでも避けなければならない。



家ならば、必ずと言っていいほど誰かが側にいて、彼女の意思を完璧に理解し、そのフォローさえも完璧なので、何も見る必要がないのだ。だが先日、友達が欲しいのでメガネを外そうかと悩んでいた。その場は苺のショートケーキでどうにか治めたが、あれはきっと彼女の母親の入れ知恵だ。俺たちの両親たちは、俺たちが彼女に入れ込んでいる、というかむしろのめり込んでいるのが面白いらしい。ちょくちょく色々仕掛けて俺たちを錯乱させてくるから、厄介な人たちだ。まあだがそろそろ彼女の親父さんの海外長期出張の頃だろう。彼女のことは俺たちに任せて、早く出張でも旅行でも行ってくれ。



そう思っていることが天に届いたのか、親父さんの海外出張が始まった。いつも2年に1回ぐらいはある恒例行事で、この時期は俺の家にご飯を食べにくる。まあいつもどちらかの家でみんなでご飯を食べる習慣があるので、たいして代わり映えはしないが。だいたい2ヶ月弱ほどある親父さんの出張に、彼女のお母さんもいつも一緒に行く。



そしてその空いた彼女の家は、一時的に俺たちの城になる。この時期はどんなに予定がいっぱい詰まってようとなんだろうと、俺たちは彼女が学校が終わる頃にはもう家にいるのが当たり前だ。今日は親友が夕方までバイトらしい。家で彼女の帰りを今か今かと待ちわびているのは俺だけ。……まあ俺の弟はもちろん、一緒に帰ってくるのだが。







さて、リビングのソファで座って待っていると、彼女の足音が聞こえた。そのままドアが開かれ、学校という面倒臭いものに精神を削られたお姫様はそのままソファまできて、俺の膝の上にため息とともに頭から倒れこむ。そこで初めて、お?という目線で俺に気づき、だが同時に俺だと分かるとそのまま安心して身を委ね、目を閉じる。俺はこの瞬間がなによりも好きだ。



彼女の耳を痛める、そのメガネをそっと取ってやる。そして頭をゆっくりと撫でながら、皺になるのを防ぐためにブレザーに手をかける。ボタンをひとつずつ取って、その細い腕を手に取り、袖を引き抜く。頭の下に手を入れ、少し持ち上げる。その隙に下敷きになっている部分を引き抜いて、ちょうど2人分のカバンを持ってリビングに入ってきた弟に向かって投げる。いつもの流れだ。スカートのホックを取り、膝の裏に手を入れ、また少し持ち上げると、その隙にスカートも落とす。ソックスをそうっと脱がせてやる。落としたスカートはまた弟が拾って、ハンガーにかける。ソックスは洗濯カゴへ。弟がルームウェアを俺に向かって投げると、俺は今度はその白くて綺麗な脚を片足ずつ持ち上げて、ルームウェアのモコモコショーパンを履かせる。ちなみに彼女はその間ずっと目を閉じている。だが寝ているわけではなく、ただ学校に行くことによって凝り固まった頭を解しているのだ。じっくりとその美しい瞳を閉ざして。



ルームウェアを履かせ終わった合図として、その額にそっと唇を落とす。ついでその両瞼にも。鼻、頰、顎、そして残るは唇に。丁寧に、でも少し長めのキスを終え、唇を離すと、お姫様はいつの間にか目を開けていた。10センチもないほどの至近距離でその綺麗な瞳に見つめられると、体の底から熱くなって、もっと喰らい尽くしたくなる欲に駆られる。





一度果実を味わった獣は、更なる飢えに渇くものだ。もっともっとと、貪欲に蜜を欲する。






もう一度、吸い寄せられるようにその唇に近づけば、お姫様は俺の額にそっと掌を当て、少しだけ力を入れた。けれどこれは拒否じゃないと分かっているから、逆らわずに妹の望むままに顔を離す。俺の支えで体を起こした彼女は、徐にブラウスのボタンを全て外してその肌を晒す。白い肌が現れるが、それはなにも彼女からの甘いお誘いじゃない。キャミソールの上からパーカーを羽織って目線をリビングのドアに開けると、白い箱を持った彼女の兄貴が入ってくる。相変わらずお姫様は、おやつを持つ人間に対する嗅覚が鋭すぎる。リビングで箱を開けた兄貴は、その中に入っているカップを持ち上げて微笑む。途端、彼女の瞳が少し輝きを増した。






どうやら今日はチョコムースらしい。





暴走が…止まらない…。一応次回で最終話です…。

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