最恐彼氏。
今回も、思いつくままに勢いで書いてしまいました。
読みづらかったら、スミマセン・・・。
「オイ、お前! 見たんだろう?」
「え? 一体なんのことで・・・」
はて?
目の前にいるこの人物は何故、こんなに怖い顔して私を見ているの?
そしてなぜ私は、この部屋にこの人と二人っきりなの?
・・・・・・ということで、今の状況を一旦整理してみましょう!
時はさかのぼること、ほんの少し前。
昼休憩の真っ只中で、ちょうどお弁当を食べ終わった・・・そんなタイミングである。
私はなんと、校内放送にてお呼び出しを受けました。
この目の前にいる、生徒会長様に。
「確認したいことがあります。今すぐ生徒会室に来てください」
という、物腰柔らかな口調(=しかもイケボだった・・・)にすっかり騙され、のこのこやってきてしまった私。
まあこの人、見た目と噂だけなら、何も疑う必要性はなかったので・・・。
スラリとした長身で、思わずドキリと心臓が高鳴っちゃうほどに、整ったお顔立ち。
いかにも、いいとこのおぼちゃんだと言わんばかりの丁寧な口調に、優雅な身のこなし方。
いつどこで出会っても、紳士的な優しい笑みを絶やさないと、校内外の女性のみならず男性にまで大人気。
誰に対しても、態度を変えることなく平等に紳士的に接する姿は、まさしく生徒会長と呼ぶにぴったりの人材だ。
この人の怒った姿や不機嫌な顔など、見たことがないともっぱらの噂である。
加えて、成績は常にトップで運動神経も抜群で、家は何件もの会社を経営するお金持ちという、まるで少女漫画に出てくるテンプレ王子様キャラのような、人物なのだ。
なので、私はずっと勘違いをしていたのだ。
私が見たものは、なにかの間違いに違いない・・・と。
「“確認”って、なんのことだろう?」
普通の人であれば、思い当たることなど特に何もなく、素直に生徒会室へと直行し、まずはドアをノックした。
「失礼します。お呼び出しがあったので、来ました」
と、部屋の中にいるであろう、私を呼んだ相手に向かってドア越しにそう伝え、反応をおとなしく待つ。
「どうぞ。入ってください」
やわらかな口調でそう言われたのを確認し、一礼してからドアを開けて、部屋の中へ入った。
「失礼します。お呼び出しの件ですが・・・」
ドアを閉め、その前で一礼をして早速要件を口にしようとした、その時である。
「やあ。突然お呼びだてして、申し訳なかったね」
そう言いながら、真向かいの窓際に座っていた彼は、いつもどおりのニッコリ紳士的な笑顔を携えて、私に向かって一直線に歩み寄ってきた。
歩き方もとっても優雅で、まさに紳士! カッケーって思ったはず・・・なのですが・・・。
「???」
しかし。
なんでだろう?
この部屋、クーラーの効きすぎ?
っていうかもうすぐ10月なんですけど?
クーラー必要な気温だとは、思えないんですけど?
もしかして生徒会長様、極度の暑がりさんですか?
私、寒気がします。
背筋をツツーーーッて、氷が背筋を一直線に這い上がっていく感じ? といいますか・・・・。
これって武者震い? なんでやねん!
って、ツッコミいれたくなるほどに、体がブルリと震えましたけど?
「!!!」
あ・・・アレ~?
どうしてかな~?
確かに素敵な笑顔でいらっしゃいますが、なんで目が・・・笑ってないの?
ていうか、うっすら寒い目つき・・・だけじゃないじゃない!
口元も何やらうっすら笑みを浮かべている・・・っていうか全然笑ってないわ! この人!
といいますか・・・・・この顔もしかして怒ってる?
「え、えっと・・・もしかして私、勘違いを・・・」
同姓同名の、違う女性のお呼び出しでしたか?
そうですよね!
わたしくしめのような、目立たないごく普通の女子高生、あなた様のような超有名人が呼び出すはずもないですよね?
第一私、何も目立つような、ましてや生徒会室に呼び出されるようなことなんて、なに一つ心当たりのない品行方正なはずの、一般庶民ですよ~?
・・・ということで、後ろ手に背後のドアノブに手をのばした。
・・・・・・その時である。
“ガチャリ!”
「え? “ガチャ”???」
なんでだろう?
鍵のかかる音が、はっきりと聞こえましたが・・・。
そして。
「あの~、近いんですけど・・・」
なぜか私のすぐ目の前には、とってもお綺麗なお顔立ちが、立ちはだかっている。
スラリとした鼻筋に、ニキビはもちろんのこと、しみひとつない綺麗な白い肌。
男性なはずなのに、そんなに唇潤っているの、反則じゃないですか?
そんでもって、心を見透かすようなどこまでも澄みきった、おっきくて綺麗な黒い瞳。
こんな、芸術品とでもいいたくなるお綺麗な顔がドアップって、マジで心臓に悪いんですけど?
だって・・・。
綺麗な顔立ちした人の怒った顔って、マジ、怖いんですけど・・・。
思わず膝がガクブルしていて、ちびっちゃいそうです!
・・・正直、ホラー映画の方がまだマシってくらい怖いです!
「だって、君が僕から逃げようとするから・・・」
そのいかにもな作り笑顔、マジやめてください!
優しく言っているつもりかもしれませんが、口調にドス効かせているように聞こえるのは、私の思い違いですか?
「逃げるなんて、めっそうもございません! ただ、わたくしめごときの勘違いに・・・」
「勘違いではありませんよ? ボクは君を呼んだんですよ? 藤原 彰子さん」
「え?」
「どうしても、確認したいことがありまして・・・」
「確認したいこと?」
はて?
「心当たりはない・・・という顔をなさってますね?」
一瞬、その美しい顔に憂いが走る。
「ええ。その通りですが・・・」
大変申し訳ないのですが、本当に私、心当たりがないんだよねえ・・・。
ただし、普通の条件下に限りますが・・・。
ま・さ・か。
あなたも、私と同じなわけないですよね~って、その考え自体、恐れ多いですよね~。
ハハハハ・・・・・・・。
笑ってごかかそうとした、その時である。
「チッ!」
「へ?」
え?
今の・・・もしかして、舌打ち?
え?
・・・・・・ということで、冒頭にいたる。
それから目の前の男性は、今までに聞いたことのない乱暴なる威圧的な口調で、
「オイ、お前! 見たんだろう?」
と、わたしめにむかって、言い放ちました。
「え? 一体なんのことで・・・」
「シラきんのも、大概にしろよ~? 聞いてんのか? オイ!」
さらに、脅迫めいた口調が続きますっ・・・って・・・。
「あの・・・生徒会長様? え? えええっ~~!」
目の前の彼は、いつもとは全くの別人?!
こんなにあからさまに、まるでゴミ虫でも見つめるような目つきを、私へと向けている~?
しかも、一瞬で凍ってしまうと思える程に、めっちゃ冷たい視線を浴びてます? 私・・・。
なんで~~!!
そして、見目麗しいいつもなら紳士的な微笑みと口調を、崩すことのないはずの生徒会長様は、
「はあ~~?」
という、いかにもメンドクセーと言わんばかりの口調と、ゲテモノ料理を目の前に出されたかのようなしかめっ面をした。
・・・・・・と、思ったら?
“ダーン!!”
私のすぐそばにて、大きなモノ音がした。
ええ。
だいぶん下火になりましたが、いっときはやったあの“壁ドン!”なる体制を生徒会長様は、おとりになっていらっしゃるわけで。
しかも、わたくしめごときに・・・。
そして、私から一秒たりとも視線を外さない。
キリリとした眉に、大きなアーモンド型の切れ長の目が、私の心を読み取ろうとするがごとく、
「とぼけんなよ? さっき、見てたんだろう?」
まるで悪魔の微笑みように、余裕ありげにニタリと右口角を、釣り上げてみせた。
「え? さっき? ・・・・・・」
目の前の恐怖に怯えながらも、懸命に記憶の層なるものを掘り返してみる。
頭の中では・・・・・・まあ、いわゆる摩訶不思議な光景がまるで映画でも見ているかのごとく、脳内で再生されてはいるのですが・・・。
まあ、普通の人はあんな光景、お目にかかりませんよね?
「ああそうだ! さっき保健室で・・・」
「保健室?」
アレ?
いやいやいや・・・まさか・・・ね?
そう。
私は4時間目前の休憩時間に、保健室へと行きました。
いつもの、アレが原因で。
しかも今回は、リアルにさわ・・・触ってしまったし・・・。
ということで、突然頭痛がするようになり、バファリンか何かをもらいに保健室へ。
しかし、そこは・・・。
「もしかして、保健医の伊坂先生がやつれ切った様子で、机にほおずえ付きながら外の景色を眺め、何やらブツブツとつぶやくだけで、まったくお話にならない事?」
常に胸元のはだけた服を白衣の下につけ、むちむちのエロい脚をパンツ見えそうな短い丈のスカートから惜しげもなく出している、万年発情メス・・・ではなく大人の色気ムンムンフェロモンたっぷりで、学校中の男どもを虜にしているあの伊坂先生は・・・。
なぜだか最近、保健室にひきこもり気味である。
男どもが保健室を訪ねても上の空らしい・・・とは聞いていたが、まさか頬骨もこけて目の周りが真っ黒パンダになるほどに、やつれきってしまっているとは・・・。
・・・もしかして生徒会長、伊坂先生のことが・・・。
「・・・それだけか?」
しかし。
返ってきたのは、不満マンマンな答えだった。
「じゃ、じゃあ、ベッドで横になっていた万年二位の浜本くんのこと? “うるさくて眠れない~。眠れないんだよ。許してくれよぉぉぉっ”ってうなされながら、ベッドの布団に潜っていたこと?」
同じクラスの浜本くんは、この高校に入学してから一度も生徒会長に勝てない、いわゆる“万年2位男”。
見た目は冴えないダサメガネで、背も低く運動も全くダメな、いわゆる少女漫画にあるテンプレ秀才モブキャラ的、ポジションにいらっしゃる。
いつも成績表が張り出されるたびに、信じられないと言わんばかりに頭をかき乱し、トイレに向かって疾走していくさまは、今や我が学校の風物詩になりつつある。
・・・もしかして生徒会長、浜本くんのことが・・・。
「・・・それだけか?」
しかし。
返ってきたのは、やはり、不満マンマンな答えだった。
しかもさっきよりも、トーンが低いんですけど・・・。
「じゃ、じゃあ生徒会長信者のひとりである、新川さんが“目の前が砂嵐で、愛しの生徒会長様のお姿が~”とか、“あのお姿をここ何日も拝見できないなんて、この世は地獄よ~私、生きている意味ないわ~”っって泣き叫びながら保健室ベッドの住人になってしまっていること?」
この学校には、“生徒会長親衛隊”なる少女漫画設定のようなものが、実在する。
会長はもちろん、副会長。
そして、その副会長のもとで、生徒会長にアダなすものを影で成敗する組織なるものが、存在するという。
彼女はそのリーダー的存在で、生徒会長を陰ながら守るという名目を持った、立派なストーカーだ。
生徒会長に近づくメス豚と言われる女性たちは皆、彼女を中心にトラウマになるくらいの、手痛い制裁をくらうらしい。
と、陰ながら生徒会長のファンたちに、噂されている。
その彼女は最近、目の調子が良くないとストー・・・ではなく護衛の任を休んで、保険室の住人となっている。
・・・もしかして生徒会長、新川さんのことが・・・。
「・・・それだけか?」
しかし。
返ってきたのは、またしても、不満マンマンな答えだった。
しかもさっきよりも、さらにトーンが低い上に、怒りが込められていらっしゃる?
「え? ええ、まあ・・・」
「違うだろう?」
「へ?」
「じゃあなんでお前、“ここは老人ホームかぁぁぁ~~!!”って叫びながら、保健室を飛び出して行ったんだあ~? あ~?」
って、品行方正な生徒会長様、口調がもうチンピラっぽくなっていますけど?
「そ・・・それは・・・・・・」
確かに・・・。
私は、あまりの光景にびっくりして、ついあんなはしたない大声を上げてしまったのだが・・・。
なんでソレ、この人が聞いているの?
・・・ということで、私がそう叫んだにはワケがある。
まずは、保健医の色ボケババア・・・ではなく伊坂先生の両肩には、6~7人の赤ちゃんらしき全裸の小さい子供が、“おぎゃー”と言いながら、張り付いていた。
その小さなお子様たちは、ずっと先生の耳元で泣き続けている。
それだけなら、“もしかして、水子の霊ですか?”と思ったのだが・・・。
なんと!
全員の顔がしわくちゃ垂れ目の、ヨボヨボおじいさんだった。
その同じ顔が、7体!
りっぱなホラーの出来上がり! である。
それ以上に、なんであんなちっさい年寄りが、あんな可愛らしい声で泣けるの?
というアンバランスさが、さらに不気味さをあおっている・・・そんな光景だったのだ。
「先生は今、お取り込み中なんですね・・・」
ということで、何も見えなかったことにして、ひとまずベッドに横にならせてもらおうと、ベッドに向かったその時である。
左側に設置してあるベットの上から、山の形をした布団の中から、男の子の唸り声? といいますかザンゲし続ける声が、聞こえてきたのだ。
「え? この声・・・。あの万年2位男の、浜本く~ん?」
しかし。
私はそこで、さらに驚くことになる。
「なに、あのちっさい生き物は・・・」
その山になった布団の周りに、都市伝説となっているちっさいおっさんともいえるべき、小さい生き物が2体、楽しそうにじゃれていた。
一人は、枕をラグビーボールに見立てて、布団の山にタックルしたり、サッカーボールのように山に向かって蹴ったりして楽しんでいる。
もう一人は、小さいお椀の中に、大量のあずき? なるものを入れて、それをシャカシャカと音を立てながら楽しそうに、リズミカルなダンスを踊りながら、布団の山に体当りしまくっていたのだ。
・・・しかもこの二人も・・・。
「でもどうして、二人とも落ち武者のご老人??」
白髪が2/3混じった、頭上ハゲ・・・といいますか、フラン○スコ・ザビエル? 的な髪型にしわくちゃ圧縮系なお顔立ちをして、いらっしゃる。
お肌は浅黒くて、シワとシミが全体にコラボしちゃってますけど?
なんでこんなちっさい老人が、ベッドの上で体育祭??
「な~んて、私の見間違いデスヨネ・・・・・。ハハハハハ・・・・・・」
ということで、気を取り直して反対側のベッドへと、目を向けたのだが・・・。
「え? こっちにも新たなる、ちっさな生き物?」
両手で目を抑えながら、
「見えない~! 見えないの~!」
と、ベッドの上に体育座りをしながら泣き叫ぶ新川さんの目の前には、真っ白い着物を着てナイロンのような真っ白な長い髪をなびかせながら、キャッキャウフフ・・・と、夢見る乙女のように嬉しそうにはしゃぎまくる、顔がシワでたるみきっている上に、シミだらけの老婆の姿があった。
大きさは、バレーボールくらい? の老婆は、腰に下げた大きな麻袋の中から、灰色の粉をわしずかみにして、それを新川さんの顔面めがけて、叩きつけるように投げつけているのである。
見た感じは、花咲かじいさんが枯れ木に花を咲かせようとしている・・・というよりは、節分の日に鬼に扮した旦那に、これまでの恨みを込めて豆をぶつけている奥さん・・・のようだ。
「なんなの? この保健室・・・」
ありえない大きさの、しかもかなりお年を召した方たちが、たくさんいる。
この若さあふれるはずの、高校の保健室に?
なんで?
ということで、もうお分かりですね?
こんな光景見ちゃったら、私があんな声出しちゃうのも、仕方がないと思いません?
「あいつらが見えていたから、あんなこと言ったんだろう?」
今度は自信満々の声で、しかも私の耳元で囁くように、彼はそうつぶやいた。
ちょっと!
ソレ、反則じゃございませんこと?
「え・・・・・・。 アイツら?」
「そう。オレのしもべたち」
「へ? しもべ? あんなヨボヨボのお年寄り集団を、こき使っているんですか?」
「もう何百年も、我が一族に使えているからな? 妖怪の世界も、高齢化の波が押し寄せているんだよ」
「妖怪に、高齢化ってあるんですか?」
「オレがあいつらに出会った時には、もうあんな容貌だったがな?」
「いつから、あの姿なんでしょうね?」
「オレは知らん! ちなみにあいつらは、“子泣き爺”と“枕返し”に“、あずき洗い”と“砂かけ婆”だ!」
「な、なんてポピュラーな日本妖怪の皆さんたち・・・」
ゲゲゲ・・・で、有名な皆様ではないの!
本物、初めて拝見させてもらいました!
「と、いうことで・・・。お前は見える人間だよな?」
ニタリ・・・と、まるでガキ大将が、いたずらが成功したときに見せるようなしたり顔をしてみせる、生徒会長様。
「そ・・・それは・・・」
その問に目が泳ぎまくり、何も悪いことをしていないのに、まるで指名手配犯のような気分になってしまう。
目が泳ぎまくり、そんなに暑いわけでもましてや寒いわけでもないのに、全身の毛穴から冷や汗出まくりな私。
そう。
私には、普通の人には見えないものが見えてしまう。
小さい頃から、それは時々見えていた。
が、この高校に入学してからは、なぜか学校内限定で結構見るようになり、内心困ったことになっていた。
だって私、彼らに触れられるとまるで頭を締め付けられるような頭痛に、襲われてしまうので・・・。
気分は“西遊記”の、孫悟空ですよ。
禁固で頭を締め付けられる彼の気持ち、私には痛いほどよく分かる!
「しかもお前、妖怪に触れられるとひどい頭痛を発症するようだな?」
気持ち悪いくらいに、何やら嬉しそに微笑みながら、そんなことをおっしゃる生徒会長様。
「そ、そんなことまで・・・・・・」
顔面蒼白になる・・・絶体絶命のピンチとは、正しくこのことだ。
あれですよ。
もうHPが0間近の勇者ですよ、私。
そして目の前には・・・。
HPもMPもともに9999ある余裕しゃくしゃくの魔王様が、王者たる笑みを携えて立ちはだかっておいでです。
目の前が真っ暗になり、なんだか倒れそうになった・・・そんな時である。
「聞いて喜べ! お前は今から、オレのもんだ!」
「ハイ?」
まてまて!
なんでそうなる?
この流れに一体、そういった要素がどこにあったというの?
「オレのしもべたちが見えるお前は、貴重な存在だ。よってお前はこれからずっと、俺のそばにいなければならない!」
「え? どういうこと?」
といいますか、なんでそうなるの?
「運良く、俺たちはクラスは一緒だ。よって今日から、お前は生徒会役員・・・そうだな? 生徒会長秘書として、この生徒会で働くが良い! いいな?」
「え・・・」
ありえない突然の展開に、ついていけないでいる私。
よって当然、返事などできるはずもなく・・・。
そして。
生徒会長様は、思っていた以上に気の短いお方だった。
戸惑う私の顔をのぞき込み、ムスリと不満おおありげな顔をしたかと思うと、
「もし、この提案をお前が却下した場合・・・」
突然、これまたドスの効きまくった低っくい唸り声でそうおっしゃりました。
その様子に思わず、ゴクリ・・・と喉が鳴る。
「保健室のやつらのようになるからな?」
や・・・やっぱり・・・。
それをその、爽やかなる満面の笑顔で言うの、やめてください!
「あの・・・」
「なんだ?」
「保健室の惨劇は一体・・・」
「ああ、アイツらな?」
フフフ・・・と何やら満足気な笑みを浮かべ始める魔王・・・ではなく、生徒会長様。
「伊坂はあの見た目で、俺の可愛い生徒たちを食い散らかす最低女だ。しかもオレにまで色目を使い始めたので、制裁を加えることにした」
・・・ということで、7体に分裂したミニ子泣き爺たちを取り付かせた。
彼らは、彼女が今まで秘密裏に下ろしたであろう水子たちになりすまし、取り付いている真っ最中なのだという。
耳から離れない、赤ちゃんの泣き声。
日に日に重くなっていく、体。
あと2~3日もすれば、伊坂先生は精神科に入院確定らしい。
「浜本は、勉強で俺に一回も勝てないからと、ネットで呪い代行業者なんぞに依頼しやがった。しかも俺を苦しめるためだけに、犬を使った蠱術なんか使いやがって!」
両こぶしを強く握り締め、ブルブルと震わせながら、お怒りマックスのようである。
・・・ということで、まずはやってきた犬の霊は、呪いのお仕事を達成することもなく、彼によってやさしくそして手厚く保護された。
そして現在、生徒会長の持ち駒の一つとなるべく、立派な犬神になるべく修行の真っ最中らしい。
もちろん、報復することも忘れない。
無残な殺され方をされ、犬神にさせられた犬の復讐も兼ねて、生徒会長様の持ち駒である犬神を3体、呪い代行者に送ったらしい。
もちろん、呪い業者は即発狂。
現在は精神科病棟で、闘病生活を送られているのだとか。
それらの3体の犬神は、もうすぐ浜本くんのもとへとやってくる予定なんだそうだ。
枕返しとあずき洗いは、彼らが来るまでの軽い嫌がらせのつもりらしい。
浜本くんは、今や勉強どころではない状況となった。
今度のテストは確実に、2位さえも取れないことだろう。
「新川のやつは、誰かれところかまわず噛み付きすぎだ! 忠告を兼ねて、砂かけ婆を取り付かせてやった! 少しは反省するといいんだが・・・」
・・・ということで、砂かけ婆のせいで、目が開けられない状態の彼女。
精神的にかなり参っている様子なので、もうそろそろそのお仕置きは終了の予定らしい。
「お前もあいつらのようになりたくなければ、俺の言う通りにすることだ」
・・・ということで。
私、突然“生徒会長秘書”に、なりました。
しかし。
そんな状況、当然周りはすんなりと認めてくれるはずもなく・・・。
「あんたさ~。なに調子こいてんの?」
ということで、私、生徒会長秘書になって一週間もしないうちに、屋上に呼び出されています。
しかも、つい先日まで砂かけ婆に苦しめられていたはずの、新川さんを筆頭に・・・。
十人の屈強なる・・・といいますか、嫉妬に怒り狂った女子生徒の皆さん方に取り囲まれている、真っ最中にございます。
モロ人を見下した目つきで、不満パンパンな顔で、私を睨みつけていらっしゃる皆様。
「べつに、大した顔じゃないのにね~」
「これといってなんの特徴もない平凡な顔が、タイプなのかしら?」
「背もこれといって、高くもなければ低くもなく・・・」
「平均的で、なんの特徴もないむしろ貧乳女?」
「寸胴だしね・・・」
・・・ソレ、余計なお世話です!
「勉強だって、そんなに上位じゃないでしょう?」
「確か、真ん中ぐらいのはず・・・」
・・・ええ、その通りですが何か?
「運動できたっけ?」
「え・・・、たしかそんなに良くもなく、悪くもなく・・・」
「要は全てにおいて、平均的な女・・・なわけね? この人・・・」
「・・・」
確かに!
反論の余地が、ございません!
と、わたし的には潔く、現状を受け入れているのですが・・・。
「でも、いつも生徒会長様にベッタリなのは、許せないわ!」
あ、アレ?
「この女だけ特別扱い、許されざる待遇よ!」
な、なんだか雲行きが・・・。
「よって、制裁を加えないとね~!」
めっちゃ怪しくなってんじゃん!
壁際に追い込まれた私、絶体絶命のピーンチ!
このまま、ボコボコにされちゃうの?
思わず目を強くつむってしまった、そんな時である。
「キャ!」
なぜか、女の子たちの悲鳴なるものが、突如聞こえてきたのだ。
「ま、また・・・」
「ナニコレ~?」
どうやら、戸惑っている様子。
私に暴力を振るうどころか、近づいてくる気配さえもない!
女の子達が襲いかかってくるどころか、なにやら騒ぎ出したので、そっと目を開けてみる。
・・・と・・・・・・。
「え? アレアレ??」
よく見れば、私の前には、砂かけ婆が仁王立ちになっていた。
そして、目の前の敵達=10人の女子生徒の顔めがけて、モノすっごい速さで次々と腰元の砂をかけまくっている姿があったのである。
「やだ、ステキ・・・」
そんな勇姿を見せる砂かけ婆に、思わずトクン・・・と胸が高鳴ったその時であった。
「君たち、こんなところで何をしているんだい?」
「!!!」
すぐ横のドアより、魔王さま・・・もとい、生徒会長様降臨!
「会長!」
目をこすりながらも、愛しい人の声に反応し、驚きが隠せない10人の少女たち。
対して、いつもどおりの穏やかで優しい口調の、生徒会長様は・・・。
ドアのすぐ前で、笑みを浮かべている生徒会長様は、間違いなくお怒りマックスでいらっしゃる。
だって・・・。
こころなしか、笑顔が引きつっていらっしゃいますよ?
しかも、
「ヤレ!」
小さい声で、そうつぶやいた・・・かと思うと・・・。
「キャー!」
「なになに~!」
「何が起こっているの~」
「イヤーーーーー!」
女の子たちの叫び声が、屋上いっぱいに鳴り響く。
何故かといいますと・・・。
「え・・・」
なぜか、女の子たちのパンツが次々と彼女たちから外れていき、それらは一箇所に固まったかと思うと、今度は一列にフェンスの上に並び始めたからである。
ストライプに花柄、ゼブラ柄にヒョウ柄もあれば、なぜか生徒会長の顔つきプリントパンツまでお目見え中。
って、どんだけ生徒会長が好きなの?
よく見れば、それらを手にしているのは、15cm程の緑の物体・・・。
背中に、亀の甲羅を背負っている、ちっさなしっぽが可愛らしい? 生き物。
頭のてっぺんがハゲの、“カッパ”たちの集団である。
が、女の子たちのほうを向いて、ニヤリ・・・と怪しい笑みを浮かべたかと思うと・・・。
「え?」
「キャー!」
「イヤーーーーーーー!」
女の子たちには当然、かっぱの集団は見えるはずもなく・・・。
それをいいことに、カッパたちは奪い取った戦利品=パンツの両はしをつかみ、ピョン! とフェンスから飛び降りたのだ。
まるでパンツを、パラシュートのように使って・・・。
と、いうことで・・・。
地面に落ちたパンツをめぐり、女に飢えた男どもの大乱闘。
それを止めるのに必死な教師たち。
地上はもはや、地獄絵図となりつつあった。
そして、屋上も・・・。
中が見えないように、地面にヘタリ座って、泣き叫ぶ10人の女子高生たち。
そんな彼女たちを尻目に、生徒会長は真っ直ぐに私のもとへとやってきた。
その途中、大活躍だった砂かけ婆の頭を優しく撫でながら、
「よくやったな、えらいぞ!」
と、何百年も年上の砂かけ婆をまるで少女のように扱う、生徒会長様。
砂かけ婆も、恥じらう乙女のごとく、顔を真っ赤にしてもじもじしながらも、まぶしい位の満面の笑みを浮かべ、喜んでいらっしゃる。
年はとっても、女性っていつまでも少女なのね・・・。
っていくらい、可愛らしですよ? 砂かけ婆さん!
なんて、微笑ましく砂かけ婆を見守っていたら・・・。
「お前は何をしているんだ?」
突然、低い声が私の耳元に響いた。
「え? だって・・・」
「俺のそばを離れるから、こんなつまらないことに巻き込まれるんだよ!」
明らかに、怒っていらっしゃる。
「で、でも・・・」
四六時中一緒ってわけには、いかないと思うんですけど?
今回だって、体育の準備のために女子更衣室に移動途中に、拉致されたんですけど?
と、抗議しようとした時である。
「お前は常にオレのそばにいて、オレにだけ守られていりゃいいんだよ!」
仁王立ちになり、私を指さしながら、上から目線でしかも命令口調でそう言い放つ、生徒会長様。
・・・もう、意味がわかりません。
第一、わたしを守ってくれているのはいつも、あなたの使い魔の皆様ですよね?
・・・まあそれでも一応、あなた様の命令で守ってもらっているのだから、結果オーライってところなんですか?
こうして私の平凡でなくなった学園生活は、幕を開けたのである。